対ボモラ戦 2
シルイトがボモラのいる部屋に戻ると、多数のオートマタが集結しつつある光景が見て取れた。
オートマタが動けるように、魔力消去の神聖術はオフになっている。ここまではシルイトの予想通りだ。シルイトがイシルディンを使ってボモラの魔力を吸い上げ続けていたのには二つの理由がある。
一つは、単にボモラを魔力欠乏によって戦闘不能状態にするため。もう一つの理由は、ボモラ自身の魔力をほぼすべてボモラに消去させて、神聖術のエネルギーを多くボモラ本人に蓄積させるためだ。
放っておくと体に支障が出るレベルでなかったとしても、ある程度のエネルギーが体内に蓄積されていたとしたら、そして今自分が劣勢に立っているとしたら、間違いなくそのエネルギーをオートマタの作製に充てるだろう。そして、作製されたオートマタは魔力が無い環境下では活動できないため、必然的に魔力を消去する神聖術をオフにするしかない。
だから、シルイトはコンフィアンザから魔力を供給してもらったのである。
ボモラは体こそ動かないものの、シルイトの時と同じように頭や目を動かすことや、呼吸は出来るようだ。
「彼を排除せよ」
呼吸が出来ると言っても、シルイトの時よりも辛いらしく、少し息を切らし気味にオートマタに命令を下した。自分がどの程度普段の行動時に魔力を使っていたか、あるいは魔力が消えたときにどれだけバランスが崩れるかは、ほとんど運次第なので実際に魔力欠乏状態になるまでは分からない。
シルイトの場合は、剣を支えにすることでかろうじて立つことも出来たが、ボモラの状態を見るに、生存や最小限の動き以外はとても出来そうになかった。
だが、いくら彼自身が動けないと言っても、彼が作ったオートマタはきちんと動くことが出来る。
ボモラの命令を受けたオートマタはそろってシルイトに向かって襲いかかった。
襲ってくるオートマタの総数は十体程度。数だけ見れば、シルイトが今いる黒ビルのエントランスで倒したオートマタの方がよっぽど多いのだが、今度の敵はシルイトのルクスリスに対して対策済みのものだろう。
だが、シルイトに臆した様子はみじんもない。
シルイトは、両方の腕を前に突き出すと、両手を開いて指をそれぞれ別々のオートマタの方へ向けた。
「まさか・・」
思わずボモラがつぶやく。
直後、シルイトから合計四十本の銀白色の光線が放たれた。
一本の指に注目してみてみると、初めにオートマタの弱点そのものを狙って発射される。次に、ほとんどタイムラグ無くオートマタの左側に向かって発射された。最後にこれまたタイムラグがほとんど無いタイミングでオートマタの右側に向かってルクスリスが発射された。
この三段構えの戦法によって、シルイトの方へ向かってきた個体はルクスリスを避けようと横飛びしたものや、逆に飛んで躱そうとしたもの、あえてそのまま突っ込んできたものもまとめて消されることになった。
残ったオートマタも似たような方法ですべて殲滅されてしまう。
「というわけで、俺の勝ちだな」
「俺は・・負けたのか」
「ああ。すぐに終わらせてやる」
そう言うやいなや、シルイトはルクスリスを発動した。ボモラの頭から血が流れていく。
ボモラがまるで眠るようにゆっくりと目を閉じていくのに合わせて、心臓部から赤い半透明の球体が月に上っていくのが見えた。あとは月が元に戻っていけば成功である。
床に倒れているボモラが確かに絶命しているのを確認した後、シルイトはまだボモラの兵力が残っていないか探索するために部屋の入り口へと向かう。
入り口を出た瞬間、何者かがシルイトの頭に銃を突きつけ言葉を発した。
「流石にこれは防げないだろう」
パンッ、という乾いた音ともに銃弾が発射された。
【拠点防衛錬金魔術、ユグドラシルを緊急展開します】
なぜかコンフィアンザの声で流れた音声に従ってイシルディンが自動的に動き始める。
ユグドラシル自体はきちんと機能しているようなので、シルイトもとりあえずは気にしないことにしたようだ。
ユグドラシルは頭に当てられている銃の銃身部分をイシルディンに変換して、銃口を塞ぐように変形させた。
銃弾が内部でとどまったため、当然シルイトは傷一つ負うことなくその場に立っている。
「この距離でも防ぐか」
予想外の事態に銃を撃った本人は戸惑いを隠せないようだ。
「そういうお前は一体誰だ?」
シルイトがそう言いながら振り返ると、ボモラのいるところまで案内してくれた案内役がそこに立っていた。
「お前は・・」
「ああ、勘違いしないでもらいたい」
案内役は、唐突に顔を覆っていた布を取り除いた。
「今の俺はボモラだ」
布で隠されていた素顔は今し方、シルイトが殺したボモラとうり二つであった。
「オートマタで自分のバックアップをとった・・のか」
「似たようなものだ」
「それにしては違和感がある。さっき、会話したときは明らかに人工音声だった。だが、今はボモラの声とほとんど同じに聞こえる」
「分析をしている暇はあるかな?」
言うやいなや、案内役もといボモラが大剣を片手だけで持ち、シルイトに向かって走り始めた。
筋力や体力は以前よりも格段に強化されていると考えた方がいい。
もっとも、いくら筋力があってもシルイトのとる対処法は一つだけだ。すなわち、大剣を構成している金属をイシルディンに変換すること。その前段階として、ますシルイトは腕に装着するタイプの盾を作った。
数瞬後、ボモラがシルイトに接近し斬りかかる。シルイトはボモラの大剣を迷うことなく盾で受けた。盾が大剣の圧力でゆがむものの、シルイトの表情は崩れない。その後すぐに大剣をイシルディンに変換しようとしたのだが、ここでシルイトの表情が曇った。
「やっぱりか」
対して、ボモラの方は勝ち誇ったような表情を浮かべている。
「やっぱりとは・・?」
「詳細はわからないが、お前は金属を無害化する技術を持っている」
「!?」
ボモラは、シルイトのイシルディン変換をかなり近いところまで察していた。もちろん正確な推測ではないが、イシルディン変換への対抗措置をとるには十分である。
「俺の体も金属製ではない。実験的なものだったんだが、思わぬ結果を生んだようだな」
事実、今のボモラが持っている大剣は金属以外の物質で作られているようだ。それに、イシルディンの盾とぶつかり合ったときに壊れなかったことから、金属相当の硬度を持っていることが分かる。
そして、大剣が金属で作られていないとなれば、オートマタたる今のボモラの体も本人の言葉通り金属以外の物質で作られている可能性がある。少なくとも、反撃される危険を背負ってまでイシルディン変換を試みることはしない方が良いだろう。
恐らく、ボモラが持っていたオートマタを創り出す神聖術を使ったのだろうが、問題なのは今のボモラも同じ神聖術が使えるのかどうかだ。
ひとまずこの場を離脱して、コンフィアンザと話し合うのが得策だと考えたシルイトは、ビルの一階に転移するためにボモラから距離をとろうとする。
しかし、そんなシルイトを逃がすボモラではない。
オートマタとしてのスペックをフルに使ってシルイトに接近する。
そのまま攻撃するのかと思いきや、ボモラは剣を握っていない方の手をシルイトに突き出した。
そして、シルイトの左腕をつかむ。
ユグドラシルは起動しなかった。
「どうした。こんな簡単に接触できたぞ。やはり、お前も攻撃性のあるものを自動的に排除するシステムを組み込んでいたんだな」
ユグドラシルのタネは割れてしまったが、それでもユグドラシルが効かなくなると言うことはない。
例え至近距離だったとしても攻撃性があれば完全に防ぎきることが出来る。ただ、シルイトも決して油断してはいない。
これまでのオートマタはいずれも命令されて動く知性の無いものばかりであった。しかし、今のボモラは違う。自らの意思で行動し、人よりも優れた頭脳で戦局を判断することが出来る。
そんなボモラには、同じ攻撃は効かないだろう。ルクスリスを使うと言う手もあるが、あれは弱点を正確に射貫く必要がある。
一応今のボモラはオートマタだが、ボモラの意識を移すことが出来る特異性を鑑みると、他のオートマタと同じ場所に弱点があるとは限らない。
そして、もし弱点を射抜けなければ、その隙にボモラは必ず攻撃してくるだろう。
戦況が膠着状態に陥りかけたそのとき、二人が戦う部屋に一人の少女が乱入してきた。いわずもがな、コンフィアンザである。
「ますた、大丈夫ですか?」
「フィアン!?なぜここへ」
「月の赤化が解かれ始めたので、ボモラは倒されたのかと考えたのですが。どうやら違うようですね」
コンフィアンザの言葉を聞いたシルイトは、今のボモラには神聖術が使えないと喜んだ。ただし、それは正確には間違いである。
月の赤化は同一人物が二つ以上の神聖術を見に宿すことで引き起こされる現象。つまり、一つのみなら発現しないのだ。
もっとも、片方だけ受け継がれて、もう片方の神聖術は受け継がれないなどという現象は考えにくいので、今のボモラは神聖術が使えないと考えていいだろう。
「あれは元オートマタだ。ボモラの意識や記憶だけを引き継いだ身代わりのようなものだろう」
「まあ!それは面白いですね。そんなことが出来るなんて」
コンフィアンザは、自分たちの敵を見るというよりは、観察対象を見るときのような好奇心いっぱいの目でボモラを見た。
その様子にシルイトも戸惑いつつ返事をする。
「面白い?・・まあ興味深くはあるな」
シルイトとコンフィアンザが話し合っていると、ボモラが口を開いた。
「王城でも見かけた怪力少女か。お前は接触した状態で魔術を使うことでより強力な効果を発揮する特徴がある。あるいは遠距離からでは魔術を使えない。違うか?」
どうやら、ボモラはコンフィアンザについても研究していたようだ。王城でオートマタを素手で破壊していたのを見て、魔術を接触した状態で使ったと勘違いしたらしい。
そして、遠距離で同じ技を使わなかったことから、近距離でないと魔術の効果が発揮されない特性があると思ったようだ。
生命を新たに創り出すという発想は練魔術を修めている人間にしか思い浮かばない。
当然ボモラも思い浮かばなかったのだろう。
「全然違うな。フィアン、動きを押さえろ」
「了解です」
コンフィアンザは右手を開いて前に出すと、すぐに魔術を行使した。
次回は来週の土曜日、零時に投稿します。




