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銀白の錬金魔術師  作者: 月と胡蝶
第五章 決戦編
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対ボモラ戦 3



現れた効果は空気への運動エネルギーの付与。普通の人間が行使すれば、ただの風が生まれるだけの魔術だが、人間よりも頭が良く回るコンフィアンザが行使すると話は変わる。

上から押されて下へと移動する空気は、通常ならば横に逃げてしまうのだが、コンフィアンザは同時に複数の魔術を使うことで横に逃がさず、まるで一枚の空気の板のようになるのである。


コンフィアンザの右手が降ろされていくのに合わせて空気ごとボモラが上から圧迫される。


魔術師であれば、その緻密なコントロールに驚愕してもおかしくないレベルの魔術が行使されているのだが、あいにくとそんなものはまるで知らないボモラからすると、予想外に強力な魔術が行使されてびっくりした程度のものである。

そのため、魔術をくらいながらもボモラの戦意がなくなることはない。


「そんなもので動きを封じたつもりか?普通の人間ならばともかく、オートマタとなった今の俺はまだまだ動けるぞ」

「でも、動き自体は鈍くなるでしょう?」


コンフィアンザの言葉のすぐ後、シルイトが拳銃から銀白色の弾丸を放った。

通常の弾丸とは違い、後ろから銀白色の線が伸びており、銃口とつながっている。


弾丸はそのまま動きが鈍っているボモラに命中した。

しかし、貫通はせずにボモラの体表で止まったまま動かない。


「ふん、所詮その程度の技術力か。魔術の片手間で錬金術たる銃を使おうなどとうぬぼれるな!お前の弾では俺の体を貫くことは出来ない」

「貫くつもりなんて無いよ。ほら」

「何をバカなことを・・!?」


シルイトが放った弾丸は、確かにボモラの装甲に阻まれて止まっている。だが、それで終わりではない。

弾丸の後ろにくっついていた銀白色の線は、拳銃を経由してシルイトの腰にあるイシルディンの集合球体に繋がっているのだ。

この集合球体から銀白色の線を通じて供給されるイシルディンが、ボモラの体を覆い始めている。


「まさか、さっきと同じ方法で!?だが、あれは近距離でないと使えないはずじゃあ・・」

「弱点が分かっていれば、それを補強するのは当たり前だろう?」


シルイトはこの戦いにおいて、いつも使っていた銃は持ってきていない。

そもそも、普通の銃弾もダメージが局所的になるので、銃を使うタイミングではルクスリスを使えば良いのだ。ボモラの魔力消去によって魔力が必要な攻撃が出来なくなった場合は、コンフィアンザの銃を頼ることになっていた。

今回、シルイトが持ってきた銃はイシルディン製の銃弾を発射する。発射された銃弾はイシルディンのひもで繋がれ、そのひもを経由して命中した対象をイシルディンで覆い尽くすことが可能だ。


イシルディンの魔力吸収は非常に強力である。どんどんイシルディンを継ぎ足して、イシルディン内の魔力を飽和させないようにすれば、擬似的な魔力消去ともいえる効果を発揮する。

しかし、ボモラが言っていたように、この戦法は相手にイシルディンをくっつけられるまで近づく必要があった。

それを補うのが、今回シルイトが持ってきた銃なのだ。



ボモラの体はどんどんイシルディンに包まれていく。

それと同時にイシルディンに魔力吸収の特殊効果が付与された。


「くっ、俺はまだ負けない!!」


ボモラは叫ぶと、シルイトの方へまだイシルディンに覆われていない右腕を向けた。

すると、ボモラから右腕が発射される。

ボモラの右腕は、シルイトを絞め殺さんと飛んでゆく。しかし、シルイトは少しも慌てなかった。


【拠点防衛錬金魔術、ユグドラシルを緊急展開します】


相変わらずのコンフィアンザの声で脳内ナレーションが流れた後、腰につけた集合球体からイシルディンが自動的に飛び出し壁を形成した。


「くそっ」

「お前の敗因は俺を侮ったことだ。大方、他のすべてのオートマタは俺の家に向かっているんだろうが、何も言ってこないところを見るとまだ攻略できていないようだな」

「どう・・やったん・・・だ」

「単純な話、向こうに俺の別の仲間がいるってだけだ」

「ますたの戦術の勝利です」


どうやら、コンフィアンザはボモラがシルイトを見下していると聞いて、少しムッとしたようだった。

だから、シルイトを慰めるように横から口を挟んだのだろう。


「ああ、ありがとうよ、フィアン。ところで、この建物に他のオートマタはいたかい?」

「いえ、調べましたが、私の認知能力下では発見できませんでした」


コンフィアンザが意識して調べた上で発見できなかったということは、もうこの近辺にオートマタはいないということだ。

そして、オートマタがもういないと言うことは、ボモラの次の体はもう無いということにつながる。少なくともシルイト達の近くには。


「勝負あったな。とどめを刺させてもらう」


人間の時と違い、オートマタは動力のすべてにおいて魔力を補助のために使っているので、すべての魔力を吸収されると動くことはおろか、しゃべることも出来なくなる。ボモラはうつろな目でただ地面を見つめるだけだった。


とどめを刺すと言っても、前のボモラのように頭を撃ち抜いても活動が本当に止まるかは分からない。それどころか、頭を貫通できるかどうかも分からない。


「熱がいい・・か?」


シルイトはそうつぶやくと、魔力吸収にしていたイシルディンの特殊効果を熱量変化に切り替えた。ボモラから吸収した魔力を流用して、イシルディン自体の温度を上げ、体を溶かす作戦である。

イシルディンの温度が上がるにつれて、ボモラの体から白い煙が出始める。


「なんとかなりそうだな」


しばらくすると、ドロドロに溶けたオートマタの残骸だけがその場に残った。


「終わったんですか?」

「正確にはまだ終わってない。ウィスターム邸に向かったオートマタを排除しないと」

「でも、創造主であるボモラが倒れれば活動を停止するのでは?」

「それじゃあ、フィアンは俺が死んだら動かなくなるのか?」


シルイトの問いにコンフィアンザはブンブンと首を振って否定する。

その姿には、何かを隠すような様子が垣間見られたものの、考えすぎだと思い直してシルイトは笑顔を作った。


「そういうことだ。とりあえず、転移でウィスターム邸に戻ろう」

「それはいいのですが、ボモラの体を構成していた物質を分析しないのですか?」

「また戻ってきてからでいいだろう。まずはウィスターム邸を守ることが最優先だ」

「・・はいっ!」


その後、二人の体を転移用の魔術陣の光が包み込み、二人の体がかき消えた。


すぐにウィスターム邸の前にコンフィアンザが現れた。


しかし、コンフィアンザと同時に転移したはずのシルイトの姿はいつまで経っても現れることはなかった。




~ウィスターム邸にて~


「ぎんいろ達が帰ってきたみたい」


転移用の魔術陣の光に気がついたゴールディアンがブラッキーに報告する。


ゴールディアンは足下から金色の光を神々しく放ち、ブラッキーは陰のように暗く揺らめいている。対照的ともいえる二人は、ボモラが創り出したオートマタの軍勢と戦っている最中だった。

二人を含めたアポストルズのメンバーが戦っているのはウィスターム邸から少し離れた場所。ウィスターム邸に近すぎると誤って家に被害が及ぶ危険もあるし、何より形勢不利になったときにいったん退いて体勢を立て直すことも出来ないからである。


「そう。それじゃあ、話を聞きに行くから、あなたはここで敵を引き留めておいて」

「わかった」


ブラッキーは戦闘状態を解除して、ウィスターム邸に向かって走り出す。

全速で走って一分程でウィスターム邸に着いた。着くと、家の前でコンフィアンザが一人たたずみ目をつむっているのが分かる。


「あら、フィアちゃん!帰ってきたのね。シルイト君はもう中に入ってるの?」


ブラッキーが声をかけると、コンフィアンザは閉じていた目を開けてブラッキーの方を見た。

開いた目は動揺した様子で、少し涙目になっているようにも見える。


「いえ、それが、転移の途中ではぐれてしまったみたいなんです」

「転移の途中でって・・そんなことあり得るの?」

「わかりません。魔術を使った探索も行いましたが、この近辺にはいらっしゃらないようです」


ゴールディアンの報告を聞いてからブラッキーがウィスターム邸に着くまでの間、どうやらコンフィアンザはずっと探知魔術を使っていたようだ。


「フィアちゃんだけここに送って自分はボモラ王子の場所に戻ったとか?」

「彼は既に絶命しています。また、近辺のオートマタも全滅させましたので戻る理由はありません。そもそも私に黙って何かすることは絶対にないです」


コンフィアンザの矢継ぎ早の返答に呆れ顔になりながら身を半身引くブラッキー。


「わかったわかった。でも、そうなるとシルイト君は何らかのアクシデントに巻き込まれたってことになるわよ」

「ですから、探しに行かないと」


今にもどこかに走り出していってしまいそうなコンフィアンザをブラッキーは必死で止めた。


「ちょっと待って!さすがに、今この場を離れるのはまずいわ。まだボモラ王子のオートマタ勢を倒し切れてないのよ。まずはそっちを倒してからじゃないと」

「それではますたはどうするんですかっ!?」

「シルイト君もいざとなれば転移でここに逃げられるだろうし。とりあえず今は襲ってくるオートマタを全滅させて、それでも戻ってこなかったら探しに行きましょう」


シルイトがここに転移で逃げられるだろうというのが明らかに自分を落ち着かせるための方便であるということはコンフィアンザにもわかった。

だが、ウィスターム邸に被害が出てはまずいのもわかっている。コンフィアンザは意を決して返事をした。


「・・はい。すぐに排除しましょう」


二人はうなずき合ってオートマタとの戦闘に身を投じるのであった。

次回は来週の土曜日の零時に投稿します。

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