壁だったオートマタ
先週に引き続き、今週も二日連続で投稿しております。
「これは・・?」
シルイトの問いに案内役が返答する。
「正式名称は壁役です。通常時は壁として拠点を防衛し、壁が強引に突破されそうになったり手持ちの防衛戦力に壊滅的なダメージが入ったときに二次起動してオートマタとして敵の殲滅を行います」
「俺が穴を開けて入ったときは何も起きなかったけど?」
「あなたはそのまま通すように申し付けられていたからです。主の目的はあくまでもあなたの殺害。殺す必要の無いあなたの従者を招いては、あなたたちの戦力を増強させるだけという考えです」
やけに素直に内情を話す案内役に、シルイトは違和感を感じた。
「なんでもかんでもすぐに答えすぎじゃないのか?」
「嘘はついていません。私達にとって明かしても良い情報だから話しているに過ぎません。冥土の土産といったところでしょうか」
「俺が死ぬのは確定なんだな。それにしても、壁役ってのはネーミングが安直すぎないか?」
どこかあきれたような笑いを浮かべるシルイトを案内役はまじまじと見つめた。
そのオートマタには似つかない人間的な仕草からは、不思議に思うような感情がうかがえた。
「何かおかしいことでも言ったのか?」
「いえ、ただ不思議に思ったので」
オートマタが何かを思ったり考えたりできるのはシルイトにとっては驚くべき事実であった。
もっとも、彼自身もコンフィアンザのような感情を持つ生命体を作り上げているので人のことは言えない。
「今起動した壁役が、あなたの従者に反応したことは明白です。いくら優秀だとしても、さすがに壁役に勝つことは出来ないと思われますが、あなたは特に焦っていないようです」
自分のことをよく観察していると思いながら、シルイトは案内役に一つの質問をする。
「たぶんだけど、あの壁役は地上にいる兵士と戦うために設計されたんだろ?」
「詳しいことはわかりませんが、なぜそう思ったのですか?」
案内役の問いに、シルイトは何故か壁役ではなく上空を見上げ、ふっと笑いながら返事をした。
「なんとなくね」
ーー
「どうしましょう」
壁、もはやそう言っていいのかどうかも分からないが、少し前まで壁だったオートマタを前に少しの間コンフィアンザは思案していた。
今のコンフィアンザには二つの選択肢があった。
一つは壁役をスルーしてシルイトとの合流を急ぐこと。
ボモラ王子自身が町の中にいる以上は、あのオートマタも迂闊に町中を攻撃しないだろうし、シルイトと合流できれば彼もコンフィアンザも生存できる確率が高まるに違いなかった。
もう一つの選択肢は戦うことである。逃げるという選択肢は、目の前のオートマタが、自分が壁として守っていた町を自ら壊すことはないだろうという推測に基づいている。
もしこの予想が外れれば、コンフィアンザ自身はおろかマスターであるシルイトまで危険な目に巻き込んでしまうことにつながる。
であれば戦うことでそのリスクを下げた方がいいかもしれない。
選択肢は二つあったものの、コンフィアンザがとれる選択肢は実質一つしか無い。
それはもちろんオートマタと戦うこと。
ただし、今までと同じようにルクスリスによる砲撃で楽に倒すことは出来ない。
というのも、シルイトが置いていったルクスリスの砲台は上下方向の斜角の変更が出来ないので、壁だったオートマタの弱点部分に命中させることが物理的に出来ないからである。
一応、コンフィアンザの筋力で砲台を持ち上げることは出来るものの、照準を合わせることは至難の業だろう。それに、照準を合わせることが出来たとしても、発射の反動によってほぼ必ず照準がズレてしまうだろう。
そういう理由で、ルクスリスを使うことを諦めたコンフィアンザは、次に懐から銃を取り出した。
まずは相手の耐久力を見定めなければならない。確かにコンフィアンザは自分の戦闘力にそれなりの自信は持っているが、倒せない相手に無理に立ち向かっていくほどの好戦家では無い。
銃を構えたコンフィアンザはそこで初めて壁だったオートマタをきちんと観察することになる。
「これは、勝てないかもしれませんね」
コンフィアンザの目に映っているのは、どこまでも高くそびえる黒い壁。といっても、ただの壁ではなく、銃座が至る所に取り付けられており、コンフィアンザに照準を合わせているようだった。
直後、壁役のオートマタに設置されていた無数の銃座が火をふく。
コンフィアンザは慌ててルクスリスの砲台の陰に隠れた。砲台自体はイシルディンで作られており、発射の反動や敵の反撃にも耐えるために外装には硬質化が付与されていた。
そのため、敵の銃撃でピンチになったらルクスリスの砲台の陰に隠れるというのは作戦の一部でもあったのだ。
数十秒間にもわたって鳴り続けた銃弾がイシルディンに当たる音も終わりを告げ、恐る恐る顔を出してみる。
すると、銃弾では倒しきれないと判断したらしい壁役が、今度は壁の一部をパンチのようにこちらに向かって突き出してきた。よく見ると腕の形をしているので、おそらく格納式の腕が壁役の起動とともに展開されたのだろう。
もちろん、その場にとどまっていれば大ダメージを負ってしまうので慌てて飛び退くコンフィアンザ。
突き出された壁役の腕は、コンフィアンザには当たらなかったものの、そのままルクスリスの砲台を吹き飛ばした。砲台は、大きな弧をを描いて村の外の森へと飛ばされていった。
砲台の外装自体は傷ついてないだろうが、内部にはかなりのダメージが蓄積されているとみるべきだ。たとえ回収したとしても、錬魔術による繊細な調整が必要なルクスリスはもう撃てないと考えるのが妥当だ。
流石に壁役も攻撃と攻撃の間に若干の時間が空くようで、その間にコンフィアンザは壁役に向かって何発かの銃撃を試みた。
壁役のボディーは、表面に備え付けられている武器以外、完全に平たい板となっているので弱点がどこにあるかはさっぱり分からない。それでも、半分より少し上寄りの、人の形だったら心臓がありそうな箇所に銃撃を打ち込んでみた。
しかし結果は、無傷。
仮にも威力の底上げを果たした銃なのだが、全く歯が立ちそうになかった。
こうなると、コンフィアンザに残された戦闘手段は、徒手空拳の一つだけ。だが、いくら力が強いと言っても、壁に対してどんな攻撃をすればいいのかは全く分からなかった。
「やはり、この場は逃げて、先にますたと合流した方が良いのでしょうか?」
コンフィアンザが途方に暮れて独白していると、突然空中からとてつもない熱量のある物体が近づいてきた。
さながらそれは、ルクスリスを大幅に強化したかのような太い光線で、色は今の月と同じ赤色をしていた。
その光線は、まっすぐにコンフィアンザ達がいるところまでやってくると、そのままの勢いで壁役に命中する。およそ壁役の横幅の八割ほどもある太い光線が命中した後には、体のほとんどが消滅した壁役が倒れていく姿が見えた。
「これは、一体・・?」
深く考え込みそうになっていたコンフィアンザの元に、一人の白いローブを着た者が空から落ちてきた。
ローブのデザインから、アポストルズの下っ端(実働部隊)のいわゆるコード持ちと言われる人間だと分かる。
「私が説明します」
コンフィアンザはコード持ちの言葉を促すように頷いた。
「先ほどの光線は、アポストルズが拠点としていた浮島に搭載されていた高エネルギー兵器による攻撃です」
「・・高エネルギー兵器?」
聞き慣れない単語に思わずコンフィアンザが聞き返してしまう。
「はい。おそらく、あの浮島は大昔に実際にあったと言われる大陸間戦争の遺物だと考えられています。実は、長い間開けることが出来なかった扉が浮島の内部にあったのですが、先日教えていただいた錬金魔術を活用し、シルイトさんの力も借りることで、ようやっと開くことが出来たんです」
コンフィアンザは、シルイト達が浮島で作業をしている間もずっとウィスターム邸にいたために、高エネルギー砲の存在を知らなかったというわけだ。
閉じられていた扉の向こうには、現在の技術では到底再現できない位の精密な機械が並べられていたという。
「いろいろと操作してみて、その部屋が浮島全体の動作を管理する管制室だと言うことがわかりました。今、浮島はこの村のちょうど真上に移動させています」
「浮島は兵器だったのですか?」
様々な情報を加味して導き出したコンフィアンザの推測に対して、それが正しいというようにコード持ちは深く頷いた。
「はい。私たちもそう思います。あの浮島で出来ることは、移動と威力の調整が可能な高エネルギー砲の発射だけ。おそらく移動も、照準を合わせるための機能なのでしょうね」
「把握しました。しかし、そんな兵器があるなら、私達が直接出向くまでもなくボモラを倒すことが出来たのでは?」
「確かに、この村全体を一度の砲撃で消すだけの威力はあります。今の砲撃も威力をかなり落としていますから。ただ、それでは本当に消滅したかどうか判断することができないんです」
今のところ、月が赤く変色している原因はボモラにあるというのが一番有力な説である。しかし、本当にそうなのかは誰にもわからない。
万が一、砲撃によって全てを消し飛ばした後、月が元に戻らないときはボモラがどこかに生きている可能性や月が別の原因で赤くなっている可能性、元に戻るのに時間がかかる可能性など、様々なことを考慮する必要がある。
そのため、殺したことを確実に確認できる作戦でなければ意味が無かったのだ。
こうしたことは、シルイトが浮島にいた一週間の間にアポストルズのメンバーには伝えられたのだが、コンフィアンザはずっと自室で研究にいそしんでいたため、そうした細かい目的までは聞かされていなかったのである。
「わかりました。浮島についてはとりあえず任せますので、私はますたと合流します」
「ご武運を」
確かに、高い威力を発揮する兵器には間違いないのだが、その高すぎる威力をきちんと制御できるかどうかが問題だ。
いずれにせよ、自分が一度見て信用に足るものなのか確認した方がいいとコンフィアンザは判断した。
「高エネルギー砲のことですが、後で私も確認します」
「承知しました。それと、名称はシルイトさんがルーナウェポンと命名されたので、そちらをお使いください。それでは、お気をつけて」
「ルーナウェポン・・月の兵器ですか。ますたは何故・・、まあいいでしょう。名称の件は了解しました。そちらもお気をつけて」
確かに、さっきの砲撃は今の月と同じ赤色の光線であった。その辺りからシルイトは着想を得たのかもしれない。
コード持ちと別れたコンフィアンザは、ひとまずシルイトの安全を確保するために、村の中でも一番異質に見えるビルへと急ぐ。
オートマタとなったのは壁の一部だけだったのだが、他の壁が再び起動してオートマタとなることはなかった。
違和感を感じつつもコンフィアンザはただ走った。
次回は次の土曜日の零時に投稿します。




