26-鬼ごっこ-
「何をしたんですか?」
楊瀬さんは極めて冷静に言った。
「特別なことをしたわけじゃない。俺の力だと思ってもらえばいい」
東先輩は言った。
目の前の男たちは恐怖の表情を浮かべていたが、突如として表情を戻した。
さながら百面相だなこいつら、と東先輩は思う。
「何だ……ただの能力者か」
「……相手が能力者なら余裕ってことか」
「俺たち3人の能力に勝てるわけがないからな!」
そう言って男たちは構える。
そしてその瞬間消えた。
「!?」
「気を付けて!東先輩!」
虎郷が言ったが早いか、東先輩の体が遠くに吹っ飛ぶ。
「……」
東先輩は静かに、ドラム缶の山に突っ込んだ。
「へへへ……」
3人で拳を振りかざした姿でそこに居た。
「俺の能力は、『タイムズ・ミリタリー』。味方の人数分、力を倍にする能力だ」
唐突に自分の力を報告し始めた。
ついでに名前を付けることにしよう。
金髪時間バカ。
「俺の能力は『マインド・オール』。その場にいる味方の息を合わせる力だ」
脳天気バカ。いや、バカの人数は少ない方がいい。
脳ブルースガイ。どうだろう、スカイとガイをかけてみたぞ。
「俺の能力は『キャパシティ・ブレイク』。10メートル内の範囲の視界を奪う」
この中では一番強そうだ。
よし称号として、つよしくん。にしよう。
名前は決まった。
東先輩は静かに立ち上がった。
「……痛ぇな、おい」
そして静かにライダースーツを脱いだ。
タンクトップ姿に黒のスラックスという、さながら仕事から帰ってきてシャツと上着を脱いだサラリーマンを思わせた。
「まだまだ行くぜ……」
ブルースガイが言った。
ふっとまた消え去る。
東先輩は仁王立ちで構える。
「……ああ、そうか」
つよしくんの10メートルの範囲は、時間バカの効果によって30メートルになる。だからここまで離れていても見えないのか、
と考えて東先輩は逆方向に向かって投げ飛ばされた。
三倍になるのは力だけでなく速さもそうなるのか。そして息ぴったりだからみんなでせーので投げれる。
怖いなぁ、この力は。
東先輩は思考をしながら今度はセメントの袋に突っ込む。粉塵が舞い上がり、東先輩の姿はその中に隠れた。
「楊瀬!助けろ!」
籠目さんが言う。
「そんなこと言い出したら貴方の能力の方が強いでしょうに」
「見えない相手に『後ろの正面』を使ったってしょうがないだろ!」
「ああ、そうでしたね。虎郷様は?」
「私の『ファントム・ダーツ』もあんまり今回は期待できないわ」
「聴いただけではわかりませんね。お互い能力を隠したい気持ちはわかりますが、ここはお互い腹を割って戦った方がいいのでは?」
虎郷はその言葉に黙り込む。
今回は虎郷は戦った方がいいのだから。実際問題、今回は虎郷の能力は一番応対できそうだ。
「……私の後ろの正面は、相手の後ろを常にとることのできる能力だ」
と、籠目んさんが先に言った。
「……私のは『未来予知』です」
「予知……!?」
楊瀬さんが珍しく驚く。
「近未来も予知できます」
「ならうってつけじゃ……」
籠目さんが言う。
「さっき車の中で暴れたせいか……ちょっと」
そう言って虎郷は足を抑える。
「……折れたのか……!?」
「分からないですが、まあ響花がいるからそこは大丈夫です」
「……そうか」
籠目さんは焦ったり落ち着いたり忙しい。
「楊瀬さん。助けてください」
虎郷は楊瀬さんを見た。
「……申し訳ございません」
「何故だ?お前の力なら相手の姿を見えるようにできるだろ?」
「……本能です」
と、楊瀬さんは下がった。
「狼の方の私の本能が、『関わるな』と」
「そんなに相手は強いって言うのか?そうは見えないが……」
籠目さんはそう言って敵を見る。
「いえ、そちらではなく……あの、東様に……」
「東先輩?」
虎郷は東先輩に視線を向けた。
「あれは……怖いですね。正直」
楊瀬さんはそう言って汗を垂らした。
「……あぁ……」
東先輩は静かに立ち上がった。
そして粉塵の中から影が現れる。
「お前ら……舐めんなよ……」
そして、その影は立ち止まると。
「ぶっ殺すぞぉぉぉぉォォォオオオオあああああああああああああ!!」
叫んだかと思うと周りの粉塵が吹き飛び、東先輩は姿を現す。
その姿は白い長ランに身を纏い、リーゼントという暴走族だった。
「……誰だ」
籠目さんは冷静に突っ込んだ。
鬼だった。
「さあて、鬼ごっこを開始しようか」
そう言ってにらむ姿は鬼そのものだった。