決戦 その2
~シルイト視点~
「いきなり何をするのじゃ!?」
オオカミのような頭は、魔術陣から現れた瞬間に俺のルクスリスによって穴だらけとなっていく。
頭だけであれば生体障壁が展開されないのか、あるいはルクスリスが生体障壁を貫通するだけの威力を持っているのか。どちらにせよ、エンレヴィアに大きなダメージを与えていることに変わりは無い。
ティルスクエルもそれがわかって大声を上げたのだろう。
だが、最初に攻撃を仕掛けてきたのは向こうで、こっちに非はないので無視をする。
かつて無いほど長時間ルクスリスを連続で撃ち続けているのだが、弾の加速による摩擦熱で人差し指周辺の空気がかなりの高温になっている。
一応、連続発射時に熱がたまらないように工夫はしてある。ルクスリスは弾丸として微少なイシルディンの粒子に特殊効果として帯電化を付与して使っているのだが、指先で圧縮する際に一時的に熱量変化を付与させて冷却させているのだ。
そのおかげで、普通の撃ち方をしていれば熱くなることはないのだが、間髪入れずに撃てば完全に冷却されずに加算的に熱がたまってしまう。
「あっちぃ!」
右手の人差し指は熱くなりすぎて危険な状態だ。ルクスリスの発動を止めると同時に左手の人差し指を前に出してルクスリスを撃ち始める。
相変わらずエンレヴィアの召喚は続いていて、オオカミのような顔に蛇のような体毛のない体をしたキメラであるとわかる。
その体も魔術陣から出てきた瞬間にルクスリスで穴だらけにしていく。
やがて召喚が終わって全身が現れた頃にはエンレヴィアは体中穴だらけで絶命していた。
「な、なんてことを」
「まあ、あんなにゆっくり登場するなんて、攻撃してくださいって言ってるようなもんだからな」
「サーフェイト、やるのじゃ!」
ティルスクエルが突然叫んだかと思えば、その後は何の反応もなくしんと静まりかえっている。気まずいんだが。
だが、変化はその後すぐに起こった。
エンレヴィアの死体がボロボロと崩れ始めたのだ。
もともと穴だらけということもあって崩れても不思議ではないが、そのスピードが尋常でなく速い。
俺は一瞬疑問に思ったが、すぐに何が起こっているか把握した。
「これ、全部虫か!?」
ハエのような小さな虫がエンレヴィアの死体を食い散らかしているのだ。
最初に死体が崩れはじめてからほとんど時間が経っていないのにもかかわらず、もう無くなりそうである。
「サーフェイトは見ての通りどんなものでも高速で食べることが出来る」
確かに、いくらルクスリスでボロボロになっていたといっても神獣レベルの生物の体を食い散らかすことが出来るのは並大抵の能力ではない。
どんなものでも食べることが出来るというのは決して誇張ではないだろう。
ただし、イシルディンも食べることが出来るかどうかは定かではない。
試してみるのがいいだろう。
イシルディンの集合球体はまだ50パーセント程度の残量がある。
とりあえずはイシルディンでサーフェイトを捕らえてみよう。
イシルディンを巨大な手の形に変形させて、サーフェイトの群れの方へ向かわせる。
サーフェイトは気がついていないのか、まだエンレヴィアの死体に食らいついている。イシルディンの手は、食らいついているサーフェイトごと、エンレヴィアの死体をつかんだ。
そして、イシルディンをさらに変形させてサーフェイトが逃げないように密閉していく。
それと同時に熱量変化の特殊効果を付与させて、高温状態にして中にいるサーフェイトが焼けるくらいに温度を上げていく。
ダメ押しとばかりにさらにイシルディンを変形させて、内部の空間を圧縮していく。これで中にいるサーフェイトは絶命するだろう。
圧縮も終わったので、箱はそのままに放置しておく。もし内部で生きていても、イシルディンの箱を元の集合球体に戻さなければ害を為すことはないだろう。
よしんばイシルディンを食べることも出来たとすれば、それはそれで貴重な情報を得ることが出来るので問題ない。
「案外あっけなかったな」
「もしかして、もう終わったとでも思っているのか?」
やっぱりサーフェイトは金属も食べることが出来るのか。
そう思ったのもつかの間、突然頭の中で例のナレーションが聞こえた。
【拠点防衛錬金魔術、ユグドラシルを緊急展開します】
すると、自動的にローブのイシルディン繊維に慣性制御が付与されて、体が左側へと引っ張られる。
直後、後ろから大量のサーフェイトが体をかすめて飛んでいった。
「なんとか無事だったか・・?」
「何を言っておる?右腕を見てみよ」
そう言われても、ティルスクエルの右腕には異常はなさそうだ。
「わらわのではない。汝の右腕じゃ」
「何を言って・・俺の右腕がない!?」
肩の少し先から腕が完全に消えてしまっている。サーフェイトは俺の右腕を見事に喰われてしまったようだ。
ローブごと無くなっているので、サーフェイトがイシルディンも喰うことが出来ることが今はっきりした。
俺が腕を喰われたことに気付かなかったのは、傷口にユグドラシルの効果で自動的にイシルディンかあてがわれて止血されていたのと、鎮痛剤も併せて自動的に投与されていたからだろう。
「おや、どんな攻撃でも防げるというわけではないようじゃな」
ユグドラシルは、今ある装備で出来る最善の方法を自動でとってくれるという効果を持つ。
イシルディンでは防ぎきれない可能性まで考慮したのか、はたまた体全体を瞬時に覆うことができないと判断したからなのか、どちらにせよ、ユグドラシルの考えでは今の装備でサーフェイトの攻撃を防ぐことは出来ないらしい。
右腕のことはとりあえず考えないことにしよう。この戦闘で生き残れるかがまず分からないからな。
サーフェイトは虫にちかい。一匹だけではたいした攻撃能力を持たないが、大量に群れるとそうもいかなくなる。
だが、幸いなことに無敵というわけではない。
イシルディンを喰い破れるはずのサーフェイトは、さっき捕獲したイシルディンの箱から出ることが出来ていないのだ。
つまり、高温に対する適応がないか、圧迫に対する適応がないか、あるいはその両方がサーフェイトの弱点ということだ。
集合球体からかなりのイシルディンが放出されてしまうことになるが、仕方ないだろう。
作戦は決まった。
部屋のほぼ真ん中に立っていた俺は、とりあえずティルスクエルが座る椅子に向かって走り出した。
「何をするかと思えば・・単調じゃな。失望したぞ。わらわの衣服にもサーフェイトが紛れさせおる。体に触れれば汝は・・」
ティルスクエルがごちゃごちゃとわめいているがそんなことは関係ない。
確かにあいつを攻撃しなければ終わらないかもしれないが、サーフェイトに襲われれば先にこちらが死んでしまう。
数秒後、俺は壁にたどり着いて手をついた。そして、一気にイシルディンを部屋全体に張り巡らせていく。
イシルディンでサーフェイトを捕らえて加熱&圧縮をすればいいのならば、同じことをこの巨大な部屋単位でやればいいだけのこと。問題があるとすればイシルディンの残りと、俺の残存魔力量くらいだろう。
まあなんとかなるさ。
ローブには認識阻害の効果を付与させて、少しでもサーフェイトの攻撃を受けないように息を潜める。
部屋の半分ほどまでイシルディンで覆った頃、やっとぶつぶつとわめいていたティルスクエルが我に返ったようで、今度は別の意味でわめき始めた。
「へ、部屋の様子が変わっておるぞ!?おい銀ローブ!どこに行ったのじゃ!」
戦闘スキルは本当に持っていないようで、ローブに認識阻害効果を付与させただけの俺の居場所を認識できていないようだ。
本来であれば物陰に潜伏しながらでないと効果を発揮しないというのに・・。
まあ、こちらとしては良い兆候だ。
このまま部屋全体を覆ってしまおう。
結局何事もなく覆うことが出来た。
俺の腕を食いちぎったサーフェイト達はどこに消えたのかと思ったが、おそらく全てティルスクエルの衣服に紛れているのだろう。自分で言ってたし。
ここからが正念場だ。
部屋全体を覆ったイシルディンを加熱させながら急速に圧縮させていく。
俺はと言うと、早い段階で人一人分の大きさの穴を作ってそこから箱の外に脱出した。もちろん穴はすぐに閉めている。
恐らく中ではティルスクエルが相変わらずわめいているのだろうが、そんなことは関係ない。
さっき攻撃したときに無傷で復元されていたことだし、どうせ圧縮して殺しても、何事もなかったかのように戻ってくるだろう。
死んだら死んだでもいいが、生きていれば様々なことを(力尽くで)聞き出すことが出来る。
ものの数秒も経たずにイシルディンの箱は圧縮されていき、最初の箱と同様のサイズにまで小さくなった。
確認のために箱が鎮座されている部屋の中央まで歩いて行く。
「これで、終わりかな」
「まだ終わったと思われては困るな」
後ろから声が聞こえた。
振り向くと、そこには無傷のティルスクエルが立っている。
「不死身か?いや、薄くなっているような・・?」
なんとなくだが、向こうが透けて見えるようなそんな感じだ。今までは確かに実体があるように見えた。
もしかすると、再生することは出来るが、怪我の度合いによって再現率が変わるのかもしれない。
「何のことだかわからんな」
すっとぼけを続けるティルスクエル。だがこのままいけば俺が勝つ可能性も見えてきた。
部屋全体を覆うイシルディンは容量的にもう使えないが、ルクスリス程度なら何発でも撃てる。魔力も何とか二、三割程度は残っている。節約していけば何とかなるだろう。
すると、またしても部屋に魔術陣が浮かび上がった。
「アヴァライスよ、力の限りを尽くせ」
その言葉とともに魔術陣から巨大な腕が飛び出し、俺を潰そうとしてきた。
今度は巨人か!
次回は来週の土曜日、零時に投稿します。




