014 エミールと歌姫
突然ですが、ぶち込みます。
少し時が遡り、天界。
神々を束ねる存在、デウスの城に1人の少女がいた。
エミールと共に夜を司り、そして、癒しの神であるその少女はルナだ。
彼女の目的は一つ。
デウスに謁見する事だ。
いや、どちらかと言うと、呼ばれた側なのだが。
その城はかなり豪華なものであったが、それでも城の主であるデウスの神の王という肩書きを飾るにしては些か物足りないものだった。
しかし、その城は迷宮に等しい。
何度か来たことのあるルナも道に迷ってしまった。
実は、ルナが前に来てから城が一部改築され、謁見の間への道が変わっていたのだ。
結論から言えば、ルナはデウスのいる謁見の間へとたどり着けたのだが、途中、ルナは耳にしてしまった。
本来なら聞くことはなかった話。
ルナが知らないうちに進められていた計画を。
故に、ルナは焦った。
天界が、いや、この世界そのものがひっくり返ってしまうと。
謁見の間に入り、一通りの挨拶を済ませた後、謁見の間で本来ならデウスから話す所を、処罰覚悟でルナは先に話し始めた。
それも、デウスの耳元まで行って。
もちろん、デウスの守護神達は止めようとしたが、それをデウスが制したのだった。
普通なら即殺されていても可笑しくないが、デウスはルナから殺気ではなく、別のものを感じ取ったのだ。
「デウス様、ご無礼をお許しください。
しかし、もう一刻の猶予もありません。」
「なんだ?」
「先ほど、私はここに来る途中、ルシファー様が他の数名の神達とデウス様に謁見し、今の傍観主義を止めて正しく進めるように人や魔族、エルフを導く事を了承して貰おうと。」
「ほぅ。それを伝えに来たのか?」
「いえ、そして、その後に、ルシファー様と別れた後、ジュース様とキュリオーがデウス様に忠実な中で戦闘力の高いルシファー様とエミールを天界から追放した後、反乱を起こすと。」
「本来、デウス様には叶うはずもありませんが、デウス様が深手を負われている今、ジュース様が向こうについては。」
「ジュースが、か。」
ジュースは時と死を司る神だ。
ジュースが強い訳では無いが、その能力がかなり厄介である。
その後、ルナは思いついた策をデウスに伝え、それを聞いたデウスは頷き、それしかないか。
と答えたのだった。
夜の国で親友の帰りを待つ1人の少女がいた。
月と夜の神エミールである。
しばらくして、彼女が待ちわびていた親友が帰ってきた。その少女はルナだった。
「どうだった?」
「もう、エミール。帰ってきたんだからお帰りくらい言っても良くない?」
「すまない、で?どうだった?」
「ん?なにが?」
エミールの問いにルナは困った。が、すぐにエミールの問いの意味が自分がデウスに謁見した事だとわかり、安心した。
「もちろん、問題ないに決まってるじゃない。
問題なく、貴女を消せるわ。」
「なっ!?」
「ふふふ、デウス様にはもう許しを頂いたわ。」
「そんなことっ!?」
「そう。そんなこと、よ。
今から私は貴女をここから消す。」
ルナの言葉にエミールはただただ呆然とし、俯いた。
「嘘、だよね?」
「さぁ。」
エミールの呟きにルナは答えなかった。
しかし、その答えは声ではなく、直接エミールの身体に突き立てられていた。
「止めてくれ!
私は、ルナ!お前と戦いたくはない!」
「私だって、親友を斬るなんてことしたくないわよ。」
「なら!」
「でも、今はやらなければならないのよ!」
エミールは迷った。
自分が本気を出せば、ルナを殺さずに倒せる。
しかし、それでも、ルナには瞬時にもたらされる死をはるかに上回る苦痛を与える事になる。
そう考えてる間にも、ルナからの攻撃は続く。
そして、エミールは決断した。
「そう。なら、勝負だ、ルナ。」
「全力で来なさい。」
エミールは戦いながらも感じた。
ルナが深層意識の中で自分と戦うことを拒んでいること。
ルナからは殺気を感じるが、何故かそれが自分に向けられていないこと。
そして、ルナであってルナでは無いこと。
「ルナ!嫌なら何故戦う!」
「私達のためよ!」
「私達?」
「私と貴女、そして、デウス様とルシファー様のためよ!」
「何故そこであの方たちが出てくる!?」
その戦いは壮絶なものとなった。
いや、むしろ、壮絶であるのが当たり前なのだろう。
何しろ、神々の戦いだ。人の行う戦争など只の遊びである。見たものはそう感じざるを得ない。
最も、間近で見て生き延びることが出来れば、の話だが。
が、癒しの神であるルナの相手は闘神エミール。どちらが戦闘において上に立つかなど考えるまでも無かった。
「で?何か言いたい事はあるか?」
「エミール。」
「なんだ?」
「これだから貴女は優し過ぎるのよ。」
「どういうい・・・・」
どういう意味だ?と言い終える前に、エミールの身体はエミールの意識から切り離された。
「お、まえの、呪術、か。」
「当たりよ。でも、私が相手だったとはいえ本気で殺しに来ている相手を殺さずに無力化するのはかなり難しい。
エミール。貴女でも相当な力を使ったはずよ。
その呪術は対象から神力を奪い取る。貴女も、夜明けまでに解呪出来ないと死んじゃうわよ?」
「な、ぜだ?」
「それは、下界で考えることね。
まあ、生きていれば、の話だけれど。」
「くっ・・・・」
「でも、一つだけヒントをあげる。
私はルナ。貴女は、し・ん・ゆ・う、よ。」
「よく、言えたものだな、覚えてい________」
天界から堕ちていく、いや、落ちていくエミールをルナは見つめていた。
エミールが見えなくなった時、ルナは言いたくても言えなかった話の続きを始めた。
「エミール、ごめんなさい。
こうするしか方法がなかったの。
貴女を、そして、この世界を守るために。
あぁ、私、馬鹿ね。」
エミールの姿を見ることは出来ないが、居るであろう空間を見つめ続ける彼女の目から、1粒の涙がこぼれ落ちた。
暫くして、未だ動かないルナに声をかけるものがいた。
「終わった、か。」
「はい。デウス様。でも、これが始まりなのでしょうね。
ルシファー様は?」
「あぁ、共に戦うと言ってくれたが、今の私たちに勝つ術はない。
やはり、お前の話通り、多くの神が向こうに着いた。まあ、本当の目的を知らないものがほとんどだろうがな。
私たちが下界を見捨てたとでも吹き込んだのだろう。
下界を救うために、下界を、この世界を我がものとしようとする者の駒となるとは。他の神たちも不幸なものだ。」
「そのために、私たちが動いているのです。」
「その通りだ。だが、本当に良かったのか?」
デウスの質問にルナは一瞬顔を曇らせるが、すぐに切り替える。
「はい。
エミールは優しいのです。
ですから、私たちを残して逃げるなんて事はしない。
例えそれが、絶望的な選択でも、その結果、自分の命を散らすかも知れないとしても。
ですから、私はエミールには生きて欲しかった。私の親友で、誰よりも優しく、誰よりも周りのことを考えられる強い子ですから。」
「そうか。
ルナ、お前は本当にどうにもならないと思うか?」
「どういう意味ですか?」
「エミールの神力が回復すれば、ルシファーが全てを伝えに行く。
そのために、私達は数少ない仲間とともに全力で時間を稼ぐ。
エミールは必ず帰ってくる。ルシファーと共にな。
あいつは“しんゆう”なのだろう?
お前の親友であり、天界の、この世界の真の英雄だ。」
「そうですね。
エミールは親友です。
信じて待ちましょう。」
2人がデウスの城に戻り、数少ない味方とともに守りを固めた。
すると、そう間を開けることなくものすごい数の軍勢が城を包囲した。
「デウス殿、貴方は選択を誤った!
故に、我らが捌いてくれる!
潔く出てくるがいい!
家臣ともどもな。」
デウスは挑発に乗らず、決めていたとおりの受け答えをする。
「家臣?
そんなもの、持っていない。
いるのは、仲間だけだ。」
「エミール殿とルシファー殿もですぞ?
いくらお2人でもこの数を相手にしては叶うまい。」
「ふん、安心せい。その2人はおらぬ。
意見してきて目障りだったからな、エミールは呪いをかけて下界に落とし、ルシファーは堕天させた。」
「なっ!?
まあ、いいだろう。自ら首を絞めたことを後悔するんだな!
私も無駄に仲間を減らしたくないのでね、あなた達が耐えきれなくなって首を洗って出てくるのを楽しみに待っていよう。」
読んでくださっている方、ありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!




