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第四十六話 根比べ

 ミラにはもう少し休んで欲しいところなのだが、どうやら敵はそれをさせてはくれないようだ。


 あのエイのような魔物が水中から飛び上がってきたからだ。

 どうやら勢いをつけることで水上に跳躍することも可能な種のようだな。


 だが、問題なのは飛ぶそのことだけではない。むしろその後の方が厄介だ。

 このエイの魔物は空中を漂いながら、ミラに向けて電撃の迸る球を放ってきやがる。これも魔法の一種なんだろうな。水中で使っていたのとはまた違う気もするけど、それにしても嫌らしい手だ。


 一応足場を頼りに水中からは脱出したミラだけど、その足場は狭く、横になって蟹のように歩くのが精一杯の幅しかない。


 この状況では相手の魔法を避けるのも一苦労だ。これが普通の地面なら、ミラの素早さがあれば躱せない速度ではないのだが、地の利が悪すぎる。


 唯一の救いは連続では発射してこないことか。一回飛ぶと一発だけ撃ち、また水中へと戻っていく形だ。


 だから、勘の良いミラは、なんとか相手の動きから魔法を放つタイミングを読んで、カニ歩きのように移動しながらも避けてはいるのだけど――


「ぐっ――」

 

 呻き声を上げて壁にもたれ掛かる。避けきれなかった相手の魔法を盾で防いだが、電撃の効果で身体が痺れてしまったようだ。


 しかも、最悪なのは、サメの魔物も追いついてきて、頭を出し水を勢い良く放出してきたことだ。一直線に伸長する水撃は洞窟の岩盤を抉るほどに強烈である。


 そんなエイとサメが交互に攻撃を繰り返していることで、ミラのHPもどんどん削られていってしまう。


『ミラ、キツイだろうが今は頑張ってここを抜けるしかない。なんとか逃げて――』

「駄目だよ」

『え?』


 俺の言葉にミラが反応する。何を弱気な、と思ったりしたが、表情はむしろやる気が漲っているように思える。


 どういうことだそれは?


「うん、やっぱり駄目だ、逃げてばかりじゃこの状況を切り抜けられないよ。やっぱり、この魔物は倒してしまおう!」


 すると、ミラが決意めいた表情で宣言する。

 て、本気か!?


『いやいや、流石にこの状況じゃキツイだろ! 一体どうやる気だ! こんな狭い足場じゃ剣だってまともに振れないんだぞ?』

「それなら大丈夫、僕に考えがあるから」


 そういいつつポーションを一瓶飲み干した。

 それにしても、いや、考えって……とは言え、ミラはこうと決めたらもうひかなそうだしな。全く、こんな時見守ってるぐらいしか出来ない俺がつらい。


『はあ、判ったミラ。とにかく信じるけど、それで一体どうする気なんだ?』

「うん、先ずはね――」


 ミラがそう言葉にしたその時、あのサメが水面に顔を出して水撃を放とうとする。こいつは口の中から水を放出するからしっかり見ておけば判りやすいは判りやすいんだが――


「ここっ!」

『へ? お、おい!』


 思わず叫んでしまう。いや、だって、ミラの奴、折角這い上がったのにまた水面に向けて飛び込んでしまった。それで一応相手の水撃は躱せたけど、水の中に戻ったりしたら、元のもくあみだろ。


 おいおい、一体何をする気だ?


「はぁあああぁああぁあ!」


 そして水中に向けて勢い良く落下し、かと思えば俺の剣先を下に向け、気勢を上げる。ミラの落ちていく方向には、あのサメの姿。


 まさか! そして、ドボォオン! 豪快な音と上がる水飛沫。予想はしていたが、ミラはそのまま水中に。


 だが、これはミラの意志とは別。サメの意志により強制的に引きずり込まれた。

 何故なら、ミラが握り続けている柄の先、つまり俺の刃の部分は、サメの胴体に深々と突き刺さっていたからだ。


 つまり、これがミラの狙い。水中では、今の俺、つまりバスタードソードみたいな剣は本来手に余る。重いし、水の中じゃ当然、その抵抗によって剣なんてまともに振れるわけもないからだ。


 だからこそ、俺は水中では不利、こいつらとはまともにやり合うだけ無駄と判断したわけだが――しかし水上に頭を出したサメに向かって剣を突き立てるならば話は別だ。


 水の中じゃまともに振れない剣だって、落下と同時なら勢いと体重の乗った剣は十分効果的ということなのだろう。


 そして一度胴体に食い込んでしまえば、水中に逃げ込んだところで抜けることはない。


 ただ――ミラは水中に潜ったサメに俺を更にグリグリと捻り回し、ダメージを与え続ける、なんなら更に奥まで剣を食い込ませようという考えだってあるかもしれない。


 だが、サメとミラじゃ水中戦で大きな違いがある。判りきっていることだが、ミラは水中じゃ息が続かない。それだけでも大きく不利な上、慣れない水の中じゃ体力だってより多く疲弊する。


 ミラはこの魔物を倒すと意気込んでいたが、本当にいけるのか――今更ながら不安になる。

 正直ただ剣で突き、そのまま水中でダメージを与え続けるというだけじゃ決め手に欠ける気も――


 だが、そう俺が考えを巡らせた途端、バチバチっと水中が光った。

 これはアレだ、件のエイによる魔法攻撃。地上に向けて行使したのとは別の、水中の広範囲をカバーする電撃だ。


 思わずミラも歯を食いしばる。電撃による痛みと痺れに耐えているようだ。

 だけど、これはやはり不利だ! いくらなんでも電撃まであるんじゃサメを倒すのだって、だって? いや、違う! 


 そう、違った。意外だったのだが、あのエイによる電撃のダメージはミラが一生懸命刃を食い込ませているこのサメにもいっているようだった。


 その証拠に電撃が放たれる度にサメがジタバタと暴れ狂っている。かなり嫌がっている様子だ。


 だけど、なんでだ? いや、可能性がないとは言えないが、一緒にやってきたサメが、実はエイの電撃に弱かったなんて――


 違う、そうじゃない。そうだ、電撃が放たれる度に、俺の刃にも電撃が迸っている。


 つまり、ミラが剣を食い込ませたことで、俺を通して電撃が体内に送り込まれているんだ。だからこそ、より大きなダメージがこのサメにいっているんだ。


 そして、これこそがミラの勝算だったわけか。ただ剣を突き立てるだけじゃなく、電撃で体内にもダメージが行けば、自分よりサメの方が先に倒れる可能性が高いと考えたわけだな。


 正直根比べといった要素もが大きいし、無茶が過ぎるとは思うけど――しかし、どうやらミラは見事この根比べに勝利したようだ。


 サメも暫くは頑張ったが、何度かエイによる電撃を食らうと、遂に痙攣を始めくるりと回転して水上に向けてお腹を見せる形となったからだ。


――進化PTを4得ました。


――経験値を35得ました。


『よし! 経験値が入った。ミラ、倒したぞ!』


 頭に声が響いたと同時にミラに念を発した。

 すると、ミラはゴボゴボとあぶくを上げながらも俺を何とか引き抜き、そして急いで水上へ向け泳ぐ。


「ぷはぁ!」


 そして思いっきり酸素を取り込みつつ、再び足場へと戻っていく。


 全く、それにしても本当ヒヤヒヤさせてくれるよ――

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