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10.星々の思い1

なぜ彼は、死ななければならなかったのか。

なぜ彼女は、死ななければならなかったのか。


この世は理不尽なことばかりだ。

二人を陥れたあの女を、地獄に突き落としてやるつもりだった。


「似てないね」


真下広夢は、顎の下で細い指を組み合わせたまま、大きな瞳をさらに大きく見開いて、真琴の顔をまじまじと凝視した。

真琴は居心地の悪い思いで曖昧に頷いた。

落とした視線の先には、広夢が家から持って来たファッション雑誌が置かれている。


今月の表紙を飾っているのは、タキシード姿の弟だった。

確かに、同じ血が流れているとは思えない。

黒いドレスをまとっ美少女に、真紅のバラを差し出す様は、ため息が出るほどエレガントだ。


「広夢、何を言ってるの? 二卵性双生児なんだから似てないのが普通なの!」

真琴の背後からにゅっと腕が伸びてきて、ファッション雑誌を取り上げた。

振り返ると、部活に行ったはずの木下雅美が立っていた。


「高校二年にもなって、そんなことも知らないの?」

「な、何よ、その言い方!」

甲高い少女の声に、放課後の喧騒がぴたりとやんだ。


真下広夢はこの学園の理事長の孫娘。

木下雅美は女子剣道部の副主将。

両者が本気でやりあえば、とんでもないことになる。


「少し勉強ができるからって偉そうに!」

「私は当たり前のことを言っただけよ。そんなことより、スポーツ特待生の私より、成績が悪いことの方が問題だと思うけど?」


女の子としての武装を完璧に固めた広夢と、髪の短いボーイッシュな雅美とは、見事な好対照をなしている。

外見的には正反対の二人だが、歯に衣着せぬもの言いだけは共通していた。


「大きなお世話! それ以上失礼なことを言ったら、おじい様にお願いして、学校にいられなくしてやるんだから!」

「はん、できるものなら、やってみれば?」

「はい、はい、そこまで!」


放課後の教室で突発的に始まった決闘は、果てしなく泥沼化するかに思えたが、真琴の鶴の一声でいとも簡単に終息した。


「ハルは母親似で私は父親似。似ていなくても双子は双子。そんなことより、雅美、今日は部活に出ないんだよね? 一緒に学食でお茶しよっか?」


真琴ににっこりと微笑まれて、二人同時に頷いた。

冷静になって周囲を見回せば、教室中の視線が自分たちに集中していることが、いたたまれなくもある。


少し奇妙な友人関係だが、三人が親友であることに変わりはない。

真下広夢は一条遥の大ファンで、私設ファンクラブの会長でもある。

木下雅美は部活に燃えるスポ根少女で、男生徒より女生徒にファンが多い。


一年の時に同じクラスになり、タイプは全く違うのに、真琴を間に挟んで、気がつけば親しくなっていた。

二年になってクラスが別々になった今も、ローテーションでそれぞれのクラスを移動しながら、一緒に昼食をとる仲だ。


「私、遥君の大ファンでしょ? 真琴と遥君が似ていたらいいなあ、なんて、ついね」


広夢は頬を染め、雅美から取り戻した雑誌を後生大事に抱きしめた。


「不毛すぎる。そんなに好きなら、本人に直接言えばいいのに」

「そんなの無理よ、ふられるに決まってるもの!」


「戦う前に負けを宣言するなんて、最悪」

「雅美、ひどいよ!」


肩を竦めた親友を、広夢は涙目でにらみつけた。


「ハルの話は、もういいじゃない」


弟の話題で二人が言い合うのはたまらない。

真琴が二人の間に割って入ると、雅美はきっぱりと首を振り、くるりと広夢に向き直った。


「直接言えないなら、手紙を書けばいいんじゃない? 一条遥の双子の姉がここにいるんだから、本人の手に渡ることだけは間違いないし、いまどきラブレターなんて珍しいから、インパクトあるかもよ」


目で同意を求められ、真琴は表情をこわばらせた。

いつの間にか、さっきまでいやがっていた広夢まで、期待に満ちた目をこちらに向けている。


真下広夢は砂糖菓子のような女の子だ。

少しわがままな所も、コケティッシュな魅力になっている。

こぼれそうに大きな瞳に涙をためれば、誰もが手を差し伸べるだろう。


(きっと遥も、例外じゃない)


「ね、真琴、ハル君、彼女、いないんだよね!? 一生のお願いだから協力してよ!」

「……私……」

続く言葉が出てこない。

さっきまで何ともなかったのに、急に気分が悪くなり、胃がきりきりと痛みだした。


(どうしたんだろう?)


睡眠不足のせいだろうか。

そんなことより、広夢は親友なんだから、協力しなくちゃ。

広夢は可愛いから、遥だって……。


「真琴、なんか、顔色悪いよ」

最後に聞こえたのは、心配そうな雅美の声だった。


「だ、大丈夫……」


苦労して笑おうとしたが、うまく笑えない。

立ち上がろうとした途端、真琴の上半身がぐらりとかしいだ。

何が起こったのか、真琴自身にもわからなかった。

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