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銀白の錬金魔術師  作者: 月と胡蝶
第四章 赤い月編
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扉の向こう側の真実


コンフィアンザが地下に降りてきたのと同じ頃、シルイトは目を覚ました。

辺りは薄暗く、体はドアノブを握ったときと同じ体勢のままだった。さっきまで鋭く痛みを発していた指輪は、もう光を失ってただの指輪となっている。

周りに目をこらし、錬金魔術も使って索敵を行ったシルイトは、敵がいないことを確認してふぅっと一息ついた。


改めて周りの様子を見てみると、壁は黒く透き通るようなつるつるとした石のようなもので造られており、床は似たようなつるつるとした触感で薄く光る青白い素材で造られていることがわかる。

自分が目を覚ました場所はちょっとした小部屋の中心で、中には装飾や家具は一切無く扉がない出入り口が一つあるだけだった。

部屋から外に出ると、一本道の廊下が続いている。廊下の途中にも特殊な装飾は一切なく、相変わらず材質がよくわからない石でできている。

廊下の先にはウィスターム邸の地下で見たあの扉と同じものが設置されていた。だが、今回はさっきと違い指輪が反応することもない。

今回はためらうことなくドアノブを握りドアを開いた。


開くとそこには一冊の本がそれを支える台座とともに設置されていた。

壁は相変わらずの黒い石で造られているのだが、血管のような筋が浮かび上がっている。さながら赤く光る月のようだった。


本は黒い部屋とは対照的な白っぽい背景に赤い線があしらわれた装丁となっている。

表紙をめくってみると、そこには月と神についてと書かれていた。


目次などはなく、もう一ページめくるといきなり本文が始まっていた。

本の内容は大体こんな感じである。

『あなたがこの本を読んでいると言うことはおそらくウィスターム家がほとんど死に絶えてしまったと言うことでしょう。何もなければここに来るまでもなく、ウィスタームの人間が教えるでしょうから。地上で何が起こっているのか、今この本を書いている私にはわかりませんが、神と呼ばれる存在が関わっている事件ならばこの本を読むことで解決できるでしょう。あなたがどの宗教を信仰しているのかはわかりかねますが、神は実在します。神は月に居り、この世界を観察しています。そしてその神はかなり執拗にこの世界に干渉してきます。多くの場合は異世界から自分の手駒となる人間を召喚して行動を起こさせるのですが、稀にこの世界の人間に力を与えることで直接干渉しようとすることがあります。その場合、世界そのものが変化に耐えきれずダメージを負うことになります。月の赤い光は出血現象と捉えることもできるでしょう。この部屋はそうした干渉を受けないように特殊な作りとなっています。その神と我々ウィスターム家は長い間対話を続けてきました。神を完全に消すことは不可能なので戦闘行為は無意味です。いかに双方にメリットになるか、幸いなことに神はあまり賢くはないのでうまく言いくるめることができればこちらが有利に事を運ぶことができます。そして神と会う方法は・・・』


この本からはウィスターム家が神と呼ばれる存在とコンタクトをとっていたことがわかる。

だが、シルイトは神と戦うことは無意味であるというこの本の文言には疑問を抱いた。無意味であることの理由として神を完全に消すことが不可能であると書かれていたのだが、どうしてそれがわかったのかについては全く書かれていない。当然の事実のように書かれているのである。いずれにしても実際会ってみるまではわからない、とシルイトは思った。


いつ書かれたのかもわからないこの本には神と会う方法も細部に至るまで載っている。とある場所に専用の転送装置が設置されているらしい。


一通り読み終えたシルイトは本を元の台に戻した。その直後、再び視界が暗転した。


気がつくと、本を戻したときと同じ体勢のままウィスターム邸の地下に戻ってきていた。

どうやら本は持ち出し禁止のようで、本を台座に戻すと転送装置が作動するようである。シルイトは自分の体に異常がないことを確認すると、次に周りを確認した。転送する前にはあったはずのもう一つの扉が今は完全に消えており、指輪も何の反応も示さない。


上の階からはコンフィアンザが料理をしている音が聞こえることからそれほど時間は経っていないことがわかった。

またしてもほっと一息つくと、シルイトは一階へと続く階段を上り始めた。


一階のキッチンでは音で聞こえたとおり、コンフィアンザが料理をしていた。


「あ、ますた。おかえりなさいませ」

「ただいま。何かこっちで異変はなかったか?」

「特にありません。ますたは何か収穫がありましたか?」


正確にはシルイトの叫び声を聞いていたのだが、気のせいだと思い直しているため口には出さないコンフィアンザ。


「ああ、結構な収穫だよ。ただし、その話は夕飯を食べながらしようか」


そう言うと、シルイトは自室へと戻っていくのであった。



そして夕飯時、シルイトは地下で起こったことを一通りコンフィアンザに話して聞かせた。

普通なら奇想天外なその話は嘘八百だと受け取られかねないものの、コンフィアンザは真実だと考えて疑わなかった。


「では、次の目的地は魔境という場所なのですか?」


神と会うための転送装置は魔境と呼ばれる高魔力地域に設置されているという。だからコンフィアンザは次の目的地が魔境であると考えたのだろう。


「そうだよ。錬金学園でも魔境について教わっていたのを覚えているかい?」

「はい。魔力があまりにも濃密になっている影響で生態系にも異変が生じているとされている場所ですよね」

「うん。おそらくだけど、転送装置を起動させるにはかなりの魔力が必要なんだと思う。だから周りから大量の魔力を集めることができる魔境が最適なんじゃないかな?」

「そう簡単に魔境に立ち入ることができるんでしょうか?授業では探索不可能とされていましたが」


コンフィアンザの疑問ももっともである。きちんとした対策をとらないと、コンフィアンザ自身はともかくとしても普通の人間であるシルイトは耐えられるはずがないのだ。

何がそこまで問題かというと、魔境に立ちこめる濃密な魔力である。魔術を使うものは常日頃から魔力に触れているため、魔力は体に悪影響を及ぼすものではないとつい思ってしまう。しかし、普通の空間とは比較にならないほど魔力が濃密だと話は違う。

薬も過ぎれば毒となる、という言葉もあるように何事も適量が大事だと言うことだ。


シルイトもコンフィアンザが魔境の魔力について言及していることがわかっており、自信満々の表情で質問に答えた。


「問題ないよ。イシルディンの魔力吸収を使えば何の影響も受けないだろう。問題は現地の生命体だな。一体一体がかなり強力だ」

「はい。しかし、ますたなら問題ないですよね?」


コンフィアンザの疑いを知らない眼にシルイトもうなずくしかなかった。

といっても根拠のないうなずきではない。ルクスリスの発動を飛躍的に早める工夫をシルイトは考えついていた。コンフィアンザが料理をしている間にシルイトが自室で行っていたのはその調整である。


「では、明日にも出発しますか?」

「準備をしてくれるのは構わないけど、すぐに出発するつもりもないよ。とりあえず女王に報告だけしておかないとね」

「本当に報告は必要なのでしょうか?先に赤い月をなんとかした方が良いのでは?」


何も知らない人が聞けばまっとうな問いだが、事情がわかる人からすればうさんくさい目を向けざるを得ない。

シルイトは苦笑しながらも微笑ましいといった表情を浮かべながら返答した。


「報告はしておいた方がいいよ。何も知らずにこの家に遊びに来てしまったら問題だし、第一にまだ神について調べ続けているかもしれないからね。報告したらすぐに魔境に向けて出発するからそこまで心配しなくていいよ」




そして翌日、二人は再び王城へと足を踏み入れていた。

城は未だに前日の戦闘の後処理のために人がごった返していた。その中にはリクトと学園でリクトを心酔していたファナティスの姿も見えた。



「シルイトは魔境へ行くんですか!?そんな危険なことは認められません!」


シルイトが女王に魔境へ行くことを伝えると、コンフィアンザが頭の中で考えていたとおりの反応を女王が見せていた。


「問題ありません、俺が開発した技術を使って魔境の魔力を無効化することができますので」

「ですが、あそこには凶悪な危険指定の魔物が多数生息していると聞いています。いくらシルイトといえども危険なのでは・・?」

「問題ありません、俺が開発した技術を使って魔物も効率的に排除することができますので」


シルイトの事務的ともとれる回答にむむっとなるセレネ女王。シルイトの実力を疑うような女王の発言にコンフィアンザも少しむっとした表情を見せるも、シルイトの対応を見て機嫌を取り戻した。


「わかりました。お気をつけて・・・」


しぶしぶ、と言った表情でシルイトの魔境への出発を認める女王。

もとよりシルイトの実力は先日の戦闘で知っているため、相手がそれなりの力を持っていたとしても対応できると考えたのだ。


そうしてシルイトとコンフィアンザの二人は魔境へと足を踏み出す。

一応、錬金学園での講義に魔境の内容も含まれてはいましたが、読み返さなくてもわかるように今後の話でも説明を加えます。


次話は来週の土曜日、零時に投稿します。

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