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銀白の錬金魔術師  作者: 月と胡蝶
第五章 決戦編
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決戦 その1


~シルイト視点~


サーヒュアリーは召喚されると二本足で立ち上がり、こちらを睥睨している。

あまりに圧倒的な姿に思わずひるんでしまった。本来ならば、召喚されている最中にルクスリスを大量に浴びせるのが有効だろう。


ただ、先手必勝に変わりは無い。

冷静に相手の行動を観察すると言う手もあるが、サーヒュアリーを倒せば終わりでは恐らくないだろう。消耗を極力抑えて倒しておきたい。


銃を取り出す。

弾丸はいつもと違うが、イシルディンであれば弾を変形させて溝を作ることが出来る。

つまり、魔術陣の形に溝を作れば擬似的なパーマネントバレットを放つことが出来るのだ。

ルクスリスを使わない理由は、この即席パーマネントバレットの実地試験をしたかったからである。体が大きいものは必ず動きが遅くなるので、溝を掘る時間を作りやすい。


溝を作るために必要な時間は大体十秒。その間は牽制としてイシルディンを硬質化させてとがらせた状態でサーヒュアリーへと伸ばしていく。


だが、ある意味予想通り、硬質化させただけのイシルディンはサーヒュアリーの皮膚に届くことなく生態障壁に阻まれて動きが止まった。

ティルスクエルに神獣と呼ばれていたことからもしやとは思ったが、やはり生態障壁は常時展開しているようだ。


サーヒュアリーも反撃と言わんばかりに動き始める。

片足を大きく上に上げると思いっきり地面を踏みならした。


「っと」


片足を上に上げた段階で、地面を踏みならす位しか考えられなかったから、即座にローブに慣性制御の特殊効果を付与させて空中に逃げる。


サーヒュアリーの足が地面についたと同時に、轟音とともに地面が波打つように揺れる。だが、俺には届かない。


そうこうしているうちに俺のパーマネントバレットの準備も完了した。


「パーマネント」


殺気には反応しないようだ。だが、俺のパーマネントバレットは確かに生態障壁を突き破ってサーヒュアリーの体を貫通した。

どうやらパーマネントバレットは通用するらしい。

しかし、穴が開いたと言っても巨大な体のうちのほんの一部なのでたいしたダメージにはならないようだ。

それでもサーヒュアリーの体表と俺の腰についているイシルディンの集合球体との間にパスができたから、これを経由して大量のイシルディンを向こうに送り込むことが出来るようになる。


すると、そのときサーヒュアリーが口を大きく開けて天を仰いだ。

直後、顔をこちらに向けて炎を吐き始めた。


「本当に生物かよ!?」


普通のドラゴンは炎なんか吐かない。ほとんどの個体は移動手段として人間に力を貸してくれるだけだ。攻撃してくる危険指定の個体も、せいぜいが噛みつきや引っ掻く攻撃程度である。体内から炎を出すなんて内臓が熱でやられて自滅するだけで、生物学的にありえない。

だからこそ、目の前の怪物が錬金魔術でつくられたものだという証明になるのだが。


吐き出される炎の大きさから、とても避けることはできないすぐにわかる。

しょうがないのでイシルディンで身を包んで耐えるしかない。

自分の周りに立方体状にイシルディンを展開したあと、熱量変化の特殊効果を付与させてイシルディンの温度を極限まで下げていく。周囲の水蒸気が冷やされて水滴ができはじめたとき、サーヒュアリーの炎が壁に直撃したようで、立方体が振動を始めた。


「さすがに耐えられそうだ」


十秒ほど経ち、振動も止まったが、箱の内部にまで熱が伝播してきていた。

わざわざ熱量変化で冷却させていたにもかかわらずだから、サーヒュアリーが吐く炎の熱量がうかがい知れるというものだ。

さっき放った弾丸によるイシルディンのパスも恐らく溶け落ちてしまっているだろう。


・・まてよ。ティルスクエルは今何をしているんだ?


見てみると、偉そうな態度で部屋の端に設置されていた椅子に座って観戦している。

躊躇無く俺は銃口をティルスクエルに向けて引き金を引いた。


「パーマネントバレット」


銃弾にはすでに溝が掘ってある。パーマネントバレットは間違いなく発動するだろう。

俺が銃を向けているのを見て、そこで初めてティルスクエルが動き出した。そのせいで弾がヒットしない。

ティルスクエルは迷い無くサーヒュアリーの元へと走って行くと、軽く跳躍してサーヒュアリーの首筋へと昇る。俺も銃弾で牽制したが、すぐに体がサーヒュアリーの中に入り込むような形で消えていった。


「どうなってる」


思わず呟くと、中からティルスクエルの声が聞こえた。


「言ったじゃろう?これは兵器だと」


自律行動も出来れば、中で操縦することも出来る兵器ってことか。どちらにせよ、中に入ってしまったのならサーヒュアリーを倒して引きずり出すしか選択肢はない。

炎攻撃がどれくらいの頻度で行われるかわからない以上は、炎攻撃されないうちに接近しておかなければならない。近づくことさえ出来れば自身にもダメージが入りそうな炎攻撃はしてこないだろう。


「うぉおおお!」


自分を勇気づけるために大声を上げながら前へと走っていく。

右上からサーヒュアリーの手が攻撃しようと近づいてくる。それを左に飛んで躱しつつ前へとただ走る。

次は左上からだ。そういった攻撃を躱しているうちに俺はあることに気がついた。


「このサーヒュアリーって遠距離攻撃用の兵器だったんじゃないか?」


もし遠くから炎攻撃をされたら万の兵でもなすすべ無くやられることになるだろう。だが、接近さえしてしまえば攻撃頻度も遅く、やられる可能性は低い。

俺はサーヒュアリーの下に潜り込むと、上に向かってとがらせたイシルディンを突き刺した。

すぐに生体障壁にぶつかって勢いが止まるが、ぶつかっている場所にパーマネントバレットを撃ち込んで穴を開ける。

すると、あいた穴が亀裂が入るようにどんどん広がっていき、イシルディンが完全に貫通した。


生態障壁を突破したイシルディンをサーヒュアリーの腹部に向かって加速させていく。

ダメ押しにパーマネントバレットを撃ち込んでイシルディンが貫通しやすいようにする。

俺の予想通り、イシルディンはサーヒュアリーの体を穿った。


「ガァァァアア!!」


痛みからか首を大きく振って暴れ回っている。


「少し落ち着けっ!!ああ、もう。わらわの快適性が損なわれるであろ!?」


どうやら、中にいるティルスクエルもサーヒュアリーの首と同じように揺さぶられているらしい。自業自得だ。

少しすると、イシルディンで穿ったところからボロボロと崩れるようにサーヒュアリーの体が崩壊していく。死に方も通常の生物とは違うようだ。

それに伴ってティルスクエルも中から出てきた。


「先に行っておくが、これで終わりではないぞ!!」

「ああ、そうかい」


俺は迷い無くティルスクエルに向けてルクスリスを放った。

通常の弾丸程度の速度だと、発射時に正確に狙いを定めていても対象に移動されると命中率が下がってしまう。

その点、ルクスリスは発射とほぼ同じタイミングで命中するので、対象が動いていても命中率はあまり変わらない。

頭を打ち抜いては情報を聞き出すことも出来ないので、初めに足を撃って移動能力を削ぐことにした。


ルクスリスは正しく発動され、ティルスクエルの右脚に命中したはずだった。


「痛いっっ!!」


慣れない痛みからなのか倒れるティルスクエル。

しかし、瞬きをすると、いつの間にか五体満足な状態で普通の表情をしながら立っている。


「どうした?まるで幽霊でも見るような顔をして」

「いや、今、お前」


体を急速に治して起き上がるくらいならまだ想定内だ。だが、今の現象はそんなものではなかった。時間を巻き戻すかのように数瞬前の位置に戻っていた。


「そんな状態ではすぐ死んでしまうぞ。ほれ」


すると再び部屋に魔術陣が浮かび上がる。

獣のような頭が最初に見え始めた。


「エンレヴィアだ」


今度こそ、俺はひるむことなく大量のルクスリスをその頭に撃ち込んだ。

次回は来週の土曜日、零時に投稿します。

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