二つの戦い その3
今まさに鉄の槍が生み出されようとしているリクトの右手。
それに掴まれている限り左脚もろとも生み出された槍でシルイトは貫かれることになるだろう。
しかしシルイトが足を思いっきり揺らしてもリクトの手がはがれる予感は全くなかった。
仕方なくリクトの手を切り離そうとも考えたが右手だけで創造できる場合は切り落とされても脚が掴まれている限りは槍が生み出されて貫かれかねない。
策を考えているうちに右手が淡く光りだした。
槍の創造の前兆である。
シルイトはいよいよ本気になって左脚をぶんぶんと動かすが右手が離れる気配は全くない。
せめて足が貫かれるだけで済むようにとシルイトは床に座り足だけ前に出して痛みに耐えようと目をつぶった。
そして次の瞬間、リクトの右手から鉄の槍が生み出され・・なかった。
【拠点防衛錬金魔術、ユグドラシルを緊急展開します】
脳内で人工音声が流れるとリクトの右手の指の間からイシルディンが次々と出てきて集合球体へと吸収されていく。
生み出された鉄の槍を片っ端からイシルディンに変換してダメージをなくしているのだ。
シルイトは金属、特に鉄であればほぼ無条件でイシルディンに変えることができる。
ユグドラシルはこの技術を使ったのである。
シルイトは自分が作った技術を使うことを思いつけなかったためについ苦笑いした。
槍を作り出したことでとうとう完全に力をなくしたようで、リクトの手がシルイトの足から離れた。
こうしてシルイトはリクトとの戦いに勝ったのである。
「一時間は話を聞けないことになるのか」
シルイトは簡単な治癒魔術をリクトにかけて失血状態だったリクトをある程度まで回復させた。
ちなみに治癒魔術とは、体内に生体エネルギーを充満させることで代謝を急激に向上させて傷口をふさぐというものだ。
治癒魔術をかけおえたシルイトはリクトを肩に担いでその場を離れた。
リクトが創り出した銃や透明な板はリクトの手を離れると同時に消えてしまっていたため研究用に持ち帰ることはできない。
なお、施設から出る際にはパスカードは必要ない。
これは試合などの際に入るタイミングはバラバラでも出るタイミングはみんな同じなため帰りもパスカードによる認証を全員にすると大混雑するからだ。
第四練習場から出たシルイトはとりあえず索敵魔術を行使した。
自分に何かアクションがあった時はコンフィアンザにも何か起こる可能性があると考えての行動だ。
すると、案の定コンフィアンザともう一人が校舎裏でなにかしていることがわかる。
そこでシルイトは校舎裏に向けて歩き始めた。
シルイトにとっては雑に運んでいるつもりは毛頭ないのだろうが、シルイトが歩くたびにリクトの頭が何回もシルイトの背中にぶつかっている。
そうして行きと同じように約十分歩くとシルイトは校舎についた。
そのまま中には入らず裏へと回る。
校舎裏ではコンフィアンザと一人の女子生徒が仲良く談笑していた。
本当に敵ではないのか、もし敵ではないのならなぜ校舎裏なんかで談笑しているのか。
降り積もっていく疑問の山を前に数瞬固まっているとシルイトに気付いたコンフィアンザが会話を断ち切ってトテトテと歩み寄って来た。
コンフィアンザはシルイトが肩に担いでいるリクトをちらりと見た後すぐに興味をなくしたようにシルイトの方を見た。
どのみちリクトの顔はシルイトの背中に隠れていて見えないためコンフィアンザにも誰が担がれているのかはわからないだろう。
「あ・・!ますた。なにか御用がありましたら私の方から行きますのに」
「いや、そんなことより、彼女は誰なんだ?」
シルイトが指をさす先には金髪縦ロールの女生徒が立っている。
「あの人はファナティス・カーディオットさんです」
「カーディオット?貴族か。俺はシルウィス・ワイバーだ。よろしく」
貴族の人、そう結論づけてその場を終わらせようとしたシルイトに金髪縦ロールもといファナティスから横やりが入った。
「ただの貴族ではないんですのよ!私は宰相の娘ですの」
「へえー」
既に実家が没落してしまったシルイトにとっては宰相だろうが圧力をかけられても問題はない。
シルイトの反応が気に障ったのか口を少しへの字に曲げて眉毛をひそめた。
「やけに薄い反応ですわね」
「別に。それよりもうちのフィアと仲良くしてくれてありがとう」
「いえ、こちらこそですわ」
「そうか。ではさようなら」
「さようならです。ファナティスさん」
「ええ、さようならですわ、お二人とも」
そうして三人は別れた・・わけではなく。
「って、危ないところでしたわ!私、ウィスターさんを学校から出ていくように説得していたところでした」
その言葉にシルイトがふと立ち止まり振り返ってファナティスの方を見た。
シルイトの行動に合わせてコンフィアンザも立ち止まってシルイトの顔とファナティスの方を交互に見ている。
「それはフィアに自主退学しろということか?」
「ええ、そうですの」
ファナティスの肯定を聞いたコンフィアンザからは微かに殺気が漏れ出た。
コンフィアンザはこのタイミングで初めてファナティス自分を退学させようとしていたことに気づいたのである。
「理由は聞かせえてもらえるか」
「一身上の都合ですの。あまり詮索しない方が身のためですのよ」
「それでも何の理由もなく退学しろというのはおかしい話だろう」
「あら、なぜウィスターさんの進退の件でワイバーさんが追及しますの?」
ついいつもの癖でコンフィアンザの事を自分が決めようとしていたシルイトに追及の言葉が刺さった。
「あー、それもまた一身上の都合ということで」
「では、私についても言及しないでほしいですわね」
「わかったよ、それでもこいつが退学する予定は今のところないから。そう思っとけ。もし強引にでも退学させようとしたら容赦はしない。――いくぞ、フィア」
「はい、ますた」
シルイトが肩から落ちかかっているリクティ―を担ぎなおしファナティスに背を向けた途端、ファナティスが大きな声をあげた。
「リクト様!!」
急なことにシルイト達も思わず立ち止まってファナティスの方を再び振り返った。
「ちょっとワイバーさん?なぜリクト様があなたに担がれていますの?」
「さっき模擬戦を申し込まれたから気絶させただけだ」
「そ、そんな・・・」
「ファナティスさん、もうすぐ授業が始まりますのでそろそろいいでしょうか」
「え、ええ」
混乱しきっているのかコンフィアンザの問いにもうわの空でこたえるファナティス。
ファナティスのあの様子だとコンフィアンザに退学を迫ったのもただの嫉妬心だろうとあたりを付けたシルイトも納得顔でリクティ―を担ぎながらその場を去っていった。ファナティスはまだその場に立ち尽くしていた。
一時間後、コンフィアンザとも別れ、シルイトはリクトからいくばくかの情報を聞き出すことにした。
情報を聞き出すにあたり自白剤をリクトの首に打ち込んでリクトを半ば夢の中にいるような状態にさせる。
本当はウィスタームという名前を誰から聞いたのかを知りたかったシルイトだったが名前は聞いていなかったらしく、ただ二年生の女子生徒であることだけがわかった。
また、リクトの出自も判明した。
リクトは異世界からやって来た堕ち人である。
情報を聞き出した後は、リクトが本名を知ったのは今日の早朝ということだったのでここ半日くらいの記憶を消す薬をリクトの首に打ち込んだ。
正確に本名の記憶だけ消すことはできないため、シルイト達に二度とかかわらないとリクト自身が約束したことも忘れてしまうことになる。
また模擬戦をしなければならないことに半ば辟易としながらも記憶が消える副作用で眠りについたリクトを校舎横の茂みに放置してシルイトは教室に向かった。
とっくに始まっていた一時間目の授業担当の先生に事情を聞かれて焦ったのはまた別の話である。
堕ち人については次話で分かると思います。たぶん。




