勇者の足跡 その1ーリクトの視点ー
俺の名前は勇ヶ峰陸翔。
日本の普通の公立高校に通うちょっと銃マニアの普通の高校一年生・・だったはずなんだが。
高校に入って約三か月が経過したある日、俺は新しくできた友人たち2人と学校へ向かっていたんだ。
そしたら急に目の前が真っ白になって木がついたら俺は森にいた。
一緒にいたはずの2人はどこにもいなかった。
初めは誘拐かと考えたけど拘束もされていなかったからとりあえず探索することにした。
歩き始めてすぐに牛くらいの大きさのイノシシが草の影から姿を現してこちらへ襲ってきた。
もう死ぬかと思った矢先、頭の中に女性の声が聞こえて来た。
【私はあなたを導く者。あなたは敵を倒す術をすでに手にしている。そしてそれをすでに知っているはず。思い出しなさい!】
その言葉を全部聞き終わるころには俺はイノシシを倒していた。
ほとんど反射的に銃を撃ち込んだようだ。
右手には撃ちおわって銃口から煙をあげている拳銃が一丁。
どうやら死ぬことは免れたらしい。
一息ついて今自分がどうやって拳銃を取り出したか考えてみると、自分に特殊な力が身に着いていることに気が付いた。
全知創造術という大層な名前がついているこの能力は創造したいものの名前、個数、創造する場所を指定することでどんなものでも創り出し使用することができるようだ。
重度の軍事マニアだった俺は地球に存在していたほぼすべての武器の名前を記憶していたので今後戦力に困ることは一切なくなることになる。
ただし、同時に創造できる個数は2つまでらしく、かつ創造したものは一度手で触れた後にその手を離すと消えるらしいので2つ創造したあとにもう1つ創造したいときは消したい方を手で持ったうえでそれを手放すことで消してからもう1つを創造する必要がある。
しかし、デメリットと言えど微々たるもので大層な名前に恥じない大層なチートを手に入れた俺はウハウハ気分でとりあえず町に行こうと思い立った。
軍用ヘリコプターを創造しても良かったんだが操縦方法がわからないためとりあえずマウンテンバイクを創造することにした。
しかし、マウンテンバイクと言って創造しようとしても効果がない。
どうやらもっと細かい名前を言わないとダメなんだろうが特に詳しいわけでもない俺は早々に諦めてひとまず歩き出すことにした。
地球の武器は基本何でも知っているのでいざとなれば何かしら強い武器の名前を言えばいいと考えた。
異世界の武器を創り出せるとかチートすぎるだろ。
自身を得た俺は悠々と歩くこと約三十分、とうとうかなり大きい街を発見した。
街の周りはぐるりと石造りの壁で囲まれておりどことなく中世の世界を思い起こさせる。
門は開かれていたため気にせず中に入った。
門の中は馬車や人がたくさん行きかうとても活気のある町であった。
ひとまずこの世界について、地球と違うのかどうなのか、どんな世界なのかを知るために図書館を探すことにした。
遠目で見てこの町がどれだけ大きいかはわかっていたので近くにいる人に聞こうと考えたのだが、そこで言葉が通じるかどうかわかっていないことに気が付いた。
下手をすると図書館に行っても字が読めない可能性もある。
どのみちこうしていても始まらないので意を決して近くに立っていた女性に話しかけてみた。
「あの、図書館はどこにありますか?」
言葉の意味がわからないようならすぐに頭を下げて逃げようと考えていると、なぜかその女性は顔を赤らめて呆けた表情でこちらを見ている。
態度が判別がつかなかったので少し待っているとやがてハッとしたかのように表情を戻したその女性が口を開いた。
「あ、すみません!すこしぼうっとしていました。図書館ですよね。図書館なら王都の東側なのでこの近くです。よければご案内しましょうか?」
言葉が通じたことにホッとしながらも案内を頼み歩くこと約十分ほどで図書館についた。
案内してくれた女性に礼を言って図書館の中に入る。
看板の文字も読めたので字が読めないということもなさそうだ。
目指すはこの世界について書いてある本。
幸いにもマップが貼られていたのでさほど時間もかからずに目当ての本を手に取ることができた。
情報が偏らないように同じような本を三冊くらい机に持っていき、座ってじっくりと読み始める。
そこでいろいろなことを知った。
まずこの世界は地球とは全く別の場所にあるということ。
錬金術と魔術が発達した世界であること。
そして自分のように異世界から人が来ることはまれにあるということ。
そういう人たちのことを主に堕ち人と呼ぶが一部の地域では勇者と呼び崇めていること。
堕ち人は総じて錬金術でも魔術でもない神聖術と呼ばれる不思議な技を使うことができるということ。
神聖術には何種類かあって自分の神聖術は錬成型に属していること。
などなど、この世界の基礎知識はだいぶ頭に入った。
そしてまずはこの世界でいろいろと行動するために下地を作っていかなければならないことがわかった。
この世界で一文無しが手っ取り早くお金を稼ぐ方法はいくつかあるが、もっとも効率がよさそうなのは王立ギルドに行きトレーダーとして登録して報酬の高い危険指定を自前の神聖術で倒しまくるのがいいだろう。
その後は適当な学校に入学してこの世界についてさらに深く知ろう。
そう決めた俺は手早く本を片付けるとギルドの方へ向かった。
もうこの町の事も頭に入っている。
エスカメシオン王国の中枢、王都。
外壁が二重に築かれており外側の壁の門は緊急時以外は開いている一方で内側の壁の門は正式な身分や招待状がないと入ることができなくなっているらしい。
内側の壁は外側よりも強固になっており錬金術で強化された石材でできた壁を魔術で守護しているようだ。
壁の中には超がつくほどの有力貴族や王族が住んでいる。
いちおう例外的に王都の外に家を構えていたところもあったらしいが今では貴族の身分を剥奪されたらしく実質貴族は全員最奥部に居住している。
最終目標は内側の壁の中に家を構えることだなとぼんやりと考えた。
図書館で学んでいたことを頭で整理しているうちにギルドまでたどり着いた。
もちろん地図は頭にインプット済みなので迷うことはない。
もし迷っても本の題名は頭に入っているので本ごと神聖術で創り出すことも可能だ。
ギルドで手早くトレーダーとしての登録を済ませた。名前は小説と同じようにファーストネームを先にする。文字は何のチートか読み書きできるようになっていたので特に問題はなかった。
相変わらず受付の女性には顔を赤らめられたがなぜかはわからない。流行り病か何かか?
そこまで強くなさそうでかつお金を稼げそうな危険指定としてAランクの危険指定を討伐することに決め資料を読む。
勇者である俺ならそう死ぬことはないだろう。
それに小説のように話が進むなら戦闘だけじゃなくてハーレムとかも作れるかもしれない。
少しにやけそうになる顔を抑えながら手ごろな危険指定を発見。
王都からそこまで遠くなく、かつそれなりに報酬が高い。
資料を元の位置に戻してさっそく出発した。