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銀白の錬金魔術師  作者: 月と胡蝶
第五章 決戦編
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対ボモラ戦~そして予兆


シルイトが部屋の入り口辺りに転移すると、ボモラはまだ椅子に座ったままだった。


「おや、帰ってきたのかい。俺の力を恐れて逃げ出したっきり帰ってこないかと思ったよ」

「まあ、お前の力を恐れているって言うのは、間違いじゃないよ」

「だろうね。さっき君の姿が消えた現象の裏にどんなタネがあるのかしらないけど、魔術なら魔力を消された段階で使えなくなるわけだし」

「それは、どうかな?」


シルイトは言い終えると同時にボモラに向けて銃を撃つ。

鋭い殺気が銃弾とともに放たれるので、ボモラは一瞬硬直してしまう。そのままボモラの眉間に吸い込まれるように銃弾が進むが、ルクスリスを避けたときと同様、人間ではあり得ないスピードで横へと飛んで避けた。


直後、ボモラの心臓から赤い光の球体が発生し、瞬く間に広がっていく。その球体は、たちまちシルイト達がいる部屋全体をカバーするほど大きくなった。


「・・くっ」


赤い球体に体が触れた瞬間、お互いがうめき声を上げた。


ボモラのうめき声はシルイトが隠し持っていた魔力保存薬内の魔力を消去したことによるもの。

シルイトのうめき声は、自身の魔力とイシルディンの魔力を消されたことによるものだ。


ボモラの心臓から広がった赤い光の球体は、魔力を消す神聖術によるものである。

その球体の範囲内において全ての魔力は存在を許されることなく消滅する。


お互いが同じようにうめき声を上げたのだが、その後の二人の体勢には大きな違いがあった。


ボモラは最初の一瞬こそ苦痛の表情を浮かべていたのだが、すぐに元に戻っている。

もしかしたら、オートマタをどこかで生成することで神聖術の力を消費しているのかもしれない。もし、一気に神聖術の力を消費できるのだとしたら、魔力保存薬は有効な攻略法ではないことになる。


ボモラがすぐに回復した一方で、シルイトは地面に倒れ伏したまま起き上がることが出来ない。


「拍子抜けだな。即座に逃げるんだから、とっておきの秘策でもあるのかと思えば、俺に大量の魔力を消去させるだけか。しかも倒れたまま動けないとは」


ボモラは席を立ち、しゃべりながらシルイトの方へ向かって歩き始めた。

シルイトのローブの内側からは、イシルディンで作った剣などの武器が倒れた拍子に外に出てきてしまっていた。


「こんなものまで作って、俺と戦おうとしていたのかい?ああ、悲しいよ。これほど簡単に俺に殺されるなんて」


ボモラは外にこぼれているシルイトの武器の一つを手に取った。


「だが、同時にうれしくもある。自らを殺す武器を自分で作ってきてくれるなんてね」


ボモラは大剣の切っ先をシルイトに向けて構える。

そこで、シルイトが声を発した。


「お前はどうして動ける?」

「おや、そっちもしゃべれるじゃないか」

「そんなことはいいから、俺の質問に答えろ」


生命維持に必要な肺や心臓などの内臓系の動きは止まらなかった。万が一、魔力を消された段階で呼吸が出来なくなれば即座に逃げる準備が出来ていたのだが、その点については問題ないようだ。

口や、眼球の筋肉も動かせることから、動きが小さい筋肉は魔力が無くなっても使えると考察できる。


一方で、体を大きく動かす筋肉は、ほとんど動かすことが出来なかった。

体が動かないといっても、魔力の補助がないと動かないほど筋肉が鈍っていたというよりは、魔力が無くなって、体や筋肉のバランスがとれなくなったことによるもののようである。


「ずいぶん、高圧的だなあ。そんなこと言ってると殺しちゃうよ」

「どうせすぐに殺すんだろ?」


敢えて挑発するようなシルイトの物言いに仄かな疑問を感じるボモラだったが、圧倒的に優位に立っている以上は反撃される心配も無い。


「ああ」


ボモラは迷うことなくシルイトに向かって大剣を振り下ろした。

瞬間、魔術陣の光と共にシルイトの姿がかき消える。


「・・っ、これは!?」


直後、ボモラの後ろに姿を現したシルイトは、ローブの中に隠してあった武器の一つ、片手剣を手に掴んで上に振り上げている。

ボモラの能力で体内の魔力が消されているため、筋力は思うように動かないが、重力に従うようにボモラの頭に剣を振り下ろした。


完全な死角からの攻撃であったが、ボモラが知覚するよりも早くボモラの体だけが真横に飛んで避けた。

シルイトの剣は鋭い音を立てながら床に突き刺さる。その突き刺さった剣が支えとなって筋力が無いながらもその場に立つことが出来た。

ボモラは半ば自動的に攻撃を避けたものの、本人は転移の魔術陣の光で目くらましされた状態となっており、左右をキョロキョロと見回している。


「ど、どういうことだ?なぜ、魔術が使える!?」

「そっちも、ローブ型オートマタは動くんだな」

「くそっ!、どういうことだ・・」


シルイトの神聖術は、見てすぐに神聖術とわかるようなものではない。魔力を使っていないとはいえ、転移時には魔術陣が出現するので勘違いしてしまうのも無理はないのだ。

魔術に精通していれば、魔術で転移することが事実上不可能なのが分かるので、神聖術だと勘ぐることが出来るのだが、ボモラからすれば魔術は完全なブラックボックス状態であるため魔術と勘違いしているのかもしれない。


「そんなにぼうっとしていると、すぐにやられちまうぞ」


シルイトは言い終わったと同時に転移する。今度はボモラの真上に出現した。そのまま剣で貫こうとするも、またしてもローブ型のオートマタの力で躱されてしまった。


「本人が操作する必要は無いのか」

「オートマタが攻撃と認定した行動については、無条件で回避するようプログラムされてる。いくら攻撃しようとしたところで俺には絶対に当たらない。諦めるんだな。目が見えなくても避けることは出来る」


シルイトの戦意をそごうと解説をしたボモラだが、シルイトは全く気にとめていない。


「ご丁寧にどうも!」


シルイトは再び転移した。

現れた場所はボモラの真後ろ。しかし、今度はどちらの手にも武器を握っていない。

武器の代わりに、何も持っていない右手を重力に従ってボモラの肩に置いた。そこに攻撃的な意志は含まれていないため、ローブ型のオートマタは避けようとしていない。

ボモラに直接攻撃を加えることは出来ないが、ボモラと接触することは出来る。そして、それこそがシルイトが求めていたことだった。


シルイトが触れたところから、ボモラのローブ型のオートマタが銀白に輝き出す。イシルディン変換である。


「な、なんだ、これは!?」


以前、シルイトが王城でオートマタをイシルディンに変換したときは、ボモラはコンフィアンザの戦いぶりに目を奪われていたため、実際に金属がイシルディンに変換されるところを見るのは初めてだ。


「ん?なんだ」

「それは、こっちのセリフだ!」

「いや、お前には言ってない。ただの独り言だ」


シルイトが思わず口に出してしまうほどの驚きがあった理由はイシルディンの形にある。

通常、イシルディンはどんな金属から変換しても銀白色となる。もしカラーリングされていれば、非金属である塗料のみがその場に残り、銀白色のイシルディンが取り出されるという仕組みだ。

しかし、今シルイトの目の前にあるのは銀白色と、ボモラのローブの本来の色である赤が混ざったような色。

といっても、色が違うだけでイシルディンとしての機能には問題は無いようだった。


「よくわからんがまあいい。おとなしく俺に敗北していろ」


シルイトは、イシルディンへの変換を進める傍ら、変換したイシルディンに魔力吸収の効果を付与させる。どうやらボモラが身につけているものは魔力を消去されないらしく、イシルディンへの変換や効果の付与は普段と同じように行うことが出来た。


効果を付与した後、やはりボモラ自身も魔力消去の神聖術から逃れていたようで、消去されずに残っている魔力をイシルディンが吸い上げ始めた。

そうして吸い上げた魔力は、魔力がたまったイシルディンを切り離してボモラから離すことで、ボモラの能力によって片っ端から消去できる。

そのため、イシルディンを切り離して魔力を消去しては再びくっつけるという作業を続け、普段以上のスピードでボモラから魔力を吸収していくことが出来るようになった。

その間、ボモラ自身はイシルディンによって完全に拘束されており、身動きがとれないでいる。


完全にボモラの能力を逆手にとった形だ。

そして、これこそが対ボモラ用にシルイトが編み出した戦法である。


まもなく、ボモラは体中の魔力を吸収されたようで、その場に倒れ伏した。

ボモラの体には、イシルディンと化した銀白色の金属がおもりとなって地面に固定するかのようにまとわりついている。

神聖術に使う力がいくら満ちても、魔力が無ければ満足に動くことは出来ないし、魔力が戻ったとしてもイシルディンを自力で取り除くことは出来ないだろう。


ボモラが動かなくなったのを見届けると、シルイトは一度コンフィアンザがいる1階に転移した。


コンフィアンザの前に現れたが、魔力の欠乏によりすぐ体勢を崩してしまう。


「ますたっ!?」

「大丈夫。魔力が無いだけだ」


慌ててコンフィアンザがシルイトの体を抱きかかえた。


「そっちの首尾はどうだ?」

「こちらにオートマタが攻めてくることはありませんでした。壁に擬態していたオートマタが起動していましたが、ルーナウェポンにより駆逐されています」


淡々と戦況報告をしていくコンフィアンザ。


「それはよかった」

「ただ・・」


珍しくコンフィアンザが言葉を濁した。


「どうした?」

「壁のオートマタを倒すためにルーナウェポンを使用している隙に、大量の人型のオートマタがウィスターム邸の方角に向けて出発したようです」


コンフィアンザはかなり歯がゆそうだった。おそらく、シルイトが1階の守りを命じていなかったら一人で相手取ろうとしただろう。


「大丈夫。向こうにはアポストルズのメンバーがいる。すぐにやられることはないよ。ボモラを倒した後に俺たちも加勢しよう」


相手がウィスターム邸に近づいてしまえばルーナウェポンは迂闊に使うことが出来なくなってしまう。味方もダメージを負ってしまう危険性が増すし、ウィスターム邸に誤って命中してしまう可能性もあるからだ。


「はい・・あ、ますたがここにいらっしゃったということは・・?」


シルイトの慰めに安心したコンフィアンザは、我に返ったような表情をした。シルイトがコンフィアンザの前に現れた理由に気がついたようだ。


「ああ。あとは首をはねるだけだ。魔力保存薬をくれ」

「了解です」


ボモラを戦闘不能にした後、ボモラの能力が及ばない範囲で待機しているコンフィアンザから魔力を補給してとどめを刺す。ここまでがシルイトの作戦である。


シルイトと違い、魔力を含め魔術を敵視しているボモラには、魔力を一気に回復させる手段がないことは明白である。一方で、錬金魔術を習得しているシルイトならば、一瞬で魔力を回復できる。

ボモラを魔力欠乏状態に持って行ければシルイトの勝ちというわけだ。



コンフィアンザから魔力保存薬を受け取ったシルイトは、それを一気に飲み干した。


「ん、配合変えたか?」


味に若干の変化があったためコンフィアンザに尋ねるシルイト。


「え、そう思いますか??」

「・・ん?」

「いえ、危ないものは入れてないので安心してください」


コンフィアンザが珍しく何かをごまかそうとしている。シルイトにはコンフィアンザが嘘をついているかどうか判断することは出来ないが、すでに飲んでしまった以上は彼女を信用するしかないだろう。

魔力は問題なく回復しているので追求は別の機会に延期することにし、ボモラの元へ転移することに。



残されたコンフィアンザの顔には明確な回答をしなかったことに対する罪悪感を感じているような表情が浮かんでいた。



しかし、それ以上に、何か大きな仕事を為し終えた後のような達成感がコンフィアンザの口元に笑みを作り出していた。

次回は来週の土曜日の零時に投稿します。

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