29-鬼ごっこ 後片付け-
帰るとすぐ、倒れていた海馬と雅、そして何故かすでにパイプ椅子に座っている一条字先輩の姿があった。
何故二人を放置していたかを聞くと、こっちも混乱しているから色々整理していたのだ、といった内容をもっと冷たく言っていた。
そして俺たちは2人を介抱して、しばらくして話を聞いた。
全て聞き終えてから隼人は、
「男ってのは例のあの男のことだろう?」
と海馬に聞いた。
「ああ。そうだ」
「ともすれば、何かをしに来たはずだけど……何か言ってなかったかい?」
「何か言っていたけど、その時には俺たちも朦朧としていてよくわかんなかったんだよ」
「そうか」
隼人は言って、
「ところで今日の結果はどうなったんですか?」
と話を変えた。
「……どうだろう。ここは引き分けということにしよう。そうすれば、状況は0対0のままだ」
「そうですね。一応、今回のことは何も関係なかったということにしましょうか」
「よし。それでは今日はさっさと帰れ」
そう言って一条字先輩は黙りこんだ。
「では」
隼人も淡泊に言ってから、身を翻して部屋を出ていった。
「で、何か思うところでもあるのかよ」
俺たちが家に帰ってから俺は隼人に聞いた。
「……へえ、よくわかったね」
「そりゃあんなにあからさまに帰ろうとしてたら、バカでもわかるわ」
「それもそうかもしれないけどね、まあ流石だ」
おい、その言い方じゃ俺はバカだということになるぞ。
それはいいとして。
「で、何に気付いたんだ?」
「いや、小さなことだよ。恐らくあの男にとってこの選挙が成功することは好ましい事態じゃない」
「何でそう思うんだよ?」
「かその逆で、成功してほしいと思っている」
「……どういうことだ?」
「あの男がこんな風に選挙関係のことに関わろうとしているのは不思議だ」
「……」
「まあ、今は深く考えずに今度のことを考えたまえ。次は君の番だろう?」
「……ああ」
それからは他愛もない話をしながら夕食を済ませた。
自室に戻って、俺はベッドに寝転がる前に学習机の椅子に座って、くるくる回りながら考え事を始めた。
もしも隼人の言うとおり、あの男が俺たちの選挙を邪魔しに来たのだとすれば、俺にあの柴山刃の名前を教える必要はあるのか?
もしも本気で邪魔するなら、虎郷や籠目さんを殺した方が早い――。
いや、待て。
実際選挙は進まなかった。邪魔することに成功した。
つまり、選挙自体を邪魔するつもりはない、ということか?
もし選挙を中止にしたければ、それこそアイツの力ならば校舎の1つや2つ軽く壊せそうだな。
ともすると、アイツはこの選挙を中止にするつもりはない。
……分かった。
恐らくアイツは今回の虎郷と籠目の闘いで『どちらかが勝ってしまうことを止めたかった』ということだろう。
つまりアイツはどちらかがこの選挙で負けること……あるいはどちらかが勝つことを求めている。
選挙止めるのではなく、この選挙において俺たちか一条字先輩側が勝つことを……。
そこまで考えてから俺は、隼人の部屋に行った。
「何?こんな時間に?」
隼人はパソコンで何かをいじっている様子だった。
「話がある」
「……オッケー」
俺の突然の来訪に対して、そう言って隼人は応対した。