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銀白の錬金魔術師  作者: 月と胡蝶
第三章 王位継承編
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シルイト達の戦い その2

「フィアン、戦闘モード」

「了解です」


コンフィアンザの思考がかなり進化してきたため、モードである程度の行動を制限することで武器や魔術の許可を一々出さなくてもいいようにしている。

例えば、戦闘モードでは全ての武器や魔術を使っての殲滅行動を積極的に行い、相手が逃げたら一定範囲内であれば追撃する。護衛モードでは対象のそばを離れないようにしながら、捕縛や非致死性の魔術の行使が許可される。

今回は戦闘モードなので周囲の敵を手加減なく殲滅せよという命令が下されたのと同じである。


早速、親衛隊に向けて二丁の拳銃を構えた。

以前に親衛隊と戦った時、銃弾を逸らされたために、その銃身と銃弾には対策がなされている。

それぞれには細かな溝が彫られており、引き金を引くとその溝に沿って銃弾が回転しながら発射される。

回転している銃弾は、アーマープレートによって弾道をずらされそうになっても、銃弾自体にジャイロ効果が得られているため、姿勢が安定するので貫通する。また、回転することでそもそもの貫通力も増している。

二つの銃から放たれた二つの弾丸は、それぞれ二人の親衛隊員の頭を撃ち抜いて即死させた。

シルイトも取り出した拳銃を構えて親衛隊員一人を即死させた。


一方で、親衛隊員の方も反撃とばかりに銃撃を始めた。

明らかに王女を狙って撃とうとしているのがわかったシルイトは、王女の周りにイシルディンの壁を作って防御とした。

動揺した親衛隊員にここぞとばかりにシルイトとコンフィアンザが銃撃を浴びせて殲滅が完了した。


「な、この一瞬で・・」


いくら王女が連れて来た人物とはいえ、訓練を受けて数的にも有利だった親衛隊員が負けるはずがないと考えていたようだ。

だが、シルイトからすれば笑止千万である。対人戦において相手に動揺を見せるなど命を捧げるのと同義であり、いくらシルイトが摩訶不思議な防御をしたからといっても、それにすぐに影響されてしまうのは兵の練度が低い証拠であった。

だからこそ、王子に対する返答は若干の怒気がこもったものとなった。


「俺達がどれだけの修羅場をくぐって来たと思ってるんだ。訓練だけして実戦練習もしていないような連中に負けるとでも思っていたのか?」


シルイトの言葉にボモラ王子が奥歯をかみしめるような表情を見せた。

実際、貴族や王族の側に付く親衛隊は実戦経験がほとんどない。そもそも、高貴な身分の人ほど血を見るのを嫌がるので、ほとんどの刺客は水面下で暗殺されているのだ。

例えば刺客を倒している暗殺者と貴族のすぐ側に付いている親衛隊員を一騎打ちで戦わせてみれば、十中八九、暗殺者が勝つだろう。暗殺者が負けるとすれば、体が重くなっても平気なくらいの重装備かつ、金に糸目をつけないで高級な武具、防具をそろえたことによる道具の違いによるものだろう。暗殺者は一般的に動きやすくなるように装備が軽いので、たとえ一撃だけでも食らうと重傷になってしまう。


ボモラ王子は悔しそうな表情を見せていたものの、その表情はすぐに嗜虐的なものに変わった。


「それにしても、セレネ王女?あんたは魔術にご執心だと思っていたんだが、錬金術に浮気か?あのシル・・なんだったか、彼が聞いたらさぞ悲しむだろうな」


どうやらボモラ王子はシルイトやコンフィアンザが使う銃を見て錬金術サイドの人間だと見当をつけたようだ。

セレネ王女が思わず反論しようとするのをシルイトが手で押さえた。

ちなみに、王女の周りのイシルディンの壁は、襲ってきた親衛隊員を全員排除した時点で一時的に撤去している。


「自分が格下と思っている相手をいじめるのはさぞ愉快だろうな、小物君」


王子の注意を王女から自らにそらすように、シルイトが王子を挑発した。

王女は錬金術についてあまり詳しくないので、シルイトたちが使う銃が魔術によるものだと考えているのだが、王子は銃が錬金術によって作られていると知っている。

王女が王子の挑発にのってシルイトたちが魔術も使えると話してしまうと面倒な事態に発展しかねないのだ。


「・・なんだと?」


シルイトの作戦は成功したようで、王子の目線は王女からシルイトへと移った。

だが、シルイトは念のためにもう一度挑発することにした。


「おや、耳までわるいようだ」


シルイトの度重なる挑発にとうとう王子が耐え切れなくなったのか、残っていた王子の周りの親衛隊員二人に指示を出した。


「もう構うものか!あいつらを殺れ、王女優先でなくていい、殲滅だ!!」


すると、命令通りにこちらに襲い掛かって来た。

こちらに向かってくるたたずまいからしても先ほどの親衛隊員とは一線を画す戦闘力を保持していることは明らかだった。

走る姿には無駄が極力省かれた実戦的なものを感じる。上下の動きがほとんどなく、体を低姿勢にして滑るように走っている。

だが、その衣装は戦闘用とはほど遠く、金属製のアーマープレートも装備していないような軽装である。そのため、暗殺者と勘違いしてしまいそうだが、貴族に付く親衛隊員にふさわしいようにするためか、ジャケットを羽織っている。上に羽織ったジャケットの内部に武器が仕込まれていそうなことはわかるが、どちらかというと近接戦に重きを置いた装備だとシルイトは判断した。

一応、王女の周りをイシルディンの壁で覆い、シルイト達は戦闘を開始した。


「どうされますか、ますた?」

「とっとと終わらせよう。フィアンは右の奴を頼む」

「了解です」


コンフィアンザに一人を任せたシルイトは、もう一人の方を見た。

既に銃をこちらに向けて構えているのがわかったため、慌ててイシルディンで壁を作る。

撃たれる前に撃つというのは戦闘における基本的な戦術の一つだろう。ましてや親衛隊員の方は銃を一発撃ち込まれたらそれだけで致命傷を負いそうなほど軽装なのだから。

親衛隊の一人が銃を撃った直後、五回連続で銃弾が壁に当たる音が聞こえた。


「五点バースト・・最新式か」


引き金を一回引くごとに五弾が連続して発射される五点バースト式は一点制圧に長けているため、一撃の威力は高いものの、一回撃つたびにリロードが必要で、そのリロードに若干時間がかかることが知られている。やはり初撃で決着をつけるつもりだったようだ。相手がシルイトのように一瞬で防壁を作ることができなければ勝てたかもしれない。

シルイトも銃の性質をわかっていたため、すぐに壁を解除して反撃を始めた。

といっても以前とは別の手段で弾道を逸らされることも考えられるということで、念のためにパーマネントバレットを使用することに決めたシルイト。


「・・パーマネント」


すさまじい殺気と共に放たれる銃弾。その弾道はまっすぐやってくる親衛隊員の額に向かっている。

相手が殺気にひるむことはなかったが、その程度は予想済みである。

だが、シルイトは思わず驚きの声を漏らすことになる。


永久不変の弾道を保証するパーマネントバレットが生身の肉体であるはずの額にあたると、そのまま押しつぶされたかのようにぺちゃんこになって地面に落ちたのだ。

銃の説明は現実世界に則したものではないです。説明が似ていたとしてもたまたまです。


次話は次の土曜日の零時に投稿します。

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