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銀白の錬金魔術師  作者: 月と胡蝶
第五章 決戦編
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決戦 その3

短めです。


~シルイト視点~


俺を潰そうとしてくる腕を見てみると、青白い死人のような肌に、鎖のような腕輪をしていることがわかった。


「まずい!」


イシルディンの容量は残り少ないが、そんなことを言っている暇はない。

こちらも巨大な手を創り出して、潰してこようとするアヴァライスの手を食い止める。

しかし、そこでアヴァライスが思わぬ行動を取った。


イシルディンで出来た手をつかむと、潰すのとは逆に持って行こうとしたのだ。

潰されないようにはしていたが、持って行かれることは想定外だったために出来ることは少ない。

もう持って行かれることは避けられそうにないので、温度変化の特殊効果を付与させて高温に設定することで、せめてダメージを与えようと俺は考えた。


アヴァライスの手が触れているところからはシューシューという音とともに白煙が上がっている。

おそらく肌が焼けたことによるものだろうが、意に介した様子もなく持って行こうとしている。


そんなやりとりを続けている間に本体のほとんどが魔術陣の外に出てきてしまった。

見た目は巨人そのものである。ただ、よく見るとカラスのような黒い羽が体を覆っている。肌が露出しているのは腕だけのようだ。また、毛で覆われた尻尾も生えている。


そんなアヴァライスは先ほど俺から奪い取ったイシルディンの手をしげしげと見ながら満足げな表情(?)を浮かべている。

しかし、俺がやっていたようにイシルディンを動かすことが出来ないことが分かり地団駄を踏んだ。


「迷惑すぎるだろ、こいつ」

「ちょっとわがままなだけじゃ」


わがままだろうが何だろうが迷惑なことに変わりは無い。

実際、アヴァライスはイシルディンの手が動かなかったことに怒ってこちらに向かってきている。

完全に逆恨みじゃないか。


グーパンで殴ろうとしてくるアヴァライス。

またイシルディンの手で防御して奪われてはたまったものではないのでおとなしく回避することにした。

しかしこいつ、体のデカさの割に動きがかなり速い。ギリギリで避けることは出来たものの、事前に身構えていなければ躱すことは出来ないだろう。


紙一重で躱し、ほっとしたのも束の間、アヴァライスが手を開き俺を握りしめるように捕まえてきた。

相変わらずの素早い動きに対応することが出来なかった俺は、アヴァライスの手の中に閉じ込められてしまう。


【拠点防衛錬金魔術、ユグドラシルを緊急展開します】


想像だが、アヴァライスが俺を握りつぶそうとしたのだろう。

腰につけた集合球体から自動的にイシルディンが供給され、体の周りに壁が作られた。

壁となっているイシルディンには硬質化の特殊効果が付与されている。


そのまま上へと抜け出して脱出を試みたのだが、周りが暗くなったため思わず上を見た。


「おいおい、マジかよ!」


そのまま握りつぶすことが出来ないと分かったためか、今度は親指を使って上から押しつぶそうとした来たのである。


【拠点防衛錬金魔術、ユグドラシルを緊急展開します】


間髪入れずにイシルディンが動いていき今度は上にも壁を作ろうとしている。


そこで俺はあることに気付いてしまった。

このままだと死にはしないが脱出することも出来ないかもしれないのだ。

すでに横方向の周りは全てイシルディンで固められている。そこから上面までイシルディンで塞がれてしまえば、アヴァライスが自分から手を開いてくれない限りは中からどうすることも出来ない。

第一に、外の様子をうかがうことができなくなってしまう。


そうなると俺にもう勝ち目はない。

餓死するか、あるいは壁が四方に作られたことによる窒息死と言うことも考えられる。


今この瞬間に脱出するというのが一番いいだろう。ユグドラシルを止めて。

ユグドラシルの設計理念は、俺がいないときにウィスターム邸が襲撃されたとしても、自動的に防衛できるシステムを作ることである。

それを個人にも応用しているのが今展開されているものだ。


つまり、何が言いたいのかというと、自分の意思でユグドラシルを解除することは出来ないと言うことだ。

ウィスターム邸にある本体に直接アクセスしない限りはオフに出来ないようになっている。

では上に壁を作られないようにするにはどうしたらいいのかというと、ユグドラシルが扱う魔力より多くのの魔力を使ってイシルディンを封じ込めなければならない。


時間はほとんどない。なけなしの魔力を使ってローブに慣性制御の特殊効果を付与する。

それと同時に動き始めているイシルディンにも魔力を通わせ動きを止めた。

ユグドラシル側が、魔力によってイシルディンの動きが止められたのを検知したのだろう、さらに多くの魔力がつぎ込まれているのがわかる。俺も負けじと注ぎ込む魔力量を増やすが、このままでは俺の魔力がつきてしまう。

半ば逃げ出すようにして、上空に向けて加速した。しかし、わずかながら遅かった。


体の半分近くが抜け出したとき、背中を潰すようにアヴァライスの親指が迫ってきたのだ。

そして、背中をがっちりと親指で押さえられてしまった。

簡単に抜け出すことも出来ない。


「最後の最後で判断を誤ったようじゃの。もう一体出す必要も無いとは」


ティルスクエルの言い方からすれば、後一体で打ち止めだったらしい。


「ちく・・しょう」


最期の抵抗とばかりにユグドラシルがイシルディンで体の側面を覆っているが、恐らくそれでは止められない。

親指からの圧力はどんどん増していく。やがて背骨や肋骨など、骨が軋むような音が聞こえ始めた。


このまま圧死するのか・・俺は?

数秒後、俺の視界は真っ暗になった。

忙しすぎて書く暇が無い・・。


次回は来週の土曜日の零時に投稿したいです。

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