34.レクイエム2
「あの……タクシー代のこと……」
真琴が口を開くと、青年は小さく苦笑した。
「私が払ってはいけませんでしたか? でも、使用人から兄に格上げしていただいたみたいですし……」
少女は赤くなって俯いた。
嘘をつくのはいやだけど、他にどんな呼び方があっただろう。
「ごめんなさい」
小声で謝ると、直己は困ったように手を振った。
「謝るのは私の方です。怖い思いもさせてしまいましたし、痛い思いも……」
頬に伸ばしかけた手を握りこんで、青年は視線を泳がせた。
こほんと一つ咳払いをして、何事もなかったように丘を登り始めた。
墓石群からかなり離れた丘のてっぺんに、二つの墓が並んでいた。
真琴は手を合わせたが、直己が捧げた薔薇の花束のせいで、墓石に刻まれた文字は見えなかった。
真琴の存在などまるっきり忘れたように、直己はいつまでもその場所に立ったまま、無言で墓を見下ろしている。
白い花びらを揺らした夕刻の風が、真琴の頬を撫で、長い髪をなびかせる。
どれだけ時が経っただろう。
真琴の小さなくしゃみに、青年ははっとしたように顔をあげ、驚いたように振り返った。
(本当に忘れられていた)
少し傷ついて目を逸らした時、青年の温もりを宿した上着が、ふわりと肩にかけられた。
いつも変わらぬ優しさに、真琴は意味もなく泣きたくなった。
「これ、兄と姉のお墓なんです」
兄姉がいたという話は初耳だった。
「こんな場所に立っているのを不思議に思ったでしょ? 実は牧師様に無理を言ったのですよ。少しでも高い場所の方が、迷わず天国に行けそうだと思って……本当に子供ですよね」
青年は笑った空を見上げた。
真琴も吊られて顔を上げると、鉛色の空が広がっていた。
聞きたいことも言いたいことも山ほどあった。
でも、不思議と言葉が出てこない。
「二人のために、もう一度、祈ってやっていただけませんか?」
やがてかけられた静かな声に、真琴はこくりとうなずいた。




