18-箱入れ-
瞬間。
雅はその場で回転し始めた。
地面が氷なのかと思わせるような、超高速スピン。
フィギュアスケートでも見ているような気分にさせる……なんてどころじゃなかった。
「え……?」
華壱は呟いた。
雅を中心として周りの砂が舞い上がり、砂埃が雅の周りに纏うように集まっていく。
台風。
それを実体化したような形。
「……あ。これ……」
そういや初めて会ったときにこれと同じことをしていた気がする。
「って……!!」
以前は半径3メートル程度だったはずだ。
今は……!?
「ここまで来るって……!?」
半径30メートルっていうところか。
などと冷静な発言が俺にはできない!
「なぁあああ!?」
俺は思わず叫んだ。
一条字先輩も籠目さんもシオさんも隼人も音河も驚いている。
驚いていないのは、未来が見えていた虎郷と冷静な目で見ている楊瀬さん。
そして雅を信じ切ってる海馬だった。
華壱に至っては、風の中に紛れて見えなくなってしまっているため、どうなっているのかもわからない。校舎のギリギリまで竜巻が入っている。
「これで雅はいったい何をしようとしているんだ!?」
「分からない。何がしたいんだ……!?」
「奇想天外予想外。それがアイツだろ?」
海馬はにやりと笑った。
突然だった。
風の中から飛び出すように、ボールが出た。
しかもほとんど同時に。
「そうか!」
隼人が言った。
「一気に投げたんじゃ回転を加えられないけど、こうやって竜巻を起こすことで、投げる方向自体を分散したんだ!」
つまりこういうことらしい。
8個のボールを持って、回転を加えて投げると、それぞれがそれぞれに影響し合ったりした場合に正確な方向には飛んではくれない。
しかし、竜巻を起こしてその気流の流れにバラバラにボールを置く。
それから、スパイラルで『気流の方向』を変えたのだ。別にスパイラルの効果は形ある物体にのみしか作用しないわけではないということだ。
右回りしている物を同じ力で左回りにすれば、回転は止まる。
その原理を応用し、少しずつ気流のラインを作る。
それぞれがバラバラの方向に飛び出すことができるということらしい。
物理の法則に則った上で、常識的にはありえないことを起こしている。
「ということは……」
雅の位置から窓まで、ラインはできているってことか!
窓の中に吸い込まれていくようにテニスボールが入っていく。
『秒差0.44。クリアです。8pt獲得です』
音声が結果を報告した。
現在点差、1ptのみ。