第五十七話 お茶会?
とりあえずミラの希望もあって、水の結晶を魔石に加工して貰うのを一番に考えようって話になった。まあ、そのついでに雷の結晶も溜まっていくだろうから作るとしたら水と雷の魔石かな。
借りてる腕輪の買い取りと合わせて考えると結構な金額になるけど、魔石は普通に買うと800マナのところが材料を持ち込んでの加工であればひとつ250マナでいいようだ。随分と安いなおい。
でも、よく考えたら結晶は低品質でも1個50マナで買い取ってもらえるからな。
そう考えると妥当か、どちらにしても素材持ち込みの方が安く済むのは確かだな。
『ところで魔法ってのは、普通はこうやって腕輪を購入して使うものなのか?』
なんとなく気になって彼女に問う。ミラにも魔法の事を聞いてみたと念で伝えた上で回答をまつが、これやっぱ不便だな。念話のLVも今度上げたほうがいいだろう。
『い、いえ。むしろ、本来なら魔導書を読んで、お、覚える場合のほうが、お、多いと思います』
うん? 魔導書?
「へ~魔導書なんてものがあるんだね~」
『は、はい。う、うちでも取り扱ってますよ』
ほう、それじゃあその魔導書があればミラ個人でも魔法が覚えられるのだろうか?
「それじゃあ、魔導書があれば僕でも魔法が使えるようになるのかな~?」
『そ、そうですね。スキルの魔法関係のものがあれば、お、覚えやすいと、お、思います』
「あ、そっか。う~ん、そういうスキルはないかな~」
そう、あくまでミラから聞いた限りではあるんだが、ミラ個人はスキルを全く持っていない。
だから当然、魔法関係のスキルももっているわけがないんだよな……
でも、本当にミラに全くスキルがないとして、なんでなんだろうか? 何か特別な理由でもあるのか? それとも本来人間にはスキルが無いことの方が当たり前なのか?
う~ん、なんとも気になるところではあるけどな。
『とりあえず、スキルがないと魔法は覚えられないものなのか?』
「そ、そんなことはありませんが、む、難しくなります。必死に読み込んでも80~100日ぐらいは、か、掛かってしまうかと」
話にならないな。いくらなんでもそこまで魔導書に時間掛けていられないし。
「う~ん、それだと厳しそうだね。それなら、この腕輪で頑張ることにするよ」
『それが正解だな。それにもしかしたら俺を通して魔法を使えるようになることもあるかもしれないし』
「うん、期待してるねエッジ。あ、ところでステータスを改めてチェックして判ったんだけど、ここはMPの回復が外より早いね!」
うん? そうなのか? それはミラにしか判らないことだな。
『は、はい、お店の中だと回復量が迷宮と比べて数倍違うので、よ、宜しかったら回復するまで、い、いてくれて、よ、宜しいですよ!』
それは願ったりかなったりだな。ミラもそれまでならと暫く留まることに。
すると店の真ん中に円卓と椅子が出現した。どうやらこれも魔法具による仕掛けらしいな。ご丁寧に紅茶の入ったカップと焼き菓子まで用意して随分と嬉しそうだ。
そういえばマージュはミラに友だちになって欲しいって願ってたんだったな。ミラも素直に受け入れたし、だから急にお茶会みたいな雰囲気になったのかもしれない。
まあ、折角だからミラにはのんびりしてもらうとして、雑談に花を咲かせてる途中で、俺もちょいちょい質問する。
マージュはやっぱり俺に対しておっかなびっくりといった様子があったけど、とりあえずこの店にはどんなものが置いてあるのかは知りたかったからな。
そして判ったのは、魔法具には他に指輪や首飾りのような装飾系の魔法具があるってことだ。
『指輪はステータス強化系が多いですね。左右の手にひとつずつ嵌めたりなどして強化したりする方も多いです』
『なんでひとつずつなんだ? 勿論予算もあるだろうけど、各指に嵌めればもっといけるだろ?』
『そ、それは、その、指輪を嵌めて、こ、効果が出るのは、な、中指が一番なんです、そ、それで――』
なるほど。どうやら込められた魔法の効果が尤もスムーズに通るのが中指ということで、それで指輪も中指に合う形で調整されているようだ。
『首飾りは加護系が多いです。魔法から身を守るのは勿論、毒や麻痺などの状態異常から身を守ってくれるのもあります』
なるほどな。単純な属性やステータス値の強化なら指輪でも可能だけど、首飾りだとステータスに関係なく身を守るような力が込められているものが多いようだ。特に状態異常系は気になるところだな。できれば毒を喰らわないようなものは持っておきたいところかもしれない。
全ての状態異常に対応できるのがあれば一番だけどな。でも当然そういったものは値段も張るようだし、特殊な素材が必要になるから常在はしてないようだ。
『後はそうですね、魔法のスクロールなども、それに細かい道具も含めると種類は多数に及びます』
スクロールというのは魔法の言葉が綴られた巻物で、開けば込められた魔法が発動する仕組み。ただし、一度きりの使い切りだそうだ。
細かい魔法具だと、魔法のランタンや魔法の水筒、後は前に来た時に話を聞いた魔法のバッグなんかだな。
「この杖はやっぱり意味があるんだよね?」
『は、はい。杖は魔法を専門にしている方なら必須ともいえますね。使用する魔法の効果があがったりするので。ただ、武器としてはあまり役立ちません』
ふむ、まあ、そりゃそうだろうな。見たところ木製が多いし、全く使えないわけじゃなさそうだけど、流石にメインで使用できるようには思えない。
そもそもこれで杖を使う! とか言い出されると俺の立場がない。
「あ、そういえばこれも魔法具だよね」
そう言ってミラが卓の上に置いたのは魔火筒だ。そういえばこんなのもあったな。
『は、はい、そうですね。ですが、後1回分ほどしか、の、残ってませんね』
「うん、途中で何度か使ったしね」
『で、でしたら私が、ちゃ、チャージしておきます!』
「本当? それだと助かるな~あ、マナはどれぐらい……」
『お、お代は、け、結構です、こ、これぐらいなら、す、すぐですので!』
そう言って奥へと引っ込んでいった。かと思えば本当にすぐに戻ってきた。仕事早いな。
それからミラは流石にここまでしてもらって悪いと、少しでも魔晶を支払おうとしたけど、友達なので! で押し切られた。
そして暫く雑談が続く。だけど、なんだろな、普通に考えたら男女の会話だし、なんかもうちょっと色っぽいことがあっても良さそうだけどそんなことは全く無いな。
だから俺も安心して見ていられる。いや、安心って何がだ? って話でもあるが、ま、まあこのマージュは見た目も中々エロティックだし、ミラが発情しだしても困るしな! そういうことだ!
「なんか本当にありがとうね~素材見つけたらまたくるから!」
で、MPも完全に回復したところでミラは魔法具店を辞去する。なんともマージュが名残惜しそうにしていたけど仕方ないな。
こっちも狩りは続けないといけないわけだし。
「さて、これでまた元気元気! どんどん狩っていこうよ!」
『ああ、そうだな』
その後はミラと暫く狩りを続ける。アクアシャークもエレキエイも何度かやっていく内に大分慣れていった。
途中、相手を誘導しようとした際、ミラが気になるものを見つけていたが、それはとりあえず素材集めをしてからにしようという話になり、俺達は狩りを続け、その間にも何度かMP回復の為に素材を売るついでに立ち寄ったりして――無事鱶鰭の数が揃ったわけだ。
◇◆◇
「……ふん、ふふ~ん~」
棚の整理をしながらマージュは随分と機嫌が良さそうだ。鼻歌交じりで――こんな姿を見たのは一体いつぶりだろうか。
これもあのミラという選抜者がきてくれるようになった影響が大きい。あの子は不思議な子だ。恐らく普通に考えればもっと警戒心を露わにしてもいい状況にも関わらず、マージュとすぐ打ち解けてしまった。
その分あのエッジとかいう剣が失礼な気はしたけどな。まあただ、あの選抜者と進化器は妙に馬があっているようにも思えた。
ただ、だからこそ心配にもなる。あまり入れ込みすぎるとその分――いや、よそう。今そんな事を心配しても仕方がない。
そんな事を考えながら丹精込めて創り上げた魔法具の手入れをしているマージュを眺めていると、店の扉が開いた。
途端にマージュが笑顔を覗かせる。もしかしたらあのミラ達がまたきたのかもしれないと、そう考えたのだろう。だが妙だ、なぜならミラは今さっき立ち寄り出ていったばかりだからだ。
戻ってくるにはあまりに早すぎる。妙に心配に思っていると、案の定それはミラ達ではなかった。
「おっと、やっと開いてたと思ったら、随分とエロい姉ちゃんがいるね」
「ぐひぃ、全くだね。しかも褐色で耳が尖ってて、もしかしてダークエルフって奴かな~?」
店にズカズカと入ってきたのは2人の少年だった。1人は革製の鎧に曲刀といった比較的軽躁であり、もう1人は小太りで鉄の鎧、そして背中には大槌といった出で立ちだ。
「ねえお姉ちゃん、俺たちポーションが欲しいんだけどここでも買えるかな?」
すると軽装の男がへらへらしながらそんな事を訊いてくる。馬鹿が、ポーションを扱ってるのはここではない。薬師の店だ。
大体からしてこのふたりは見た目からして魔法とは縁遠そうな連中だ。勿論そういった相手でもあのミラのように腕輪であったり指輪などを欲してくる場合もあるが、雰囲気的にそういう風にも感じられない。
恐らく途中でこの店を見つけるも入れないことが多かったので、気になって開いている時を見計らって冷やかしにでもきたというところだろうが。
「……あ、あの、あ、あの――」
……まずいな。元々人見知りの激しい子だ。ミラだと思っていたところに見知らぬふたりが入ってきたことでかなり動揺している。
しかも、その様子を見て連中はにたにたと下卑た笑みを浮かべ始めた。
「おいおい、あんたこの店の店主だろ? だったらほら、客の質問は答えないと」
「ぐひぅ、声小さいよね~もしかして、上手く喋れないとかかな~? ぐふふっ、でも君、いいおっぱいしてるよねぇ」
小太りの男が舌なめずりをして値踏みするようにマージュを見出した。
思わず胸を腕で隠す。だが、それがより連中の気持ちを高ぶらせたようだ。
「なんで隠すの? いいじゃん。なんだったら、それを脱いでさ、全部見せちゃってよ――」
『――ッ!? や、やめてください!』
軽装の男がマージュの腕を取った。その瞬間ビクッと肩が振るえ、念を連中の脳裏に叩きつける。
すると随分と驚いたような表情を2人が見せるが。
「あん? なんだよこの声?」
『……念話だ。私と同じように念で直接頭に声を届けたんだろう』
「うん? へ~なるほど他にもこういうこと出来るのがいるんだな。サンキュー『ムーン』」
『……』
今、声を発したのはあの曲刀か。予想はしていたが、やはりそういうことなのだな。
『あ、あの、その、薬は、う、うちでは、あ、あつかってません』
「ぐひぅ、ねえ? なんで喋らないの~? なんで念なの~?」
「…………」
「おいおい、やめとけって。ほら、きっと色々と理由があるんだろ? でもさ、参っちゃったな。ポーションがないなんて、俺たち今すぐ回復してほしいのに」
『……で、でも、ないものは――』
「うん、そうだよね~でも、大丈夫。俺達が回復して欲しいのは、その身体でだからさ」
「ぐひっ! そういうことか~」
小太りの男が背中を取り、マージュを羽交い締めにした。ただ太ってるだけじゃなく力もそれなりに高いのか、マージュがいくら足掻いても抜け出すことが出来ない。
「……や――や……」
「うん? 何だやっぱ声出せるんじゃん。すげー小さいけど、でも、それが逆に興奮するよな。へへっ、じゃあ、先ずはその大きな胸から、見せてもらうとするか!」
男の手がマージュの胸元に伸びる。そのまま無理やりずり下ろすつもりなのだろう。
だが、流石に我慢の限界だ。こうなっては仕方ない。
「ぶひゃん!?」
「は? な、なんだ?」
『お前たちいい加減にしておけよ』
マージュの背中から現出した私が、威圧の声で連中を抑えに掛かる。
これで逃げ帰ってくれればいいんだがな。
「うぅ、いってぇ、畜生なんだよこいつ」
「へ~こんなのもいるんだ。それにしても黒いし、妙な形してるなこいつ」
……どうやら脅しは上手くいかなかったようだ。中途半端に力がつくとこれだから困る。
だが、参った。こんな連中に遅れをとるようなことはないが――
「ぐひっ! こうなったら、僕のこれで痛い目に――」
『やめておけ。どう考えてもお前に勝てる相手ではない。そっちのもな。実力が違いすぎる、ここで揉めても無駄死にするだけだぞ』
「は? な、なんだそれ! お前! 僕の武器だろ! だったら僕に協力しろ!」
『だから協力してるのだ。お前では勝てないと、はっきりと助言してやってるだろ』
「……なあムーン、本当か?」
『本当だ。実力差は明らかだぞ』
ちっ、と軽装の男が言う。それにしても、どうやら武器の方は馬鹿ではなかったようだな。
「しょうがない、出るぞ」
「くっ、くそ! 覚えてろよ!」
結局連中は素直に店を出てくれた。ふぅ、もしあのことに気が付かれていたら厄介だったが、今回はあの武器のおかげで助かったと見るべきか。
ただ、マージュの肩が震えている。やはり、怖かったか。
『大丈夫かマージュ?』
『……う、うん、だ、大丈夫だよ、パパ――』
あまり大丈夫にも見えないがな。全くこれだから私も娘から目を離すことが出来ないのだ。ああいう連中が少なからずいるからな。
しかも、2人揃ってということは、あいつらは一旦は協力する道を選んだということか。
まあ、立場は曲刀持ちの方が上のようだったがな。
どちらにしても、できればもう店には来てほしくないし、あのミラという選抜者ともすぐには出会わないことを祈るばかりだ――




