表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀白の錬金魔術師  作者: 月と胡蝶
第六章 少年編
85/87

エーリュシオンの未来

プロローグのように第一章と分けるのではなく、第六章少年編でエピローグまで完結させることにしたので、前話の後書きを修正しました。


今回は長めです。


数年後、エーリュシオン市民の一夫婦に子どもができたという情報が入った。


「ほんと?それじゃあこの前開発したのを試したいんだ」

「開発・・そういえば、ますたはここ最近堕ち人が書いた本をたくさん読んでおられましたね」

「異世界からの情報が、ボクの研究にかなり役立ったんだ」

「そして、それを赤ちゃんに使いたいということですか。招集しましょうか?」

「ううん。ボクが直接出向くよ」

「わかりました。デキシアに通知しておきます」

「うん。よろしく」


シルイトが開発した権利装置であるデキシアは、当初は本当に権利の付与剥奪や逸脱行為の監視のみの機能しかなかったのだが、実際に市民に配布するにあたってはそれだと不便だと言うことで簡単なメッセージを送受信できる機能を新たに付け加えることになった。

メッセージの送受信の仕組み自体は簡単で、地上でも高価ではあるが使われている音声伝達魔術陣をアレンジしたものを内部に搭載している。

メッセージを送りたい人は、送る先を指定した上でデキシアに向かって内容をしゃべる。受け取る側は、送信元の情報とともにメッセージ内容を音声で伝えられる。こういった仕組みとなっている。


ただし、通常は誰にでもメッセージを送れるわけではない。お互い見知った仲でなければ、相手へメッセージを送る権利を付与されないからだ。ただし、コンフィアンザとシルイトは誰にでも送ることが出来る。


メッセージの送信を終えたコンフィアンザは、シルイトの方へ向き直った。


「では参りましょうか。住居棟の十一階層にいるそうですよ」


帝国の建設はかなり進み、もう何棟かのビルはかなりの高さまで建設されている。建設が完了していない理由は、上にスペースがある限り高く伸ばし続けるという方針があるからである。

これは島の大きさが限られているのが関係しており、将来的に人口が増加してもパンクしないように考えられた方針だ。


「市民のランクごとに住む階層を変えるのもいいかもね」

「ランク・・ですか」

「収入とかね。まあ、今はいいや。出発しよう」


出発する、とはいっても城から歩いて行くことはない。

ビルを高く建設する計画を立てているため、移動の度に一階に降りる必要が無いようにシルイト達は新しい乗り物を開発することにした。

その乗り物というのが磁力で浮かび上がる磁動車と呼ばれるものである。

エーリュシオン内の随所に設置した磁石と反応して浮かぶ仕組みなため、エーリュシオンの外で浮かぶことは出来ないが、市民は基本的に帝国の外に出てはいけないので問題は無い。


発着所には、銀白色の磁動車が鎮座している。

車体は流れるようなデザインで、空気抵抗を減らす加工がなされている。

車に乗り込んだ二人は、城の発着所から発進した。

自動車に乗って数分、シルイトは苦笑いをしながら口を開いた。


「この磁動車、まだまだ改善の余地があるな」

「速度が出ませんね」


まだ開発途中の磁動車は、歩く速度より少し速い位のスピードである。

エネルギーの大半を空中に浮かぶために使用しているからだ。

しかし、シルイトは首を横に振った。


「いや、それだけじゃなくて、乗り心地がさ。大分振動がきついから」

「やはり、浮遊機構を根本的に見直す必要があると思います」

「まあ、時間はたっぷりあるわけだし、ゆっくり着実にやっていこう」

「はい」


窓から外を見ると、ちらほらではあるが磁動車に乗って移動している人がいるのが見える。

ただ、多くの人は地上を歩いているようだった。


「改善すれば、ほぼ全員が自動車に乗るようになるかな」

「そうなると思います。それに、大量のビルの超高層化が進むと地上に日の光が当たりにくくなるので、空中を移動した方が気持ちが良くなるかと」


今のビルはまだそこまで高くなく、数自体もまばらにしか建設されていない。

そんな状態なので、風を感じながら地上を歩いた方が意外と気持ちよく移動できるのだ。ちなみに、磁動車は窓は付いているものの、開けると突風が入ってくる危険があると言うことで、窓が開く構造にはなっていない。


二人は住宅棟の発着所につくと、そこで車から降りた。

発着所は全ての階層に設けられており、内部のエレベータを使わずに磁動車で階層移動することも出来るようになっている。

建物の中に入り歩くこと数分、二人は一つの扉の前にたどり着いた。


「こちらの部屋です」


そう言うと、コンフィアンザはインターホンを鳴らした。

少しして、中から扉が開く。

中から出てきたのは一人の女性だった。その女性のお腹は膨れており、妊娠しているのだとわかる。この人が母親なのだろう。

女性はシルイトの姿を認めるやいなや、恐縮したような様子になった。


「こ、これは皇帝陛下。どうぞ、中へ」


事前に通知していたためか、部屋の片付けも終わっているようだ。


「じゃあ、お言葉に甘えて」


そう言うと、シルイトとコンフィアンザは部屋の中へ入っていった。

案内されたのはリビングらしき部屋。エーリュシオンの住居に応接室はないので、必然的に一番広く過ごしやすいリビングが選ばれたようだ。

シルイト達が座ると、女性がお茶を持ってきた。


「妊婦なんだから、お茶を持ってきたりする必要はないよ」

「いえ、むしろそのような椅子しかなくて申し訳ないくらいです」


シルイトが座っているのは、一般庶民が使う普通の椅子。城の椅子とはクオリティーに大きな差がある。

しかし、シルイトは首を横に振った。


「ちゃんとした椅子だし、そんなに気にする必要は無いよ。さあ、キミも椅子に座ってくれ」

「はい。ありがとうございます」


女性が椅子に座るのをお茶を飲みながら見ていたシルイト。

椅子に座った女性は口を開いた。


「このようなところまでどのような御用事でしょうか」


シルイトは、お茶のカップを机に置くと話し出す。


「子どもが出来たことを祝おうと思ってね。生まれる前にちょっとしたおまじないをしに来たんだ」

「おまじない・・、どういった効果があるのですか?」


おまじないと言っても、シルイトが言うとただの迷信ではなくなる。


「体を少し頑丈に、そして容姿を少し美しくってところ」

「あの、いくら皇帝陛下といえど、我が子を実験動物にされるのは・・」


皇帝に意見を言うということで、非常に恐縮しながらも、ここだけは曲げられないといわんばかりに女性が言葉を発した。

それを聞いたコンフィアンザが横から口を挟む。


「これは、実験段階ではなくてすでに実用段階に入っています。今後生まれる子ども達にも同様の措置をとっていただきますので、これを拒否する場合は学校などでお子さんが他の子どもと比べてディスアドバンテージを持ってしまう危険性もあります」

「それは・・おどしですか」


やはりコンフィアンザは交渉ごとに向かない、とシルイトは思った。

ただ、シルイトとしてもこの試みは絶対に成功させたかったため、フォローに入る。


「まずは一度トライしてみない?悪い効果は無いし、後からどうしても嫌になったら効果を消すこともできるからさ」

「陛下、それは・・」


シルイトの発言に対して、思わずコンフィアンザが声を上げる。


「まあまあ」


それを、シルイトは押さえるように言葉をかぶせた。

シルイトが言った、後から効果を消せるというのは嘘である。逆に、シルイトとしては、一度このおまじないをさせれば、それを解除する気は無くなるだろうと考えていた。


「後から消せるなら・・はい、試してみます」

「よかった。それじゃあ、これがおまじないの魔術陣だから、自分でやってみて」


そう言うと、シルイトは一枚の紙を取り出した。

紙には複雑な模様の魔術陣が刻まれている。


「お腹の辺りで発動させれば良いんでしょうか?」

「うん、それでいいよ」


シルイトの言葉に頷くと、女性は魔術陣が刻まれた紙を膨らんだお腹の上に載せ、紙に魔力を込めた。すると刻まれた魔術陣が淡く光り、少しすると光が収まるのとともに魔術陣が消え、ただの紙となった。


「それは使い捨てだから、消えるのは仕様だよ」

「そうなんですか・・安心しました。えっと、この紙は」

「もうただの紙だから、捨てちゃっていいよ」

「はい」


捨てて良いと言われたものの、目の前で皇帝からもらったものをゴミ箱に入れるのは気が引けたのか、半分に折って机に置いた。


「なにか、体に不調とかはないかな?」

「感じません。むしろ、調子が良い感じです」

「それはよかった。これからも何かあったら城に連絡を入れてくれ」

「わかりました」


女性の返事に満足そうに頷いたシルイトは、コンフィアンザを連れて女性の部屋から出た。

見送ろうとした女性を、妊娠しているからと言う理由で断り、二人は磁動車に乗り込んだ。


「あの魔術陣を広めるおつもりですか?」


車内でコンフィアンザがシルイトに問いかける。

シルイトは頷いた。


「うん。ボクのもう一つの計画を進めるためにね」

「もう一つの計画、とは?」

「帝国市民を普通の人間よりも高位の人間へ進化させたいんだ」

「それは・・どうやって、いえ、何故なのでしょう?」


コンフィアンザは、どうやって人類を進化させるのかという問を取り下げた。

さっきの魔術陣がその方法であることを思い出したからだ。コンフィアンザの分析能力は、さっきの魔術陣が何かの情報を書き換えるタイプのものだと告げている。

人類を進化させるために書き換える情報となれば、それは遺伝子に他ならないだろうとコンフィアンザは考えた。

遺伝子の存在を実際に確認できた例はほとんどなく、多くが異世界からもたらされた情報によるものであるが、シルイトは独自の遺伝子研究機関を立ち上げ、一部の市民とともに優れた人間の特徴を解析していた。

コンフィアンザもその機関の存在は知っていたものの、学術的な意味しか無いと考えていたため、進化させる計画の存在を知らなかったのだ。


シルイトは、コンフィアンザの問に答えた。


「楽しそうだから」

「・・え?」

「言葉の通りだよ。どうせ寿命も掃いて捨てるほどあるし、何か目標を持って行動した方がいいでしょ。人を進化させるなんて、とても一世代では成し遂げられないだろうから、退屈も紛れるんじゃないかってね」


コンフィアンザは始めから長寿の存在として生まれてきている。

しかし、後天的に長寿となったシルイトにとっては永い時間を生きるというのは未知のことであり、無気力に行きたくないという思いが特に強かった。だからこそ、時間がかかるような目標を設定したのだろう。


「しかし、エーリュシオンにはまだまだ改善すべき点、時間がかかるような問題点が多々あります。そういったことに注力しても良いのでは」

「少なければ少ないほどすぐに終わってしまうからね。まあ、市民を強化すれば、他国から攻撃を受けても被害が少なく済むし、国力も増強できるっていう普通の目的もあるよ。お、そろそろ着きそうだ」


シルイトの言葉通り、二人を乗せた磁動車は城の発着所に到着した。

二人は車から降りて玉座の間へと歩みを進める。


「そういうことだから、この魔術陣の使用を義務化しといて」


そう言うと、シルイトは懐からさっきと同じ魔術陣が刻まれた紙を取り出した。そしてコンフィアンザへと手渡す。

コンフィアンザは、もらった紙を眺めると頷いた。


「了解しました。・・一つ質問があるのですが、よろしいでしょうか」

「うん、構わないよ」

「先ほどの女性には、体を頑丈にして、容姿を美しくするとおっしゃっていましたが、知能は向上させないのでしょうか」


国力を増強させる上で、市民の知能を向上させるのは非常に重要である。知能が向上することで、より早い技術開発を行うことができるし、それによって軍事力、経済力ともに向上させることが出来るからだ。

シルイトは、コンフィアンザの質問にもっともだと言わんばかりに頷いた。


「ボクの計画では、イシルディンの作成技術みたいな大事な錬魔術は一般に広めないことにしてるんだ。そうすることで中央の力が揺るぐことがなくなるからね。つまり、知能を強化された市民が自分で高い技術レベルの錬魔術を発明出来ないようにするべきだっていうこと。長寿化させないのも似たような理由だよ」

「なるほど、そうでしたか」


進化といっても様々な種類がある。

例えば、空を飛べるように翼を生やしてみたり、足の速さを速くするために足の筋肉が付きやすくしたり、賢くなるように知能を高くすることもできるだろう。


逆に言えば、すべての面で向上させずとも進化と言えるということだ。


「一応説明しとくと、その魔術陣には二つの書き換え項目があるんだ。一つは容姿。顔は美形でスタイルは良くって感じ。結構大変だったんだよこれ。男女で微妙に違うのをどうやって一つの魔術陣にまとめるかとか、親と全く似てないのはだめだからその辺りの調整をどうするかとかね」


そこで一息ついたが、すぐに話を再開した。


「何世代も経て最終的に美形になればいいんだから、一世代分の変化はあえて変化は小さめにしたんだ。それと、もう一つの書き換え項目は体の頑丈さ。こっちも急な変化は体にも良くないだろうと思って小さめにしたけど、最終的には小から中程度の威力の単発銃程度は生身で防げるくらいにしたいんだ」


シルイトは書き換え項目が二つあると言っていたが、顔の造形とスタイルは実質二つに分けて考えても良いくらい複雑なものだろう。

シルイトの饒舌な説明からは、彼がこの計画に傾ける熱意がうかがえる。


「わかってもらえた?」

「はい。教育と併せてこの魔術陣を義務化します」

「よろしく」



シルイト主導の下、始動したエーリュシオンはまだまだ発展途上である。しかし、その技術的ポテンシャルは非常に高い。きっと世界で一番の国になるはずだ。

国を大きくする以外にも、シルイトにはやりたいことがたくさんあった。その一つは外の大陸の探査である。旧アポストルズメンバーからの情報により大体のことはわかるが、詳細については、自分で見た方が確実だ。もしかしたら、錬魔術の発展に貢献する情報が得られるかもしれない。




シルイトは、自分がこれから生きるであろう数百年間に思いをはせて空を仰いだ。

しかし、シルイトが今いる場所は室内。青い空を見ることは出来ない。

それは、エーリュシオンが今後歩んでいく姿を暗示しているように見えた。

補足:魔術陣と言っていますが、錬金術の技術で得られた情報を元に魔術陣を作っているので、錬金魔術です。


この回がほとんどエンディングのようなものです。そしてエピローグはほとんど続編への伏線と自分が書いてみたいという欲求から来ています。


ただし、ここまで続編の存在を匂わせていますが、実際の投稿開始日は未定です。

第二章の途中までは書き終えてまして、三、四章くらいまでは話の構成も考えてあるのですが、書く気力と完結させる自信が無いので、未定としています。


エピローグは来週の土曜日、零時に投稿する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ