第四十五話 不利な水中戦
案の定、水門が開いたことで水深は大分浅くなっていた。全く空になっているということでもないが、前に見たときより半分ぐらいにまって水が減っていると思う。
そのおかげで前回は潜るまでは見えなかった水門が、今は岸からでもしっかり見えるようになっていた。まあ、それでも3分の2程は水の中だけどな。
「う~ん、これだとまだあの魚はいるかな?」
あの魚というと、群れで襲ってくるアレか。確かにこのぐらいの水嵩があるならまだいそうだな。
『多分いる可能性が高いから、またあの手を使ったほうが良さそうだな』
「うん、やっぱりそうだよね」
と、いうわけでミラはあらかじめ用意しておいたダッシュリザードの肉を水門とは逆の方向の水の中へ放り込む。
すると案の定、魚が一斉に群がってバシャバシャと水飛沫が上がった。
それを確認し、ミラが水の中へ飛び込む。
前よりは浅くなっているから、ミラが息継ぎしながら水門をくぐる。
くぐった先は細長い水路が続いている。天井も低いな。ただ頭を出せるぐらいの余裕はある。ミラはとりあえず息が続くまでは素潜りで進んでいくつもりのようだ。
『ミラ、大丈夫か? 無理はするなよ?』
俺の念にコクコクと頷くミラだ。
『……そういえばミラは念話は使えないのか?』
ふと俺は気になって念で尋ねてみた。よく考えたらシンクロでスキル共有化されてるなら使えそうなものなんだが。
だけどミラは首を横に振った。ふむ、スキル共有しても共有されないスキルっていうのもあるんだな。もしかしたらスキルのLVの関係かもしれないけどな。
そんなことを考えながらも俺は水中の様子を探る。水の中はやはり視界が悪いけど、ふと気になるものを発見。
あれは――
『まずいミラ! サメだ! それと、平べったいエイみたいのも来ているぞ!』
そう、この細長い水路の正面から、体表の青いサメと、黄色がかった色味のエイが近づいてきていた。
サメの方は体長100センチメートル程でサメとしてみれば小型かもしれない。エイはサメより一回りぐらい大きいか。
とはいえこんなところに出現しているわけだから、ただの水棲生物とも思えないな。魔物の可能性が高いだろ。
相手は1匹ずつだが、速度はサメのほうが出ている。エイはゆったりとした動きにも思えるが、初見の相手だけに油断は出来ない。
と、いうよりも水中じゃあまりにミラが不利過ぎる。ミラも泳ぎは上手い方だと思うが、それでもあくまで人として見ればだろう。根っから水の中を縄張りにしている相手では例えミラの方がLVが上だったとしても油断はできないだろう。
「――ッ!?」
サメの体当たりが先ずミラを襲った。ミラはなんとか盾を使って直撃は避けたが、体当たりの衝撃で後方へと飛ばされる。
それでもミラは水中をくるくると回転しながらも体勢を立て直した。
そして改めて正面を向き相手の動きを確認する。サメはその場でくるりと回転した後、改めてミラを見た。
凶悪な顔をしてやがるな。くそ、それにしてもこんなところでサメかよ。
『ミラ、ここは一旦引き返した方がいいかもしれないぞ。サメが相手じゃ分が悪い』
俺はミラにそう告げるが、ミラは首を横に振った。そして改めてサメと対峙する。
おいおい、水中戦は流石に不利だと思うんだけど――
かと思えば、再びサメがミラに向かって猛スピードで突撃してくる。小型のサメとはいえ、あれの威力は馬鹿にできないぞミラ!
だが、サメがミラのすぐ目の前まで近づいたその時、ミラは水中で上手く真上に回転することで突撃を躱してみせた。
するとサメは後方へと猛スピードですっ飛んでいった。
うまいなミラ! これでとりあえずあのサメはやり過ごせた。
いや、それでもサメだから安心してるとすぐ追いついてくるかもしれないけど、とにかく逃げる時間は稼げただろ。
ミラも流石に水中であのサメを倒そうとは思わなかったようだな。
なのでミラはそのまま泳いで先を急ぐ。ただ、サメはなんとか避けてもエイがまだいる。
あのエイはサメより動きは遅そうだけど、とにかく後方のサメのこともあるからのんびりもしていられない。
ミラが足をばたつかせ、エイとの距離を縮めていく。そろそろ息もまずいしな――大したことのない相手ならいいんだけど。
と、思いつつ、エイとの距離が近づいたその時、突然エイが発光し、かと思えばがミラがゴボゴボと息を乱す。
身体もビクンビクンと震えていた。まるで痺れているようなそんな症状。
『お、おいミラ!』
思わず声を荒げるが、すぐにミラは浮かび上がり水面に顔をだした。
良かった、のかは判らないが、気絶したわけでもなかったようだ。
「ぷはっ! ゴホッ、ゴホゴホッ――」
そして、何度も咳き込む。かなり苦しそうだ。だけど、かと思えばまた水中が発光。途端にミラが苦悶の表情を浮かべた。
『く、くそ! なんだこれ!?』
「う、うん、多分魔法か何か。雷系だと思うけど、結構キツイ――」
雷系かよ! それで水中でも発光したのか――に、しても水中でそれは不味いだろ。このまま水中で喰らい続けたら流石に――あ!
『ミラ! 頑張ってあと少し泳ぎきってくれ! そこに足場がある!』
俺の念でミラも気がついたようだ。そう、このまま泳ぎ続けると、正直かなり狭いが壁際に足場が見える。そこまでいけば水中よりはマシになるはずだ。
「う、うん、判った――」
ミラは水中には潜らずそのまま足場に向けて泳ぎ始めた。よく見るとサメの背びれが後ろから迫ってきている。
これでは水中に潜ってもいられない。だが、移動中も水面の発光は続く、ミラもその度に顔を歪める。
正直、耐えられる程度の威力だったのが幸いだったな。辛そうだけど、なんとか頑張れる程度の電撃だったようで――
「くっ、はぁああああ!」
気合の声を上げてミラがなんとか足場に這い上がった。本当に狭い足場なのでかなり窮屈な姿勢で、それでも身体は休めようとしているのがわかる。
「け、剣が進化していたおかげで助かったかも……色々ステータスも向上してたし、ははっ、HPは70ぐらい減ったけどね……」
け、結構減ってるな。予想以上にダメージは大きかったんだな――




