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丸く収まったこの世界  作者: 榊屋
第七章 戦う未来とこの世界
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37-大掃除-


「ああああああああ!!」

 叫んでいるシオさん。

 そして刀を振り回す。どうも錯乱しているご様子。

 どうして俺はこんな時でも冷静に見ているのだろうか。

「ああああああ!」

 ともかく今がチャンスだという非人道的な解釈を済ませた。

 シオさんの懐に潜り込んで蹴り飛ばす。シオさんは思ったよりも簡単に吹き飛んだ。そして倒れて黙る。

 気絶したのだろうか?

「あぁ……拒絶反応か」

 そう言って俺の後ろに現れたのは、あの男だった。

「お前……!!」

「折角俺が編集したというのに……余計な事を吹き込んだな」

「何を……」

「ったく」

 そう言って、次の瞬間にはシオさんのもとへ。

 今更感バリバリだが、アイツの力は何なんだ……。そう思ったが対応はできない。下手に手を出せば俺は返り討ちだろう。

 ほら、こうやって返り討ちになることを怖がってシオさんを見捨てようとしている辺り……俺らしいなあ……。


 男はシオさんの頭を右手でつかんだ。

 シオさんは抵抗もせず、しかし促されるでもなく、そのままだらりと垂れさがっていた。

「ふむ」

 男は左手でその頭を一発殴る。

 まるで衝撃は何一つなかったかのようにシオさんは全く動かない。

「ブラウン管のようにこれで記憶の交錯とやらが戻るといいな」

「お前……」

 何しに来た?そう聞こうとした。

 しかし口から出たのは。


「何をした?」

 だった。

 本能的に感じたのだ。

 『この男がシオさんに何かしたのだ』と。今ではなく、それより以前に。

 シオさんがおかしくなる前に。

「……俺はこの状況が気に食わない。どうなるかは分からないが、今はお前らを崩すのみだ」

 そう言って男は消えて、俺の目の前に現れる。

「あんまり調子のってるとお前も崩すぜ。鏡……」

「俺はお前の鏡じゃない」

「分かってるさ。そんなことぐらい」

 俺の方が上位だからな。

 そう言った男の顔に拳を振るう。男はそれを見ると、すぐに消えて俺の後方へ。

「ま、適当にやっておけ。後のことは知らん」

 男はそう言って完全に姿を消した。

「……」

 結局なんだったのかもわからなかった。

 しかし目の前にいるシオさんが気になる。

 気づくとそこに立っていた。

「……私は……」

「ご加減は?」

「……斬る」

「おーまいごっど」

 正直怖がっては居なかった。

 今の彼女に狂気や殺気と言った研ぎ澄まされた『武器』は感じなかった。ただ真っ直ぐなだけの刃。それはなかった。

 目の前にいるのはまがまがしい不和と歪みを伴って構成された『悪意』のみ。

 敵に負けるのは俺の仕事じゃない。


 俺は語り部だ。死ぬのは俺の立場じゃなくて主人公の役目だろう。


 シオさんは以前までのスピードを変えず間を詰めてきた。

「【居合】来世払い」

 感じた。これは変形系ではない。つまり、俺の腕や足では止めることはできない。

 咄嗟に飛び上がる。それから無理に態勢を作って、シオさんを顔面を蹴り飛ばす。

 しかし相手も冷静で(錯乱したその彼女のどこに冷静さがあるのかもわからないが)、足腰の筋肉だけで上半身のバランスを保ち、体勢を崩さない。

「【居合】抜刀」

 一番最初に見せた技だ。一度見た技なら忘れない。俺はそれをわざとギリギリの位置でかわす。

 そして俺は左手でシオさんの顔面をつかんだ。


 俺の考えはこうだ。

 どうもよくわからないがシオさんは記憶を一部欠損した状態にある。恐らく、この状況を作り出した、つまり、シオさんが俺に攻撃してくる前に俺たちに攻撃してきた10人に『殺さなければ出られない』という情報を教えた人物の所為だろう。そしてその方法はどうしたのか分からないが、現象としては『記憶の改竄かいざん』。

 ならば。


 俺は左手で顔面をつかんだまま、壁に打ち付ける。

「送信!」

 ちなみに叫ぶ意味はない。

 理論は簡単なこと。記憶の中に介入しただけの話。

 ちなみに何がどうなっているかを知らない俺にはどうすることもできないのだけれど、それらしく説明すると、人が物を忘れたり喪失したりしたときは、そこに『忘れた情報』という物は残る。

 俺はそこに、『そこには記憶があったんだよ』というのを教える。そうすると後は脳が補ってくれる。

 物忘れの激しい人や記憶喪失の人で試したから間違いないだろう。


 シオさんに左手で記憶を復活する用に促させる。

 ちなみに脳が異常な動きを見せるためこのとき対象者の精神が崩壊まで陥るか、気絶するかのどちらかとなってしまうだろう。

 そして、シオさんは後者の方となった。

 恐らくこれで起きればシオさんの記憶は元に戻る。万事解決というわけだ。


「さてと」

 俺は静かに立ち上がった。

 分かる情報を思い出そう。

 目の前にいる女性はシオさんだ。ここは校舎。そして、俺は嘉島奏明。

 シオさんの記憶が何者かによって交錯された可能性があったため、俺は治そうとした。


「んー?」

 しかし、これには大きな代償があるのだ。

 もし俺がこの実験を1人でやっていたとしたら、何もわからなかったに違いない。


「何で俺は校舎で乱闘なんかしてんだ?」


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