36-大掃除-
「【居合】柳風」
鞘に収まった刀の柄を持って、シオさんは言った。
俺は右腕の痛みをこらえながら、左手を突き出して受け止めようとした。
しかし、
「!?」
刀はまるで、鞭のようにしなると、その左手を避けて左肩を刺してきた。
「うああああ!!」
「【居合】足枷」
シオさんは刀を一度鞘にしまって、さらに構える。
「くっそ!」
俺は左足を出した。
「名前を聞いても怖がらず足を出してくるあたりが、貴様らしい」
そう言ってシオさんの突き出した刀は、俺の足に巻きついた。
「な!?」
「ふん」
シオさんは鼻で笑うと、腹部を思い切り蹴り飛ばした。
刀は俺が吹き飛ぶと、足から離れてシオさんの手元へと落ち着いた。
「変形も……すんのかよ」
「まぁな」
シオさんはそう言って笑った。
俺は正直、ああ、死ぬと思った。
あまりの予想外さに運も発動しなかった。
実のところ、俺は敵と戦ってボロボロになった時は普通に倒れている。
強いて王城が居なくなって、一也さんと戦った時くらいだろうか。結局勝利したのは虎郷のおかげだったわけだが。
……あれ、俺って普通に負け続けてきてるんじゃないか?
勝った時は基本的に、ここまでのダメージはなかった。打撲や擦過傷はあったが、刀傷ややけどを負った時は負けている。
「最弱だな……俺……」
どんだけボロボロになっても戦ってきていた存在とは違うなぁ。
俺はやっぱり主人公じゃない。主人公についてうだうたと、長々と、くどくどと話すのが性に合っているのだ。
今考えた案としては、キングダムでダメージをゼロにして、向こうにのみダメージを与えること。
しかし今の俺のダメージではその集中力もない。
さて、どうしたものかな。
「何か言い残すことはあるか」
「まあ、最後に聞きたいことが」
「言ってみろ、冥土の土産だ」
「貴方は、この事情を誰から聞いたんですか?」
「この事情……ああそういうことか」
そういってシオさんは少し考える素振りをすると。
黙った。
かなり長い沈黙だった。
俺はその間に思考再始動させる。
っていうか1つ疑問があった。
なぜ最初の居合は俺の左腕に傷を負わせたのに、他の居合はそこまでの力はなかったのだろうか。
そしてこの問題は恐らく、簡単にわかる。
ということは、打開できるかもしれない。この状況を。
「……」
シオさんはまだ固まっていた。
「シオさん?」
俺はなぜか問いかけた。
「……痛い」
シオさんは呟いた。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃいいいいいあああああああああああああああああああああああああ!」
叫んだ。
そして、力任せに刀を振るった。
狙いが定まってなかったおかげで、俺は避けることができた。
左足は痛い。右腕は上がらない。使えるのは右足と左手(負傷)だけか。
さてと。
僕は語り部担当として、君らに質問しよう。
明らかにおかしくなってしまったシオさんを前に勝とうとしている少年を見て、君は何を思う?
主人公じゃあないよな。