第三十六話 ゴブリンロードの脅威
「はあぁあああぁああぁあ!」
と、そうこうしてる間にミラが近づいてきたホブゴブリンとの距離を自ら詰めていき、先ずはあの槌もちホブゴブリンへと覚えたての連撃を叩き込む。
ミラの下段から上段へと繋ぐ2連撃は淀みなくヒットし、あの巨漢がよろめいた。
「どうやら連撃は連続で攻撃をヒットさせるスキルみたいだね」
『ふむ、そこはスキル名どおりだな』
そしてLV1だと攻撃回数は2回な模様で、そうなると燕返しとあまり変化ななさそうだが、あれは振りと返しの動作のパターンがある程度決まっている。
だけど、連撃に関してはどういったコンビネーションで攻撃を繰り出すかはミラ自身で決めていけるようだ。
正し、連撃は一度使用しただけで疲労度が8%も増えたようだ。そうなると燕返し以上に疲労の蓄積に気をつけないといけないな。
実際この戦いで燕返しと連撃を何度か行使した影響か、既に疲労度は35%まで上昇してるらしいしな。
と、色々思考を巡らせていると、ミラが距離を詰め、飛びかかりつつもホブゴブリンの首を斬り裂いた。
さっきまでの細かいダメージの蓄積に、更に称号がゴブリンバスターに増えたことも大きいのか、その一撃で遂にミラに1発を食らわせてくれた槌持ちの敵もその命を散らしてくれた。
これで意趣返しも達成と言ったところか。
――進化PTを8得ました。
――経験値を96得ました。
おっと、経験値がさっきのホブゴブリンより多いな。と、いうことはレベルがこいつの方が高かったってことか。
さて、これで残りは遠くからチマチマ矢を射ってくる弓ゴブリンと斧持ちのホブゴブリン……そして――
俺が考えを巡らせていると、突如ミラの全身を影が覆った。見上げたその先に映るは、ミラの倍近い体格を誇る巨躯――大剣を振り上げたゴブリンロードの姿。
いや、冗談だろ!? この体格でそこまで飛べるのかよ!
そして振り下ろされた斬撃は、容赦なく足場を蹂躙し、粉塵が巻き上がり地面が地面がめくれ上がる。
とんでもない轟音と衝撃。ミラは後ろに飛んでなんとか避けた。この反射神経の良さは強みだが、小柄な分軽いため、衝撃によって簡単に身体が流されてしまう。
それでもなんとか着地点から脚を踏ん張り、転倒することだけは避けることが出来た。
バランス感覚の良さもミラの強みではあるが――
「――ッ!」
ミラの整った顔が痛みに歪む。何かと思えば矢がミラの腕を掠っていた。男にしては白い肌が赤く滲んでいく。
『ミラ、その怪我――』
「う、うん、怪我自体は大したことないよ」
『怪我自体って、他になにかあるのか?』
「……うん、毒矢だったみたいだね。弱毒に掛かっちゃったかも……」
毒――ゴブリンの奴らそんなもの隠し持ってたのかよ!
『毒ってそれは大丈夫なのか?』
「うん、前に比べたら僕も強くなったし、それにポーションで回復してHPにもまだ余裕があるから、ちょっと気怠いぐらいかな」
気怠いか……それはそれでこの状況じゃ影響があると思うが。
それにしても失敗だったな……ポーションを買うのを重点に置きすぎて解毒剤の事を失念してた。ミラも成長してこの迷宮で唯一毒を食らったブラックウィドウもあれからはミラも上手く戦って毒を喰らうようなこともなくなっていたからな。
とは言え、このまま毒矢を受け続けるのは勘弁願いたいところだな。
すると、ミラも同じ考えに至ったのか、遠くから弓で狙ってくるゴブリンに向けて、ダーツを2発投げつけた。距離が少しあるので弓なりに飛距離を稼ぐ投げ方でだ。
ミラを狙うことに夢中のゴブリンはそれに気がつくこともなく、結果的に2度の爆発に耐えきれず残りの弓隊も全滅した。
しかし、それが逆にゴブリンロードの神経を逆撫でてしまったようだ。
ゴブリンロードはホブゴブリンと同じく、決してその動きは軽快ではない。しかしその重量感のある動きは、図体の大きさと相まって逆に迫力を与える要因となってしまっていやがる。
一歩地面を踏み抜くごとに振動がミラの肩を揺らす。一歩一歩が大きいため、動きが重くても距離が縮まるまでの時間は僅か。
大剣の攻撃範囲に強制的に入れられる、と、同時に雄叫びが上がった。
鉄の精神のおかげで、ミラの心が怯むことはない。だが、声により発せられた衝撃までは抗えず、どうしても僅かな隙が生まれてしまう。
その一瞬の隙をつき、ゴブリンロードが大剣を振ってきた。下から上への斬り上げ。しかも角度がついているためカバー範囲が広く避けにくい。ゴブリンロードの体格に合わせたような大剣はただでさえ剣身が長い。このタイミングでの攻撃は今のミラの体勢では避けきれないだろう。
だが、ミラ自身もそれはよくわかっていたのか、剣、つまり俺をつかい迫り剣戟を受け止めてみせる。
ビリビリと刃が激しく波打ち、俺の耐久値も一気に10減少する。折れるほどの減りじゃないけどな。でも流石に俺だけでこれだけの斬撃を防ぐのは無茶だ。あんな丸太みたいな腕で振られてるんだぜ? いくらレベルが上ったといっても地の力が違いすぎる。
だけど――ふわり、小さなミラが綿毛のように浮上した。もちろん相手の一撃による影響もあるだろうけど、半分以上はミラが自ら地面を蹴り上げたことによる所為である。
流石だな、柔軟な身体を活かして威力を吸収した上で力に逆らわず空中へ逃げたわけだ。
……それでも耐久値が10も減ってるんだから、まともに受けてたらどんだけだよって話だが、これでとりあえずダメージは……。
「――ッ!?」
甘かった! このゴブリンロード、斬り上げからミラが浮上したのを狙って斬り下ろしに切り替えてきやがった!
流石にミラの表情も硬い。それでもミラはなんとかドゴン特製の円盾を滑り込ませ相手の巨剣を受け止めるが、流石に空中にいる状態では威力を殺し切ること叶わずそのまま地面へと叩きつけられた。
背中が盛大に地面に叩きつけられたことでミラの口から呻き声が漏れる。
しかも落下地点にはご丁寧にホブゴブリンが斧を振り上げて待ち構えていやがる!
『ミラ! 首を狙われてるぞ!』
このまま振り下ろされたら下手したら1発で斬首だ! 冗談じゃない!
「はっ!」
だがその直後今にも斧を振り下ろそうとしていたホブゴブリンの右肩が爆発。その衝撃でたたらを踏む。ダーツボム最後の一投だ。本当にドゴンに感謝だな。
それを認めミラが蹶然し、ホブゴブリンの脇下に剣戟を叩き込んだ。俺の刃が筋肉の半分ほどを断裂、しかし切りきれない。
「連撃!」
しかし、そこでミラがスキルを発動。俺が抜けると同時に上下への2連撃を決め、ホブゴブリンの片腕が吹っ飛んだ。
そしてそこから更に一歩踏み込み、次の一撃で決める気なのかミラが俺を引き刺突の構え。
『ダメだミラ! 避けろ!』
後ろから迫る剣先を俺は見逃していなかった。まるでバリスタから発射される巨大な矢の如き迫力な突き。
だがミラは俺の念を受け身体を捻り、迫る突きを避けきった。
「グゴァアアァ、アアァ、アアァ――」
そしてミラが攻撃を避けた先では、ゴブリンロードの刃に腹を貫かれるホブゴブリンの姿。
ゴブリンロードも途中で止めようとは考えなかったようだな。これで死ぬならそれまでという考えかもしれない。
さっきの怒りにしても仲間をやられた怒りというよりは、手下の不甲斐なさに怒りを覚えたってところなんだろう。
ホブゴブリンが地面に倒れる。ピクピクと痙攣しているそれを一瞥した後、ゴブリンロードがミラを振り返った。
『ミラ、さっきの攻撃でどれぐらいHP減った?』
「……20ぐらいかな。残りHPは65だね――」
盾でガードしても20かよ。今のミラの最大HPは118だから、もう少しで半分切るな。
さて、ここで俺は決めないといけないな。ミラには一応俺に掛けてもらう分だけはいざという時のために残しておいて貰っている。
そう、つまりここで進化するかしないかを――




