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銀白の錬金魔術師  作者: 月と胡蝶
第二章 学園編
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二つの戦い その2

「今日だ」


そう言ったリクトはすたすたと模擬戦用のフィールドがある場所に向かって歩き出す。

これはもう避けられないなと思ったシルイトも追うようにして歩き出した。


そもそも模擬戦をやること自体はそこまで苦ではない。

シルイトにしてみれば自らの技術を出し惜しみする理由はほとんどない。

むしろ自分が普段使っている技術を見てだんだんと錬魔術を広めていこうとも考えているくらいである。

もちろん今回はブラッキーの動向を探るのも目的であるためあまり派手な行動はできないのだが。


そうして歩くこと約十分、集団は一つの施設の前で足を止めた。

ホームルームまでもう大した猶予は残されていなかったためシルイトは早く決着を付けようと考えている。

足を止めた施設は一見するとコロシアムの外観を呈しており圧倒されるほどに巨大である。

上空には全体を覆う屋根がありどんな爆弾を使用しても最低一回は持つくらいの強度の素材が使われているという。

ちなみに名前は第四練習場。

もともとは学年ごとに第一から第三までの練習場だけだったのだが、個人的に錬金術の実証をしたいという生徒の声にこたえて作られた第四練習場が今ではほとんど模擬戦のみに使用されている。


その練習場の入り口まで来ると許可は取ってあるのかリクトがカードを手に持って入口の横にある読み取り機にかざした。

このカードはパスカードといい、入学するとすぐに配られるもので実験室や部室などの鍵が必要になった時に先生に申請すると申請した時間帯にのみ鍵として使うことができる。


そうして練習場の鍵を開けたリクトは後ろを振り向くことなく中に入っていった。

その後をシルイトが追っていく。

学園の施設はオートロック式なので五分間、人の往来がないと自動的に鍵がかかるようになっている。

逆にいうと前の人について行けば何人でも通行することができる。


シルイトが中に入るとリクトはフィールドの上でシルイトの方を向いて立っていた。

リクトはシルイトがたった今入って来た入口と対角線上の反対側に立っている。

いつの間に移動したのだろうか。


「俺が勝ったらお前にはこの学園から出ていってもらう」


学校から出ていく、つまりは退学である。


「ふぅ~ん。別にいいけど、勝敗はどうやって決めるんだ?」

「相手を一分間気絶させるか、・・もしくは殺すかだ」


二人の間の空気が凍り付く。

リクトはシルイトを殺そうとしているのかもしれない。

そこまでの憎悪を買った覚えはシルイトにはなかったがシルイトは一つの秘策を用意している。

この秘策がある限り死ぬことはあり得ないと考えたシルイトはその提案に同意した。

さしずめ今のシルイトの考えはこんなところだろう、”いい実験材料だ”と。


「それでいいよ。じゃあこっちが勝ったら金輪際俺たちに関わらないでもらおうか」

「・・・開始だ」


リクトはシルイトに返事をすることなく開始の合図をした。


『ジェネレート、M249、個数は2、両の手に』


リクトがぼそりとつぶやくと前に突き出した両手が淡く光った後、それぞれの手にかなり大きいタイプの銃が出現した。

一方でシルイトは魔法とも錬金術とも異なることをしているリクトを観察している。


『ジェネレート、5.56mm弾、個数は400、等分して両手の銃に装填せよ』


再びつぶやくとリクトの両手が同じように淡く光った後、持っている大型の銃が弾の重みでぐらりと揺れた。

そしてにやりとリクトが笑う。


「悪よ、滅べ」


直後、リクトが持つ大型の銃それぞれが火を噴いた。

しかしまさに撃たれようとしていたシルイトの顔には動揺の表情は全くうかがえなかった。

そうして射撃によって打ち出された弾丸がシルイトのすぐ前にまで迫ったその時、シルイトの頭の中で人工的な音声が流れる。


【拠点防衛錬金魔術、ユグドラシルを緊急展開します】


と、同時にシルイトの前に巨大な銀白色の壁が現れ発射された弾丸が全て壁に当たって下に落ちていく。

その壁はシルイトがいつも腰に身に着けているイシルディンの集合球体から形成されている。


これがシルイトの秘策、ユグドラシルである。

このユグドラシルというのはもともとシルイトがウィスターム邸を守護するために作った錬金魔術(錬魔術)である。

効果は事前に設定しておいた装備が近くにある場合に限り、事前に設定した対象を守護するためにそれを自動で活用するというもの。

ウィスターム邸はこのユグドラシルをつかって絶対領域内に敵が侵入したことを感知すると自動で自己防衛するようになっている。

また、シルイトとコンフィアンザに対しては半径5メートル以内に殺傷性のある攻撃が迫った時に自動で展開されるようになっている。

ちなみに危機が去ると自動で解除される。

ウィスターム邸を幹、シルイトやコンフィアンザを枝に見立てて総じて巨木と見なしたのがユグドラシルという名の由来である。


今回の戦闘を例に挙げるとリクトの銃弾がシルイトの半径5メートルに入った瞬間にシルイトの脳内でアナウンスが流れてユグドラシルが展開される。

そして自動でイシルディンが操られてシルイトをカバーするように壁が出現した。

この錬魔術のメリットは動体視力や反射神経ではさばききれない攻撃からも身を守ることができる点だ。

もちろんデメリットも存在する。

例えば、自身の魔力が尽きているときはもちろん使えないし、ウィスターム邸かシルイトかコンフィアンザの誰かが展開している間は別の人は誰も展開できないという点である。今回は誰も展開していないという自信があったのでシルイトはユグドラシルを展開したがコンフィアンザも含めての乱戦の場合は愚策となる。

そして銃弾は全て床に落ちて速度も失ったためユグドラシルは解除された。


イシルディンの壁に守られたシルイトは壁を再び集合球体に戻すと無傷の状態でリクトの前に立っていた。


「なんだその壁。錬金術に近いがそんなに柔軟性のあるものを作れるものか?」


この模擬戦でシルイトがイシルディンやユグドラシルを出し惜しみせず使っているのはひとえに見学している人がおらず唯一の目撃者であるリクトも情報を聞き出し次第記憶を消す予定だからだ。

もし第三者が見ているような正式な試合であったならば少なくともユグドラシルは絶対に使わないだろう。


「リクトこそ、その銃本体もそうだし手に出現させる方法も召喚なのか創造なのか。いずれにせよ錬金術でも魔術でもないね」

「こっちにはこっちの事情があるというものだ」

「そうかい、といってもなんとなくあんたの正体はわかってきたよ。ともかく今度はこっちから攻撃しようかな」


そうつぶやいたシルイトは腰のホルスタにしまっている一丁の銃を取り出してリクトに向けて構えた。

対抗するようにリクトも右手に持っていた銃を捨てて手のひらをシルイトに向けた。

両手で構えたシルイトはリクトの方を見る。


「パーマネント」


猛烈な殺気で危険指定と同じように一瞬だけ行動が止まるリクト。

しかし、対策はしてあったのか淡い光と共に透明な板がリクトの右手から生み出された。

リクトはこれで安心とにやりと笑うがシルイトのパーマネントバレットはお構いなしに板を突き破りリクトの腹部を貫いた。

失血と痛みで立っていられなくなり思わずその場で倒れたリクト。


「まだ俺と戦うか?」

「ち、くしょう。どうして・・」


リクトは顔を歪ませながらシルイトの方をにらみつけている。

おそらく自信をもって造り出した自分のガードを突き破った理由がわからず悔しかったのだろう。

シルイトはこれで終わらせるべくリクトの方へ近づいていく。

リクトはあきらめたのか依然としてシルイトの方をにらみつけてはいるものの体は完全に脱力している。

あいにくと気絶させる効果のある鎮静剤が入った容器は教室のカバンの中なので今は持っていない。

よって単純にイシルディンで殴って気絶させるだけである。


そうしてシルイトが横たわるリクトの隣まできたその時、リクトは急に右手を脱力していたとは思えない素早さでシルイトの足をつかみ口を開けた。


『ジェネレート、鉄の槍、個数は1、右手から垂直上向きに』


そこまで言うとリクトは力尽きて気を失った。

今まさに鉄の槍が生み出されようとしているリクトの右手は気絶してもなおがっちりとシルイトの左脚を掴んでいた。



~~



「ウィスターさん。あなた、この学校から出ていってくれませんこと?」


全く予想だにしていなかったセリフに思わずコンフィアンザは固まってしまった。

それを自らに恐れているのだと勘違いした女生徒はさらに言葉を続けていく。


「もしかしたらもう知っているかもしれませんけど、私の名前はファナティス・カーディオット。この学校、王立錬金術学校にも出資している現宰相であるオートリダット・カーディオットの娘ですの。もし私に逆らって学校に残るようならあなたの家もつぶしてしまえるくらいには権力がありますのよ」

「まだよくわからないのですが、」

「なにがですの!」

「あの、私は毎日授業が終わったら学校から出ていくのですが」


コンフィアンザのコミュニケーション能力はまだ完全とはいい難いようだ。

というわけで、第一章の「敵の正体」で登場した防衛錬金魔術が実用的な水準になって運用も開始されていたというお話です。

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