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第六十六話:名古屋方面開発計画その八

 高橋さんたちの協力を仰ぎ、地下街で発見した発掘品を発掘師街に運び込んだ。

 発掘師街は中村さんたちのクランが掘り当てた工場からの機械部品が大量に運び込まれ、活気に満ち溢れていたが、俺たちが運び込んだ主に大量のウイスキーとかブランデーとかの超高級酒を目の当たりにした発掘師達や協会の職員たちによって修羅場と化した。

 どこかしこから歓声があがり、俺たちは大勢の人垣に囲まれ、羨望のまなざしを向けられている。


「コレはまた何という数、凄まじいもんじゃのぅ。これだけあればワシのところにも……」


 五所川原会長がブランデーのボトルを手に取り固まっている。

 彼ほどの地位にあれば、ここに運ばれた超高級酒の何本かを余裕で買い取ることはできるだろう。しかし……。


「俺にはその酒の味とか価値はよく分からないんですが、そんなに良いものなんですか?」


 恍惚の表情を浮かべていた五所川原会長が俺の問いかけで正気に戻った。

 そしてすぐさま俺は一喝されることになった。


「バカもんが! この珠玉の逸品の価値が分からんとは情けない、発掘師の風上にも置けんわ」

「まぁまぁ会長。そんなに興奮しなくても」

「たわけが! 貴族たる者、旨い酒の見分けがつかんでどうする」

「まあ会長がいうことも尤もね。空も貴族になったんだから美味しいお酒のコレクションくらいは持っていたほうが何かといいわよ」

「そうなのか? 遥」


 遥は当然と言わんばかりに五所川原会長を支持した。

 酒を美味いと思ったことが無い俺には理解しがたいことだが、あとで一花か陽一さんにでも聞いてみようとこのとき俺は思った。

 荷物になるので卸さずに何本か預かっておいてもらおう。


「分かったよ遥。何本か俺と遥でキープしとくか」

「それもいいわね。何本かは鑑定だけしてもらってその分を分け前から引いておくわ」

「哲也たちはどうする?」

「俺はいいわ」


 阿古川哲也に続き、鈴音ちゃんも水瀬さんもお酒をキープしないということで話は纏まった。

 ということで種類は遥に見繕ってもらい、俺たちふたりは十本のボトルをキープすることにした。

 ただし、持ち運ぶことはできないので協会に預かってもらい、後で屋敷に持ち帰ることにした。


「じゃあボクたちは明日に備えるよ」

「わかりました。明日以降もよろしくお願いします」

「こちらこそよろしく」


 俺たちは高橋さんたちと別れ、時間もあることだしと運び込まれてくるお宝を見学して回った。

 中村さんたちのクランが持ち運んだ機械部品がほとんどだったが、その他のクランやパーティーもそれぞれお宝を持ちこんでいて、発掘師たちの表情は皆明るい。

 夕方になって浮かれない顔をした若手パーティーを見かけることはあったが、総じて発掘師街は活気に満ち溢れている。


 開けて翌日からも俺たちは荷運びを続けた。

 そして都合四往復目――高橋さんたちが合流してから三往復目――の荷運びが終わり、地下街の引継ぎをして俺たちは高橋さんたちと別れた。

 その夜。


「配当金の振り分けについて話があるんだが」


 そう言って俺は仲間たちを集め、発掘師街の人目の付きにくいところに移動し、遥と話し合って決めたことを阿古川哲也たちに伝えた。


「遥と話し合って決めたことなんだけどな。今回に限ってだけど、やっぱり稼ぎは山分けにしたい」


 俺がそう提案したら、阿古川哲也も鈴音ちゃんも水瀬さんも浮かない顔で俺と遥を見ていた。

 しばらくの沈黙ののち、阿古川哲也が口を開く。


「でもなぁ空、前にも説明したけど俺たち三人の仕事とお前と遥さんの仕事を比較するとどうしてもな……。それに、そんな大金俺たちには手に余るっていうか」

「言いたいことは分かるよ。けどな、決めたことは守りたいんだ。大金を手に入れるのが怖いなら俺が預かるよ。二~三年かけて皆の口座に振り込めば大したことないだろ?」

「空の言うとおりよ。わたし達とパーティー組んで二~三年たてばみんなの知名度も上がると思うの。そうすればちょっかい掛けてくるバカも居なくなるわ」

「でもなぁ――」


 その後しばらく話し合ったが、最終的には俺と遥の提案を受け入れてもらうことができた。

 三人の顔を見れば、本心から納得してくれたとは言い難いが、一応の了解は得られ、稼ぎは均等に山分けすることになった。

 ただし他人の目を欺くため、稼ぎの約九割を俺と遥の口座に振り分け、三年かけて分割で三人に稼ぎを還元することになった。


「――ただし、これからの稼ぎは仕事に応じて振り分けてもらうからな。そこんとこ忘れないでくれよ」

「そうですよ、空様。私なんて今回の稼ぎは三分の振り分けでも分不相応な儲けだもの」

「私もそう思います。もっといっぱい経験を積んで仕事が出来るようになるまでは均等に分けてもらうなんてできません」

「分かったよみんな……」


 俺の力は偶然手に入れたものだ。

 だから三人が言ってくれたことを本心から納得したわけではない。

 けれども、このまま我を貫き通すことは今の関係を保てなくなるかもしれない。

 貴族になってしまった俺に変ることなく友達付き合いしてくれる阿古川哲也たち三人は、何者にも代えがたい大切な仲間たちだ。

 俺はそんな仲間たちとの良好な関係が崩れてしまうかもしれないことが怖かった。


「じゃぁ、これからのことなんだけど――」


 地下街で見つけた大量の本のことを陽一さんに知らせる必要があった。

 パソコンや折り畳み式の自転車、それにキープしておいたお酒のボトルも持ち帰る必要がある。

 他の仲間たちもかなりのお宝をキープしている。

 ということで俺たちは一旦首都へと引き上げることにした。

 宝石とか貴金属の探索は後回しになってしまったが、それもまぁ仕方がないことだろう。


 ちなみに、今回俺たちが協会に持ち込んだお宝の総額は四千五百万強になった。

 当初の皮算用よりかなり多い金額だったが、本を含めないでひとりあたり九百万強の大金である。

 阿古川哲也も鈴音ちゃんも水瀬さんも、あまりの大金にしばらく固まってしまったほどだ。

 二十一世紀の物価に換算して、ひとりあたり一億円近い大金だからそれもまぁ頷けると思う。


 そんなこんなで荷馬車に揺られて首都へと帰り着き、俺たちはそれぞれの帰途へと就いた。

 もちろん遥と鈴音ちゃんは俺と一緒だ。


「それにしても今回のお宝はスゴかったですね。私、金額を聞いて気を失いそうになりました」

「まぁ鈴音ちゃんがそうなるのもよく分かるわ。わたしでも一度にこれだけのお宝に巡り合ったことなんて数えるほどしかないわ」


 興奮気味に話す鈴音ちゃんと遥の後ろを歩いていた俺も、今回の査定には驚きを隠せなかった。

 まさに発掘師ドリームを体現した形になったが、一度に見つかった総額で考えれば、陽一さんが発掘した豊田鉱山の工場だとか、中村さんが今回発掘した工場だとか、この前採掘した紫水晶とかの方が多いことは間違いない。


 ともあれ、当初目標にした宝石とか貴金属を掘り当てるという、いかにもトレジャーハントらしい成果は無し得なかったが、補って余りありすぎる結果が出せたことには満足している。

 というか出来過ぎだと思っている。

 これで当分の間資金面で苦労することは無くなるだろう。


「お帰りなさいませ旦那様」


 玄関をくぐるとすぐに、天音さん他使用人の人たちが出迎えてくれた。

 ついさっきまで発掘師として活動していたこともあり、唐突に旦那様なんて言われて迂闊にも顔が熱くなってしまった。


「た、ただいま天音さん」


 そして動揺を隠せなかった。

 それはいいとして、久しぶりに帰った我が家だ。


「風呂に入りたいんだけど沸かしてもらえるかな」

「かしこまりました」


 たぶん今の俺からは、えも言われぬような悪臭が立ち込めていると思う。

 遥や鈴音ちゃんもそうかもしれないが、鼻が慣れてしまっているので俺には分からない。

 だから俺はすぐにでも風呂に入りたかった。

 そんな俺たちの臭いを気にするそぶりも見せず、天音さん他使用人の人たちは屋敷の中に散っていったが、きっとかなり臭っていたことは間違いないだろう。


 ということは置いておいて、俺、遥、鈴音ちゃんの順番で風呂に入ることになったわけだが、久しぶりに若い使用人の女の人に体を洗われるという羞恥心溢れる儀式を経てようやく人心地つくことができた。

 ちなみに今日の当番は菜月ちゃんだった。


 翌日は一日我が家でのんびりとゴロゴロしていた。

 久しぶりに一花の顔を見たかったが、彼女は軍事演習で一昨日から留守にしているらしい。


 ということでさらに翌日、俺は陽一さんに会うために家を出た。

 昨日のうちに天音さんにお願いしてアポは取ってあるので、陽一さんには確実に会うことができる。


「お久しぶりです」

「やあ久しぶり。聞いたよ空君。スゴイ成果を上げたそうじゃないか」


 大公宮の奥、高科一家のリビングで陽一さんと話をすることになった。

 暇なのか希美花さんも同席している。


「ええ、狙っていたお宝には出会えなかったんですが、予想外の成果を上げることができました」

「あら、遥さんは一緒じゃないの?」

「ええ、今日は一日家でゆっくりしているそうです」

「そう、残念だわ。一花ちゃんもお仕事で忙しいみたいだし、最近はぜんぜんお顔を見せてくれないのよ」

「そうだったんですか」


 どうやら俺たちが発掘に出かけている間、一花は実家には戻らなかったようだ。

 希美花さんには申し訳ないが、完全に我が家を自分の家として使ってくれているようで少し嬉しかった。


「それはそうと陽一さん、今日はお願いがあって来ました――」


 地下街で見つけた大量の本ことを陽一さんに話した。


「――俺は専門書を何冊か欲しいと思ったんですが、遥が言うには陽一さんに知らせた方がいいということで。なにせ量が多くで俺たちだけじゃ運び出せなくて」

「よく知らせてくれたね。さっそく人員を派遣させてもらうよ――」


 陽一さんは快く引き受けてくれた。

 というか大いに喜んでくれた。

 二十一世紀の書物が読める形で今の時代に残っていることは非常に稀であり、大概は土に帰っているらしい。


 失われた二十一世紀の技術や文化が記された書物は、国の発展に大きく寄与し、その価値は計り知れないのだという。

 陽一さんの話は少し大げさに聞こえたが、確かに失われた技術を復活できるならばその価値は大きいのだろう。

 小説なんかの読み物にしても、シリーズもので抜けがあるものを除けば、原稿というか原本としての価値は高いそうだ。

 その他の雑誌なんかもコレクターには貴重なお宝だという。

 希美花さんも当時の雑誌を読みたいとしきりに訴えていた。


 本の話が一段落し、そろそろ帰ろうかというところで陽一さんに引き留められた。


「それではそろそろお暇します」

「少し待ってくれないか。僕のほうからも話があるんだよ。空君」


 かなり嫌な予感がしたが、陽一さんの話を聞かずに帰ることはできなかった。

 そしてその嫌な予感は、結局のところいい意味で裏切られることになった。


「――ということでね。なんとか琵琶湖、今は海岸だったね。そこまでの道が繋がったんだ。だから空君にお願いなんだけどね。一度現地に出向いてくれないかな」

「お願いは嬉しいんですけど、俺が行く必要があるんですか?」

「もちろんだよ。空君がいないとほら、一花だって悲しむだろ? それに僕だって楽しみしていたんだ。だからね、お願いするよ空君」


 陽一さんの話には、俺が現地に行く理由というか大義名分が無かったような気がしてならない。

 一花とバカンスができることはもちろん嬉しいが、それはあくまでも私的なことであって仮にも国主が動くということはそれなりの大義名分が必要だと思う。

 そんなことを考えていたら希美花さんが陽一さんを抓った。


「ああゴメンゴメン。大事なことを言い忘れていたよ――」


 話しが逸れまくって長くなったので要約すると、開拓する漁村の候補地を俺に選んでほしいということだった。

 そしてその候補地を国主である陽一さんがその場で視察し、承認する。

 というのが大義名分らしい。

 俺には仕事に嫌気がさしてバカンスに行きたいとしか聞こえなかったが、そうそう固いことを言っていては纏まる話も纏まらなくなるだろう。

 ということで俺は陽一さんの申し出を承諾したのだった。


「いやぁ、快諾してくれてありがとう。これでしばらく仕事を休めるよ」


 とうとう本音が出やがった。

 まぁそれはいいとして、海辺でのバカンスは俺としても楽しみなことには変わりないことだ。

 途中だったお宝探しは、いつでも再開できることだし、ここはひとつ遥も誘ってバカンスと洒落込むのも悪くない。


 ということで「これから夕食でもどうだい?」と誘われたがそれは丁重に固辞し、大公宮を後にして帰途に就いたのだった。

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