シルイトの案内役とコンフィアンザの戦術
シルイトが建物の中に入ると、すぐに新しいオートマタが出現した。
シルイトは戦闘の態勢をとろうとしたのだが、その後にオートマタがとった行動に思わず動きを止めてしまった。
オートマタが両手を挙げて、いわゆる降参のポーズをとっているのである。
「何者だ、お前は」
オートマタらしからぬ人間的な動きに思わず問いかけてしまったシルイト。
今降参のポーズをとっているオートマタは、黒いローブを身にまとい、顔は覆面をしているかのように鼻から下が布で覆われていた。
ボモラ王子の背後関係を調べたところ、人間の協力者はすでにいないため、目の前にいる存在は人間ではなくオートマタの可能性が高い。
警戒は怠ってはいけないが、臨戦態勢をとり続けるのも気力を消費するだけと考えて、シルイトはひとまず気を緩めた。
シルイトが殺気を放つのを止めると、それを感じ取ったのか降参ポーズを止めて手招きをした後、シルイトに背を向けて歩き始めた。
シルイトも首をかしげつつもオートマタについて行く。
「こちらへお入りください」
ひどく人工的で無機質な声がオートマタから発せられた。
そのオートマタが手で示す先には全面が窓となっている部屋があった。
部屋の中からは外の様子を一望することが出来る。
「この部屋はエレベーターと名付けられています。箱型のオートマタとなっており、決められた軌道上を上下に移動することが出来ます」
その言葉にシルイトは衝撃を受けた。機械人形と銘打ってはいるものの、オートマタは必ずしも人型である必要はないとわかったからだ。
この事実は、シルイトが今いる建物そのものがオートマタである可能性も秘めている。
また、目の前にいるオートマタが自分と意思疎通できるということについても衝撃を受けた。
試しに名前を聞いてみることに。
「君の名前は?」
「私は案内役です」
間髪入れずにオートマタから発せられた言葉は名前と言うにはあまりにも不自然なものだった。
「聞いてるのは役名じゃなくて、名前なんだけど」
「私は案内役という名前です」
「そ、そうか」
ボモラ王子はオートマタをほぼ無制限に作ることが出来る。作ったオートマタ一つ一つに名前をつけるのは苦なのかもしれない。
それに、役割で識別するのは合理的とも言える。
部屋を見回してみても階段などは見当たらないため、上に行くにはエレベーターに乗らなくてはいけない。
恐る恐る中に入ると、案内役が同じように中に入ってきて壁に設置されていたボタンに触れた。
すると、エレベーターの扉がしまり、上昇を始めた。
「窓の外をご覧ください。まもなく拠点防衛機能が作動します」
その言葉の直後、村を囲む壁が地面を揺らしながら一様に持ち上がり始めた。
ーー
シルイトがボモラ王子に接近する一方で、コンフィアンザはまだ壁の外で大量のオートマタを相手に戦闘をしていた。
といっても、本当にコンフィアンザが攻撃するのはルクスリスの砲撃から逃れて近くまできた数体だけである。
今回、オートマタに対する戦い方を考えるに当たって、まず最初に着手したのは銃の強化である。
コンフィアンザの十八番とも言える銃撃を強化することがコンフィアンザ自身の大幅な戦力強化につながるからだ。
銃撃の威力を強化したい場合は弾速を上げるか、口径を大きくするか、弾に何らかの細工を施すのが一般的だ。
このうち、貫通力を上げたいとなると、弾速を上げつつ、何らかの細工を施せれば施すのが一番いいだろう。口径を大きくしてしまうと、弾そのものの重量が増し、空気抵抗もますので弾速が落ちてしまうことにつながるからである。
では、どうすれば弾速が上がるのか。一番手っ取り早いのは銃身を長くすることである。取り回しの問題も考えて銃身は五十センチ程度に変更した。スナイパーライフルほどは銃身が長くないものの、一般的な拳銃よりは遙かに強力になった。
その銃をコンフィアンザは両方の腕に一丁ずつ構えている。本来は重さ的にも一丁の銃を両手で構えて撃つのが適正なのだが、コンフィアンザのパワーをもってすれば片手だけで拳銃と同じように肩と同じ高さで構えて撃つことが出来る。
また、撃った後の反動も決して小さくはないのだが、コンフィアンザの力で強引にねじ伏せている。
弾への細工は、今まで通り魔術で銃弾に運動エネルギーを加えることで威力を上げるという手法をとった。ただ、ここでも銃身を長くしたことが生かされる。
この銃の魔術は、銃身に魔術陣を埋め込むことで作用するようになる。この魔術陣が埋め込まれた銃身の中を通っている間だけ加速されていくという寸法だ。つまり、従来の銃よりも魔術による恩恵を強く受けることが出来るのである。
もちろん、魔力を使わなくても弾の威力は以前より増すので、万が一オートマタが魔力なしで動けて、ボモラ王子が近くにいる状況下で戦うことになったとしても問題なく実力を発揮してくれるだろう。
そうして新開発の銃を構えたコンフィアンザは、ルクスリスの砲撃から逃れたオートマタを狩り続けた。
ルクスリスの砲台は、放射状に弾を撃つモードで固定しており、射程が伸びていない状況となっている。
その分、砲台近くのオートマタは消失させることができるのだが、遠くから遠距離攻撃してくる個体に対しては無力だった。そこを、コンフィアンザが銃撃で遠距離のオートマタの心臓部に穴を開けることで対処するというのが一連の作戦である。
ただ、この銃には一つ弱点がある。
それは、銃身が摩擦熱によってあっという間に高熱となり、弾の発射が出来なくなってしまう点だ。銃身自体に弾を加速させるものと同じように冷却の魔術陣が埋め込まれてはいるものの、急激に冷却すると壊れやすくなったり、弾の軌道が乱れることもあって出力は弱めに設定されている。
そのため定期的に銃身を取り外して、熱量変化で冷たくさせたローブの中で冷却しなければならないのだが、銃身を交換している最中は完全に無防備になってしまう。
ちなみに、今回新たに開発した銃では弾をイシルディンに変更しており、コンフィアンザが腰につけているイシルディンの集合球体から自動的に弾の形に成形されて供給されているため、弾を補給するタイミングで無防備になることはない。
最初の頃はオートマタの数も少なく、コンフィアンザも安定して銃身の交換が出来たのだが、段々と投入される個体数が増えて、とうとう銃身の交換をするほどの余裕がなくなるタイミングが出てきてしまった。
もちろんコレも想定済みである。コンフィアンザは慌てることなくローブの中にあった一つの球を前方の上空へ投げ上げた。
注意を引くような音を鳴らしながら敵の頭上あたりまで来ると、その球体は突然猛烈な光と音、そして魔力をまき散らした。
これは、王城で戦った際にシルイトが使った閃光弾の改良型である。人相手に使うのであれば、猛烈な光による目くらましだけで十分なのだが、相手がオートマタである以上はどんな手段で位置情報を把握しているのかはわからない。
そこで、オートマタがこちらを認識するときに使いそうな光、音、魔力の三つを散乱させるように改良したのだ。
案の定、オートマタはその場に立ち止まってキョロキョロと辺りを見回している。
その間にコンフィアンザは銃身を交換して、立ち止まっているオートマタを含めて全ての個体を排除することに成功した。
この閃光弾改は、その性質上、確実に効果を発揮するのは初見時のみだ。もう一度使おうとすれば、目を塞いで光を見ないようにしたり一時的に該当するセンサーか何かをオフにすることで無効化されてしまう可能性もある。
だからこそ、コンフィアンザはギリギリまで使わなかったのである。
敵を全て排除したことでほっと一息ついたのもつかの間、突如として轟音とともに壁全体が動き始めた。
今週も土曜、日曜ともに投稿していきます。
次回は明日、日曜日の零時に投稿します。




