エピローグ 1
~数百年後~
シルイトが座る玉座の前に、三人の侵入者が立っていた。
彼らは皆、武器を手に取りシルイトと対峙している。
シルイトから見て右端の修道衣をきた女性は魔術用の杖を持ち、左端の筋骨隆々な男性は大きな斧を肩に担いでいる。そして、中央では黒髪に銀白色の髪が混ざったような髪色の青年が、光り輝く剣をシルイトに向けていた。
「お前はもうここまでだ!魔王!!」
「またカサベシナ教国の差し金かな」
カサベシナ教国とは、エスカメシオン王国と同じ大陸に属する国で、月とそれを支配しているティルスクエルを神とした宗教を国教としている国である。
彼らからすると、ティルスクエルを打ち負かしたシルイトは国家全体の敵なのだろう。本来であれば、エーリュシオンの皇帝と数百年前のシルイト・ウィスタームは結びつくはずがないのだが、恐らくティルスクエルが一枚かんでいる、とシルイトは考えていた。
なぜなら、教国が派遣する人材はいつもー
「ー勇者くん?」
勇者とは、異世界からやってきた堕ち人達につけられる名前の一つである。
地域によって堕ち人をどのように扱うか別れており、教国では凶悪な敵に勇敢に立ち向かう神から与えられた兵として勇者と名付けられたのだろう。一説には、大昔の堕ち人が自らをそう名乗ったとも言われているが、正しいかどうか定かではない。
無論、この場において勇者の語源についての議論は特に意味をなさない。大事なのはシルイトが魔王と呼ばれていることであり、それを打倒しようと神聖術を使いこなせる勇者が玉座の間まで到達してしまったことである。
「余裕ぶっている暇はないぞ!」
そう叫んで斬りかかろうとする勇者を、となりにいた女性が腕を引っ張ることで止める。
「何故止めた!?」
「いくら魔王と言われていても、あんな子どもを相手に殺し合いだなんて。残酷です」
「アリーン、君も聞かされていたじゃないか。どんな見た目をしていても、奴は悪魔のような非道でかつとても強い敵。人間ではないと思えと」
「ですがっ!」
「二人とも落ち着け」
二人の言い争いを斧を持った男が止めた。
「俺がさっと殺せば文句はないんだろう?」
その言葉に女性は黙ってしまう。しかし、勇者は言い返そうと口を開いた。
「そんなの駄目だ!クリガー一人にやらせるなんて出来ない!」
「お前、アリーンの気持ちを考えたことがあるのか?」
「ああ、彼女は俺の心的ストレスを考えてくれているんだろう?」
「それだけじゃない!お前らの間に子供が生まれたんだろう?その子の父親が子供殺しなんて言われて育ってほしくないんじゃないか?」
それを聞いて、勇者はハッとしたような表情を浮かべた。
「お、俺は・・」
「ほら、わかったら後ろでアリーンを守ってろ」
返事を待たずにクリガーは走り出す。
「ウォォォォォォ!!!」
しかし、皇帝は甘んじて攻撃を受けることはない。
玉座の上でファイティングポーズをとると、左腕を前に突き出す、いわゆるパンチのような仕草をした。
すると、それと連動するように玉座の後ろの壁から銀白色の握りこぶしが現れ、猛烈な勢いで迫るクリガーにヒットした。
「クッ!!」
そのままの勢いで後ろの壁へ叩きつけられるクリガー。彼はそのまま意識を失った。
「クリガー!」
「クリガーさん!」
アリーンは回復させるためか、クリガーの方へ向けて杖を掲げた。
「パーマネントバレット」
そこに、シルイトからの妨害が入る。
シルイトが右手に持つ銀白色の銃から放たれる弾丸は、永久不変の弾道を保証する。
そしてアリーンの頭へと命中しそうになったその時、勇者が剣を携えて立ちふさがった。勇者は手に持った光り輝く剣でパーマネントバレットの動きを止める。
「ふ~ん。この弾を止めるんだ」
シルイトは、勇者がパーマネントバレットを止めたことに感心しつつも驚いた様子は見せていない。
「できる、俺なら。聖剣を持った俺なら魔王を倒せるんだ。アリーン、少しの間待っていてくれ。すぐに決着をつける。クリガーはすぐに動けなくてもいいから回復優先にしてくれ」
「はい。眠っている方が回復の魔術が効きやすいですから」
その言葉を聞いたシルイトは思わずつぶやく。
「回復の魔術・・ということは」
「ええ、聖女のようですね。ますた」
聖女、その存在は最近になって現れた。
噂では神がその身に宿った人間ということになっている。もっとも、カサベシナ教国の中だけの噂なのだが。
本来は、魔術で体を癒すことはできない。魔術はエネルギーを操る力である以上、何かを再生することはできないのだ。その本来できないはずの回復を魔術に似た何かによってできるのが聖女である。ただし、聖女が使う魔術は回復させることしかできず、攻撃などに転用できない。そのため、聖女が使う魔術を奇跡と呼ぶものもいる。
シルイトとコンフィアンザが話し合っているうちに、勇者はすぐそこまで迫っていた。
シルイトは少し急いで、今度は右手をデコピンの形にして、中指を思いっきりはじいた。直後に銀白色の右手が玉座の後ろの壁から生えると勇者をデコピンしようと中指が動く。
勇者は中指を剣でガードした。金属と金属のぶつかり合いで火花が散る。だが、それも長くは続かない。勇者はひらりと横に避け、再び距離を詰め始めた。
「まったく、剣なんて前時代的な」
「しかし、ますた。地上では未だに剣が武器の主流のようですよ」
「じゃあ、ボクもこちらで主に使われている武器を使って対抗しようかな」
そう言うと、さっき使った銃を後ろに投げ捨て、着ている服の懐から新たな銃を取り出した。
今までのどの銃とも異なる外見をしているそれは、凹凸がほとんどなく、銃身は細めだ。筐体の色自体は今までと同じような銀白色で、大きさもほとんど変わらないがデザインが大きく違うせいで、今までの銃と同一どころか同じ種類ですらないとわかる。
「もう、銃ならさっきからお使いになっていたじゃないですか」
「キミもわかってるんだろう?」
「ふふ、ええ」
コンフィアンザの微笑みにシルイトもニヤリと笑って返すと、銃を勇者に向けて躊躇うことなく引き金を引いた。
銃から出てくる発砲音は、今までのどの銃とも違う音だった。その発砲音と共に銃口から赤色の光の筋がまっすぐに発射される。
「レーザービーム!?」
勇者がいた世界にもあった武器なのかもしれない、とシルイトは思った。しかし、この世界では自分が最初の使い手だという自負もあった。
このまま勇者の命を刈り取るかと思いきや、そうではなかった。
「銃口が向いている向きを見れば、銃弾なんか避けられるんだよ!」
勇者は無傷のままこちらに向かってきている。
しかし、もしも当たっていたらただでは済まなかったことは、勇者の後ろの壁にあいた穴から推測できる。城の全ての壁を貫通していたようで、小さい穴ながら、目をこらせば外の景色が見えてしまうほどだった。
「これ、エネルギー消費が激しすぎるよ」
「ルーナピストル、ですよね。やはり、異世界からエネルギーを直接供給できるようにした方が効率がいいと思います」
シルイトが使った光線銃は正式名称、ルーナピストルという。エーリュシオンに搭載されているルーナウェポンを小型化したものだ。
二人が話していた内容は、このルーナピストルに対する改善案だが、自分を殺そうとしている相手が迫っている状況下で話す内容ではない。
そのことに勇者もイラッとしたようで。
「魔王!ここからは剣の間合いだ。お前の命、刈り取らせてもらう!」
そう叫んで光り輝く剣をシルイトの首筋、肌が見えているところにめがけて思いっきり振り下ろした。
「・・へ?」
「どうしたのかな、勇者君。刈り取るんじゃないのかな?」
勇者が持つ剣は、シルイトの肌を一ミリも凹ますことなく、肌に接触した状態で止まっていた。
一瞬状況が理解できずに呆けていたものの、シルイトの言葉に再起したのか、一度後ろに戻って体勢を立て直そうとする勇者。
しかし、勇者がいくら引っ張っても剣はシルイトの肌から離れようとしない。それどころか、剣はだんだんとシルイトの肌と一体化するようになっていった。
「うぁぁぁぁ!?なんだ!?」
自らも取り込まれてしまうのでは、という危機感から、迷わず剣から手を離した勇者は大きく後ろへと飛びずさる。
「ありがとう、勇者君。金属を提供してくれて」
そう、シルイトはイシルディン変換で勇者が持つ剣をイシルディンに変換し、自らの体の構成要素の一部としたのだ。
剣がシルイトの首を切れなかったのは、ひとえにシルイトの体がイシルディンでできているからである。
「ただ、本気を出さないと何もできずに殺されちゃうよ、勇者君?」
シルイトがそう言うと、四方の壁から大量の銃座が出て来た。それらは一斉に勇者に向かって火を噴く。
「くそっ!」
勇者は悪態をつくが、そもそもシルイトはこの銃座の群れで勇者を倒そうとは考えていない。ただ、勇者が持つ能力、神聖術を使わせたいだけなのだ。
本当に滅ぼそうと思えば、地上にいる段階でルーナウェポンを放てばいいだけの話なのだから。
シルイトの予想通り、勇者は三十秒以上にわたる長い一斉射撃を耐えきったようだった。
銃撃が止むと、そこにはシルイトが以前よく作っていた銀白色の壁が球状に設置されていた。
「もしや、今回の勇者の神聖術はイシルディンを操ることもできるんでしょうか?」
「それなら、観測していた時もやってたと思うよ。たぶん、能力を発動できるのがあの範囲なんだと思う」
少しして、銀白色の壁がボロボロと崩れ去った。
中から現れたのは無傷の勇者だった。
書いてみたら意外と長くなってしまい、エピローグは二話構成となりました。
「エピローグ 2」は明日、日曜日の零時に投稿します。




