魔境での戦闘 その2
「これが魔境で独自に発展した魔物か・・?」
しかし、シルイトが思案する間もなく相手の人影が襲いかかってきた。
さっきの攻防で銃撃がシルイトに対して十分な効果を発揮しないと考えたのか、銀白色の剣のようなものを手にこちらに向かってくる人影。
シルイトは急いで相手の人影を突き刺すような形でイシルディンを自分の手前、人影との間に展開させた。
知恵はないのか、その人影は迷うことなく直進して腹に完全にイシルディンが突き刺さる形となった。
シルイトは人影の腹に突き刺さっているイシルディンが抜けないように、両端を太くして真ん中部分を逆に細めにした。
次にイシルディンを人影を中心に箱状に作り上げていく。このまま拘束する構えだ。
イシルディンも一応魔力で動かしているのだが、普通の魔術とは違って空気中の魔力に触れることはなく、イシルディンの内部だけで魔力が作用しているので問題なく動かすことができる。
人影は自分が何をされているのか理解できていないようで腹にイシルディンが突き刺さっている状態にもかかわらず、襲いかかってくるときと変わらず足や腕を走るときのように動かしていた。
その姿に気味悪さを感じながらもイシルディンによる箱が完成。完全に人影を封じ込めることに成功した。
「完全な処理は終わってからにしよう」
処理とは、研究の対象にする、あるいは殺すことである。殺し方や研究時の人影を制止する方法がわからない以上、それを見つける時間もないため、今は箱に閉じ込めた状態で放置することにしたのだ。
シルイトは他の二人を助太刀しようと左を向いた。
左ではコンフィアンザが人影と戦っているはずなのだが、今や二人のコンフィアンザがお互いがお互いを殺そうとしあっているようにしか見えなかった。ちなみに右ではリクトが戦っているはずだが、今は後回しだ。
コンフィアンザは見た目ではほとんど一緒で、これではどちらが本物かわからない。
戦闘スタイルもコンフィアンザと戦っている最中に学習していったようで見た目では区別が付かない。今や実力もほぼ完全に拮抗状態となっている。
「本物のフィアンはこっちを向け!」
シルイトの呼びかけにコンフィアンザは二人ともこちらを向いた。
そして、同時に。
「「なんでしょう、ますた?」」
これには薄気味悪さを感じたシルイト。
その後、お互いの発言に対して真似をするなとお互いが怒りを表すコンフィアンザ達。
それを見てシルイトはある一つの仮説を思いつく。
どういうものかというと、この人影達はシルイト達が魔境に入ってからずっとこちらを観察して振る舞いをチェックしていたのではないかという仮説である。
それならば魔境に入ってから、どころか生み出してからほとんど呼んだことのない呼び名で呼べばいいだけの話である。
「コンフィアンザ!返事しろ!!」
シルイトの予想は正しく、片方のコンフィアンザだけが返事をした。
「はいっ!ますた、私です!」
それを見て笑みを浮かべると、シルイトはもう一人のコンフィアンザの足を左手の人差し指で指さした。
その瞬間、もう一人のコンフィアンザの足には指と同等の太さの穴ができあがった。本来痛みであげるはずの絶叫はでない。本物のコンフィアンザであれば何かしらの反応はするので、これで相手が人影であったことがはっきりとした。開いた穴からは血すらでないが、これは今のシルイトの攻撃方法の仕様である。正確には弾が貫通すると同時に高熱によって血管が塞がれることによって生じる現象である。
続けてもう一方の足にも同じように指を向けると、これまた同じように穴が開いた。
人影は痛みは感じないかもしれないが、両足を負傷すれば立てなくなるようでその場で倒れ伏した。
「フィアン、大丈夫だったか?」
シルイトが対峙した人影と同じようにイシルディンで箱を造りその中に人影を収容しながら問いかけた。
「はい、私は大丈夫です。しかし、今の技はなんでしょう?」
コンフィアンザにとっても今のシルイトの攻撃方法は未知のものだった。
コンフィアンザの質問にシルイトは得意げな顔を向けながら返答した。
「今のはルクスリス、つまり電磁砲の応用形だよ。威力を極限まで局所化する代わりに発動スピードを飛躍的に向上させているんだ」
指の周囲に目に見えないレベルまで小さくしたイシルディンを漂わせて、指先には弾となるイシルディンをセットする。その後、周りを漂わせているイシルディンを回路となるように帯電させて打ち出すというものだ。
最初に思いついて実験したときでも発動時間は五秒もかからなかったため、出発前に練習を重ねた今となっては一秒以下まで押さえられている。
また、魔力を必要とするのはイシルディンの魔力吸収の範囲内で行われる発射時だけなので、魔境でも発動が可能なのだ。
「さすがはますたですっ!これであの王子も圧倒できますね」
「だといいけどな」
コンフィアンザによく似た人影を箱に収容し終えたシルイトはリクトの方を見た。
「とりあえずあいつを救助するか」
「必要ないのでは?仮にも堕ち人ですし自分でなんとかできる術を神から与えられていると思いますが」
あくまでも冷たいコンフィアンザの態度にシルイトも苦笑を余儀なくされる。
「でも、彼がもし死んでしまったら俺たちは神域には行けなくなる可能性が高いからね。ここで救っておいて恩を売った方が得だと思うよ」
あえてビジネスライクな態度を見せることによってコンフィアンザを説得することにしたシルイト。
コンフィアンザもそんなシルイトの裏を知ってか知らずか、すんなりと頷いた。もしかしたら、本当はリクトを救っておいた方がいいとはじめから思っていたのかもしれない。
リクトの方を見ると、高速で連写可能な銃器や、高威力な武器は全く使用していなかった。おそらくシルイトが戦闘直前に言った、環境を破壊しないように気をつけろという言葉を忠実に守っているのだろう。
リクトにとっても赤い月はどうにかしなければならない案件であり、下手すると解決のための糸口を破壊してしまうともなれば慎重に戦ってしまうのも当然のことだった。
相変わらずどっちが本物か全くわからない状況。コンフィアンザのときとは違い、今回は本物を攻撃しても特に不自由は発生しない。何しろ転送装置はすぐ近くにあることがわかっているし、転送の直前で下手に反抗されても困るからだ。
しかし、シルイトとしても人の情というものがある。それに、無駄に反感を買って余計反抗されても困るのだ。ということで、シルイトは今も戦いあっている二人に呼びかけることにした。
「ユーガミネ!返事しろ!」
さっきのコンフィアンザの件があったので、魔境に入ってからどころか、会ってから一回も呼んだことのない呼び名でリクトを呼ぶ。
案の定、片方だけが反応した。
それを見て、もう片方にパーマネントバレットによる銃撃を繰り出す。
コンフィアンザの人影と戦うときに銃を使わなかったのは、コンフィアンザが銃撃にある程度耐えられるように設計されていたためである。人影が体の剛性までコンフィアンザをトレース出来ている可能性もあったため、安全策をとったのである。
リクトは堕ち人であると言うこと以外は普通の人間なので容赦なく銃撃したのだ。また、リクトにルクスリスの存在をあまり知られたくないという考えもあっただろう。
なんとか襲撃者を押さえたシルイトたち。
シルイトは他の二人の人影と同じように、最後の人影も箱に収容した。
リクトはシルイトやコンフィアンザが話している間も戦闘を続けていたため息が上がっている。
「もうちょっと早く助けてもらえなかったかな?」
「こいつらの処分は後にしよう。まずは転送装置が先だ」
なんとなくシルイトが陸人の発言を無視した形になってしまったが、シルイトに何か深い考えがあるわけではない。
だが、コンフィアンザはシルイトの態度ににっこりと微笑んだし、リクトは戦闘後の息切れをまだ続けながら引きつった顔を見せていた。
そんな二人を横目にシルイトが歩き出す。コンフィアンザも小走りでそれに追いついて一緒に歩き出した。リクトは戦闘の疲れで若干ふらふらしながらもシルイト達について歩き出した。
歩くこと数分、三人はようやく神域へと至る転送装置にたどりついた。
次回は来週の土曜日に投稿します。




