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11.星々の思い2

稽古着姿で保健室に現れた少年は、ひそとも音とたてることなく、眠る少女を見つめている。

養護教諭が不在で心配なのはわかるけど、真剣な横顔は姫を守るナイトそのものだ。


(私たちって、おじゃま虫よね?)


所在なげに佇んでいた二人の少女は、互いに顔を見合わせ、足音を忍ばせて保健室を後にした。


「いいなあ、真琴は」


下駄箱まで来た所で、広夢はうっとりと足を止め、黄昏色の空に目を細めた。

淡い色のメイクも、きれいにカールした長い髪も、明らかに校則違反だけど、あまりにも似合っているせいか、それともこの少女が理事長に激愛されていることが学校中に知れ渡っているせいか、注意する者は誰もいない。


「だって、あの美山君だよ? 美山病院の跡取りで、顔良し、頭良し、性格良し、おまけにスポーツもできて、欠点なんかどこにもないスーパーマンなんだもの」

「欠点のない人間なんていないと思うけど?」

「そんなことないもん!」


勢いよくこちらを振り返った少女は、サクランボのような唇を尖らせた。


「雅美、今日、めちゃくちゃ機嫌悪い! 私にあたるのはともかくとして、美山君の悪口はやめてよね?! 彼は完璧なナイトなのよ。欠点なんかあるはずないじゃない!」


ぽかんと口を開けた雅美の顔が微妙に歪む。

天真爛漫なのはいいけど、この短絡的な性格は、もう少し何とかならないものか。


「広夢、あんた本当に一条遥のファンなの?」

「そうよ!」


返事はすぐに返ってきた。

ぱっと頬を染めた所から察するに、やはり本命は弟の方ようだ。


「私だって、真琴が……」

「えっ、なあに?」

「ううん、何でもない。学食で新作ケーキを食べるのはまたにしよう? 私、今からでも部活に出るから」


「ええ、そんな! そりゃあ、美山君は部活に出てたみたいだけど、基本、二年は学力テストでお休みじゃない!」と、派手に落胆してみせた少女は、次の瞬間には、すかさず交換条件を出してきた。

美山聖のケータイ番号を教えろというのだ。


「雅美が美山君のケータイに連絡したのは驚きだったけど、そういえば、美山君と雅美って、同じ剣道部だものね」


雅美の眉が無意識に吊りあがる。

この子の頭の中は一体どうなっているのだろう?

いそいそと携帯電話を取り出した友に、雅美はきっぱりと背を向けた。


ケータイ番号を聞き出すのに、どれだけ苦労したかも知らないくせに。

電話をかけるのに、どれだけドキドキしたかも知らないくせに。

稽古着姿のまま、汗まみれで現れた美山聖が、こちらを一瞥もしないで真琴を抱き上げた時、どれだけ悲しかったかも知らないくせに。


私も真琴が羨ましい。

でも、そんな風に思う自分が許せない。


真琴や広夢みたいに裕福な家の子じゃない。

真琴みたいに美人でもないし、広夢みたいに可愛くもない。

でも、だからこそ、プライドだけは、失いたくなかった。


「雅美、どうして怒ってるの?」

「怒ってなんか……」


「ひょっとして、美山君のことが好きなんじゃ……」

「まさか!」と必要以上に大声で叫んだ時、救いのチャイムが鳴りだした。


部活の残り時間はあと十五分。

「怒ってないけど、焦ってるの!」

こわばった笑顔でそれだけ言ってから、雅美は武道場に向かって駆け出した。


颯爽と駆けてゆく少女の後姿に、生徒たちが見とれている。

雅美のファンは男女ともに少なくない。

だが、前しか見ていない当の本人が、その視線に気づいたことは一度もなかった。

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