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丸く収まったこの世界  作者: 榊屋
第七章 戦う未来とこの世界
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23-鬼ごっこ 準備中-


 それは一週間後だった。


 その日は本来ならば会計戦ということもあって、虎郷は早目に家を出た。

 それを追いかけるように10分遅れで俺も家を出た。


 そして学校につくと、校門の前に血文字で書かれていたのだ。


 『コサトとカゴメはユウカイした』


 と。


「……は?」

 俺は思わずつぶやいた。

「どうしたよ、嘉島」

 固まっている俺に向かって、後から現れた海馬が言った。

「……これは」

 海馬も同時に固まる。


「いらっしゃいましたか」

 そう言って現れたのは楊瀬さんだった。

「皆様、会議室でお待ちです。お二人もいらっしゃってください」

 楊瀬さんは言って、また消え去った。


「来たか」

 そう言った一条字先輩は眉間にしわを寄せて、深く考え込んでいるような様子だった。

「どういうことだ」

 海馬が聞く。

「そのままの通りだ。誘拐された。籠目と虎郷火水がな」

「根拠はあるんですか?」

「ある」

「どのような?」

「二度手間になるから、後にしよう。お前らのとこの3名がいないからな」

 そう言って一条字先輩は机の上に両足を乗っけて、黙り込んでしまった。

「……」

 仕方がないので俺たちは3人を待つことにした。

 急かすために俺は電話を掛ける。



 しばらくして黒塗りのリムジンが校庭内まで入ってきた。

 そして3人が車から降りて、楊瀬さんがその3人を連れて会議室に入ってきた。

「どういうことだ、ソウメイ君」

 そう言った隼人は珍しく冷静さを欠いている様子だった。

「説明するぞ。全員座れ」

 そう言って一条字先輩が場を制した。


「では説明します」

 説明するといった一条字先輩は口を開かず、楊瀬さんが説明を始めた。

「実は籠目様には昨日この学校の夜間の見回りをお願いしておりました。いつもは私が担当しておりましたが、昨日は所用で私の代わりを頼んでいました。しかし、今朝私が学校へ来た時には――」

「既に血文字が書かれていた……ってことだな」

 海馬が言った。

「その通りでございます。そして、私が学校を全力で徘徊しましたがすでに見当たらず、嗅覚でも探してみましたが、学校を離れて車の様なもので移動したようで、嗅覚での追尾は断念せざるを追えませんでした」

「籠目ってのがサボった可能性はないのか」

「残念ながらなしとは言えませんが、ほぼ同時に虎郷様の匂いもほぼ同じ場所から消えているところから、お二人が同時に居なくなったということです」

「……なるほどな」

 海馬は納得したように黙り込んだ。

 確かに、これならサボった可能性よりも二人同時に居なくなった可能性が高い。

「だけど、虎郷が捕まるっていうのは相手は只者じゃないぜ?」

「そうだな、それは俺も同意する。虎郷火水や籠目が居なくなるということは、能力者を相手取って勝利したということになる」

 そう言って一条字先輩は隼人を見た。

「どう思う、王城隼人」

「……」

 今回も作戦は王城に任せるということらしい。

「この学校にいるアクターのリストはありますか?」

「その辺の調査は籠目がしている。籠目のファイルは既に用意してある」

 と、顎で楊瀬を指す。

「かしこまりました」

 と言って楊瀬さんは消え去って、しばらくして1つのファイルを持ってきた。

 用意してないじゃん。今、明らかに用意したじゃん。

 シリアスな空気をぶち壊しにはしたくないため言わなかったが。


「これだけですか?」

「そんなものだが、しかし犯人はこの学校の者とは限らないだろう」

 一条字先輩は言って隼人を見た。

 そりゃあそうだ。

 この学校の者が犯人とは限らな――。

 ……あ。


「柴山刃……」

 俺は呟いた。突然思い出した名前を。

「……誰だ、それは」

 シオさんが俺を見て聞いた。

「この選挙を妨害しようとしているメンバーの一人だ。というよりリーダーである可能性が高い」

「何故貴様がそんなことを知っている」

 と、一条字先輩が睨んでくる。

 上からでもないのに、この威圧感。すごい。

「……それは今重要じゃない。今大事なのは、そいつがアクターかどうかだ」

「……チッ!」

 一条字先輩は舌打ちをして、黙り込んだ。

「調べようよ、早く」

 音河が隼人をせかした。

 隼人も一条字先輩と同じことを思っていたようで俺を見ていたが、音河の声ですぐに調べ始めた。

「……いた」

 隼人は言った。

「能力者だ」

「どんな能力なんですか?」

 雅が尋ねる。

「分からない。調査中ってことになってる」

「……相手の強さも分からずに戦うしかないってことか……」

 華壱が少し辛そうに言った。

「楊瀬、追跡できないのか?」

 一条字先輩が楊瀬さんに聞いた。

「私には無理なことは無理なのです。ご存知でしょう」

 楊瀬さんは答える。

「どういうことですか?」

「私の能力は『分かること』しかできないんです。目的地が分からないのに追跡もできませんし、瞬間移動もできません。テレパシーはあなた方の居場所がわかりましたからできました。つまり私の行動は基本的に場所が関係ないといけないんですよ」

 まさかのタイミングで弱点を知ってしまった。

 そして一番頼れる人がつぶれてしまった。


「王城隼人、どうにかできないのか?」

「……今の現状、必要なのは『機動力』と『強さ』と『場所情報』です。場所情報はせめてこの街についてですね。しかもこれらが1人に備わっていることが最高条件です」

「そんな贅沢言ってもできないだろう?」

 一条字先輩が言った。

 隼人も黙り込む。


 機動力と強さとこの街に詳しい人間。

 そんな奴がいるわけがない。しかもアクターを相手取るほどの強さなんて――。




「おい、お前ら。俺は帰っていいのか?」




 そう言って会議室に一人の男が入ってきた。

 スーツ姿できっちりした姿で。


「「あ、居た」」

 俺と隼人は同時に言った。


「あ?」



 東先輩は間抜けな声で返事をした。




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