13.星々の思い4
真琴の名を呼びはしたものの、青年は困惑しているようだった。
「あの、お邪魔でした?」
「どうして? ちょうど良かった。あのね、ヒー君がね……」
「あ、そうだ!」
真琴を言葉を遮って、青年がわざとらしく声を張り上げた。
「玄関の鍵をうっかりかけ忘れていました。失礼して先に帰らせて頂きます。あの、聖さん、ご迷惑をおかけしたついでに、真琴さんを自宅まで送って差し上げて頂けませんか?」
相手の返事も待たずに、回れ右して駆け出した青年を追いかけて、少女は今にも走り出しそうだ。
それをどうにか掴まえた聖は、辛うじて体制を立て直した。
「心配しなくても元気だよ。具合が悪くなって、ひっくり返ったのは真琴の方だろ!?」
心配するより、気づいて欲しい。
傍観者でい続けることには、もう耐えられない。
「本当に気づかないの? それとも気づいているのに、気づかないふりをしているの? 僕は真琴が好きだ。初めて会った時から好きだった。いつかは気づいてくれると思っていたのに……」
真琴は表情をなくしていた。
心がこの状況を受け入れることを拒否しているのかも知れない。
「僕とは付き合えない?」
「そんなこと……」
少女の瞳がゆらゆらと揺れている。
それでも、潤みを帯びた漆黒の瞳には、確かに聖が映っていた。
「ヒー君のことは大好きだけど、付き合うなんて、考えたことなくて」
高校二年生にもなって、その答えはないだろう?
つっこみを入れたかったが、我慢した。
真琴はしっかりしているわりに幼いところがあって、そういうところも含めて好きだから、黙認する他はない。
「それに、ヒー君、すごくもてるんだよ。私となんて、全然釣り合わないと思うけど?」
トンチンカンな言葉に、困惑して相手の顔を見た。
真琴は自分を知らなすぎる。
自分を低く見積もるのも、いい加減にして欲しい。
「他の子を好きになっていたら、とっくに両思いになっている。少なくとも十年以上も思い続けたりはしない。で、返事はいつ頃もらえそう? 他に好きなやつがいるなら諦めるけど、そうじゃなければ、諦めない」
情けなさもここまでくれば、あとは開き直るしかない。
「でも、遥が……」
聖は天を仰ぎたくなった。
誰かと付き合うのに、双子の弟のことを気にすることの異常さに、真琴は全く気付いていない。
「大丈夫だよ。今より悪くは絶対にならない。むしろ彼氏ができたとおおっぴらに公言した方がうまくいく。嘘だと思うなら試してみればいい」
それ以上の説明は不要だろう。
お互い以上に大切な誰かができれば、普通の姉と弟に戻れるはずだ。
そうすれば、誰も不幸にならない。
姉と弟の絆も、壊れることはない。
「ふーん、ナイトが王子に格上げ?」
嘲るような声を聞いた時、聖は愕然と息をのんだ。
ああ今日は、とんでもない厄日に違いない。
ポツリと佇立する外灯の下。
天使のように美しい少年は、二人に向かってひらひらと手を振った。