閑話 栄光のウィスターム
お待たせいたしました。
今後は週一での更新を目指しますが達成できなかったときはすいません。
これはウィスターム家が王都の盾として輝かしい活躍を見せていたころのお話。
ウィスターム家当主であるヘレデス・ウィスタームとその長男にして次期当主のシルイト・ウィスタームは国王直々の勅命により王城に赴いていた。
といっても、特に悪い知らせがあるわけではない。
王家とつながりの深いヘレデス親子は度々王城に呼ばれては国王と他愛もない世間話をすることになるのであった。
最近は別の人物が呼び出しているような気もする、とヘレデスは感じているがそれは息子次第だろうと考えていた。
「ヘレデス様、シルイト様、ようこそお越しくださいました!」
出迎えてくれたのはメイドや執事ではなく、かといって国王自らというわけでもない。
そこにいたのは可愛らしいドレスに身を包んだ少女であった。凛としたオーラを発してはいるもののその表情は喜びに満ちている。
彼女の素性はというと、言わずと知れた国王の長女、セレネ王女である。年齢はシルイトと同じで来月八歳となる。
最近はこのセレネ王女がいつも出迎えてくれている。
「ありがとう、セレネちゃん。ほらシルイト、遊んでおいで」
「うん!」
本来なら王女といえどちゃん付けは不敬罪にもなりかねないのだが、王国で一二を争う名家であり、かつ国王と直接の関係を持つヘレデスならではである。
一方でシルイトとセレネは楽しそうに会話を弾ませながら城内を歩き出した。
向かう先は中庭。いつもシルイトが覚えたての魔術をセレネに披露している場所だ。
「シルイト様、今日は空に浮かぶ魔術が見たいです」
「いいですよ。ただ、危ないのでそれほど高くは飛ばせませんからね」
「それでもお願いします!」
年齢的には二人とも同い年なのだが、精神年齢で言えばシルイトの方が兄でセレネは妹のようであった。
そうして話しながら歩き、二人は中庭に着いた。
中庭は窓ガラスで囲まれた空間で、花々が咲き誇り、中心には大きな木が植えられている。
上を仰げば青空が見えるが木の葉の下へ行けば雨の日でも雨宿りができる。
「それでは、まず何を浮かばせますか?」
「じゃあ、私を浮かばせてみてください」
「わかりました。行きますよ」
そう言うとシルイトは小さな声でブツブツと詠唱をした。
するとそのあと、セレネの足元に魔術陣が浮かび上がった。
「調整が楽なので魔術陣による浮遊魔術を用います。今の詠唱はいわば魔術陣を描くための魔術といったところです」
セレネを心配させないように今自分が何をやっているのか説明しながら魔術を行使していく。
通常魔術師は集中力が切れると魔術が乱れるのだが、説明しながらでも行使できるのはやはり王国最高の魔術貴族の長男ならではだろう。
セレネもシルイトを信頼しているのかその表情に不安はまったく見えない。
むしろワクワクした様子で口角も上がっている。
シルイトは説明を終えるとゆっくりと魔術陣に魔力をこめ始めた。
魔術陣が淡く光りだし、まず一番軽い空気がふわりと浮遊をはじめ上昇気流が発生した。
すると案の定、セレネのスカートがふわりとめくれてしまった。
「きゃああ!!」
「うわぁっ!ご、ごめん!」
急いで魔術陣を消すシルイト。
「安全を意識して魔術陣にしたのが失敗でしたね。魔術陣の上すべてが魔術の効果範囲になってしまいますから。詠唱のみにすれば効果範囲を細かく指定できるので、特にこのような効果の・・」
「ねえ、」
言い訳をしつつ魔術談義に入ることでなんとか話題を変えようとしたシルイトだったが想定外に低いセレネの声によって完全に遮られた。
「ねえ、謝罪は?」
「すいませんでしたぁ!」
直角に頭を下げるシルイト。もし父親だったとしてもさすがに王女の下着を見てしまえば不敬罪にあたるかもしれない。これはとことん謝り倒すしかないと考えた結果だ。
「もう・・私・・・お嫁に行けないです・・・」
顔を真っ赤にして小さな声でつぶやいたセレネの言葉を聞いてしまったシルイトは混乱しながらも必死に頭を働かせた。
「ぼ、僕でよければ結婚します!」
それを聞いたセレネは逆にもっと顔を赤くして思わずシルイトの方を見た。
二人でお互いを見つめ合ってやがてセレネが答えようとしたときに中庭に入る扉がガチャリと開いた。
「今、女の子の悲鳴が聞こえた気がしたが大丈夫か!?」
声のする方を見るとそこにはシルイト達より幾分か年齢が高い少年が辺りを見回しながら立っていた。
そんな少年をしり目に茂みに隠れたシルイト達は小声で話し合い始めた。
「あれは、私の兄のボモラ王子です」
背が高めで痩せ気味なボモラ王子はお世辞にもセレネと似ているとはいいがたい。異母兄弟なのだろう。
「セレネ王女の兄というとボモラ王子は・・」
「はい。王位継承権第一位です」
「なら、ここは呼びかけに応えておいた方が良いんじゃないですか?」
そう言って茂みから出ようとしたシルイトをセレネは懸命に引っ張って抑えた。
「ちょっと待ってください」
「? なんです?」
「あの人は私のことを目の敵にしているんです。私も一応王位継承権は第二位ではありますしあの人と対等に競えるくらいには王城内での地位もあるので」
「それならなおさら無関係の僕が出ていって王子に何もないと伝えた方が良いんじゃないですか?早々にお引き取り願うということで」
「私の後援をウィスターム家がしてらっしゃるということはご存知ですか?」
「まったく知りませんでした」
「実はそうなんです。なのでウィスターム家の次期当主であるシルイト様が出ていかれても面倒な事態になるかもしれません」
「それでも、王子は中庭を一通り調べるおつもりらしいですよ」
ふとボモラに目を移すと目線を下に下げて異変がないか確認しながら中庭を歩き始めていた。
「仕方ありませんね。ここは出ていくことにしましょう」
がさりと音を立ててシルイト達は立ち上がった。
いきなり現れたシルイト達にびっくりした様子のボモラだったが現れた人物が誰か分かるとムッとした表情をした。
「なんだ、お前らか。こんなところで何をやっている?」
「こちらのシルイト様に魔術について教えてもらっていたんですの。とても興味深いんですよ」
「ふんっ。このエスカメシオン王国の王たらんとする者は魔術や錬金術、どちらかに肩入れすることは許されないんだぞ」
「きちんと図書館で錬金術も勉強しているので問題ありません」
特に言うことがなくなったのか、再び「ふんっ」と鼻息を出すと中庭の出口の方へ足を向けた。
帰りがけにボモラはふとシルイトの方を振り返って言った。
「そんな女に媚びていては王国最強のウィスタームの名は返上せざるをえなくなるな」
そしてシルイトの返事を待つこともなくそのまま去っていった。
あとに残された二人はしばらく黙ったままだったが、うっぷんが溜まりきってしまったのかセレネが声をあげた。
「なんですか、あの人は!?あれが兄が妹に接する態度でしょうか!?」
「まあまあ。王子も次期国王の選定なんかでピリピリしているだけだと思いますよ」
「いいえ!あの人は性格が曲がりに曲がりきってるんです!気を付けてくださいねシルイト様。もしかしたらあの人の手の者から闇討ちに合うかもしれませんよ」
「来たとしても大丈夫ですよ。僕もそれなりに強いですから」
そうしてセレナから放たれる王子の愚痴を聞いているといつの間にか時が経っていたようでヘレデスがシルイトを迎えにやって来た。
「あ、魔術を教えてもらうの忘れていました」
「あ、そうでしたね。では、また今度来た時にでもお教えします」
「楽しみにしていますね」
そう言ったセレネの表情はとても晴れやかで不幸を知らない乙女のような純真さがあった。
しかし、この日がウィスターム家としてシルイトが王城に出向いた最後の日となった。
貴族としてのウィスターム家はもう、存在しない。
第四章のタイトル通り、今回からはなかなか名前が再登場しなかったエスカメシオンという王国の中枢である王城や王様をめぐるお話が展開していきます。
といっても名前的にも態度的にも悪役が誰かはわかりますよね。
次話のプロットもほぼ完成してきたので来週の同じ時間に投稿します。




