35-大掃除-
「……な……」
固まることしかできなかった。
視界が黒くなったという表現をしてしまったが、別に俺が気絶したとかそういうことではなく。
眼前いっぱいを『黒』がつつんだのだ。
「何だよ……これ!」
「すまないな、居合はスピード重視なのだがこれだけは何ともならない」
よくよく見ると、それは刀だった。
持っている柄は一つしかないのに、鍔から上は幾つもの刀で構成されていた。
そう。目の前の黒は、その幾つもの刀が構成した『影』だった。
その刀身たちは途中で折れ曲がり、それこそ人の拳の様な形になっていた。
「行くぞ。正直これは手加減とかいう問題ではなく、お前を殺すだろう」
言い終わった瞬間に、片足を上げて勢いをつけ、全体重をかけるようにそれを振り下ろしてきた。
「……!!」
俺は避けることもできなかった。
というかシンキング・キングが判断したのだ。
避けても無駄だと。足掻いた方がまだいいと。
「だったら!!」
俺は息を思い切り吸い込んだ。
そして
「ぅああああああああああああああ!」
叫んだ。
その声で刀でできた拳が少し揺らいで、広がる。
その瞬間に今度は、右足で2、3本の刀を蹴り上げて空間を作る。そしてその空間から飛び出して、シオさんの方へ。
「うおおおおお!」
俺は叫びながら、右手でシオさんに殴りかかった。
いや、殴りかかったというのには語弊があるかもしれない。
俺はシオさんに手を伸ばして、そのまま倒れこんだのだ。流石に殴りかかるような余裕はなかった。
「死ぬかと思った!」
「殺すつもりだった……!」
お互いに改めて敵対する。
「勝手に予測だったけど、アンタの力……つまりその刀は一本を軸として、それ以外は只の刀と変わらないと判断した。恐らくその鞘は刀を変形、増殖させたりする系統の力があるんだろう。だから何本でも刀を投げれる」
「……」
「さっきの拳も量は多くて、しかも鞘から出てきたが、一本以外はただの刀だと判断した。だから勢いでぶっ飛ばせると思った」
「なるほど……その一本が混じってなくてよかったな」
「それは、まぁ」
運が良かったということなんだろうな、と思った。
「流石だ。卓見だな、奏明。それに免じて間違いを訂正してやろう」
「間違い……?」
「私の力の強いのはこの鞘に入った一本の刀だ。そしてこの鞘から普通の刀を増殖させることはできる。しかし、別にこの鞘から刀を出している訳ではない」
そう言って、シオさんは鞘に収まった刀を前に突き出した状態で、制服の中に手を入れた。
そして手を出したときには刀を持っていた。
「え……」
「この鞘は私だ。私に収まっている刀と、鞘に収まっている刀。私の体からなら、どこからでも刀は出るのだ」
そう言ってシオさんは笑った。
「それよりそんな態勢でいいのか?」
「アンタの刀は避けれるし、アンタの攻撃は喰らわない」
「そうか」
シオさんは突然足を突き出した。
俺は右手で軽く受け止める。
「喰らわないって言ったはずだが?」
「忘れたのか?私の体からなら、どこからでも刀は出る、と言ったはずだが?」
意趣返しのように言ったシオさん。
そして、俺の右腕に激痛。
「いったあああああ!?」
俺の右腕に刀が刺さっていた。
それはシオさんのスカートから飛び出して、刺さっていた。
「どこからでも、と言っただろ?」
油断大敵。
ここから俺は圧され始める。