12-箱入れ 開始-
書記戦。
3日後。
すなわち、4月21日。
「何なんだよ、けがは治ってないんだけど」
と海馬は頭に包帯を巻いたままの格好で学校にやってきた。
「仕方ないだろ、全員出席がルールだ。だから楊瀬さんも来てるじゃないか」
俺はそう言って楊瀬さんを指さした。
「どうも」
ピンピンしていた。
「まあそれなりに鍛えていますので、そこまで怪我も深くはなかったのですよ」
と楊瀬さんは笑った。
「じゃあ、今回の試合のルールだ」
「試合?ゲームじゃないのかしら?」
と虎郷が突っ込む。
「……ああ。ゲームではなく、試合と書いてある。前回とは違うということなのかもしれんな」
一条字先輩はそう言ってから俺たちにプリントを渡す。
試合 『箱入れ』
ルール説明:校庭の中心から11か所に設置された箱にボールを投擲し、中に入れる。交代制で一度ずつチャレンジを与えるものとする。校庭にある円の中に入り、その中からのみ投擲することを許す。但し、先攻が入れた後も後攻にはチャンスが与えられる。入ったときは両者に1ポイントずつ入る。最終的にポイントの高かった者を勝者とする。
「……これだけなの?」
音河は思わずタメ口をきいてしまった。
「そうだ。単純明快なルールの様だぞ」
「んじゃ、さっさと始めようぜ」
華壱は言って校庭に向かって歩く。
「では、行ってきます」
雅もそう言って歩く。
俺たちは今回は傍で見ることができるようだ。
校庭には円が2つ並んで描かれており、そこの中央に2人は立つ。
キーンコーンカーンコーン……と、チャイムの音がした。
「……じゃあ始め!ってことで、いいよな?」
華壱が雅に言う。
「ええ。先攻後攻はどうしますか?」
「んー、じゃ、先攻もらっていいか?」
「どうぞ。私は後攻で」
そう言って雅は手で華壱に行動を促した。
「じゃあお言葉に甘えて」
そう言って華壱は、周囲を見渡す。
『開始します。まず、時計をご覧ください』
と放送がした。
すると、校舎の時計が開き四角い空間が現れた。
「……あそこに居れるってことだな」
と華壱が確認すると、待っていたかのように、円の中の地面からボールが飛び出す。
ボールはサッカーのボールだった。
「んー。じゃ蹴った方がよさそうだな」
と華壱は言って、右足を構える。
それから時計台を見た。
「……は……で………だ………で……の……が……だから……」
華壱は一人でぶつぶつと呟いている。
「彼は何をしているんですか?」
俺は隣に居たシオさんに聞いた。
「ああ。計算?っていうか、測定?ていうか……んー、まぁ見てればわかる」
とシオさんはあいまいな答えを返してきた。
測定?計算?
いったい何のことを言っているのだろうか……。
「じゃ、行くぜー!」
華壱は言った。
そして転がっているボールを右足で蹴り飛ばす。
ボールは少し左に反れながら時計台の方へと向かう。
「入らない……」
隼人は言った。
が。
左から強い強風が吹き荒れる。
ボールは風に流されて、吸い込まれるように箱の中に入っていった。
「な……!?」
唖然だった。
普通じゃない。あんなやり方は。
「どうだ?あれが、あんなガサツな奴が書記をできる理由だ」
そう言って一条字さんは不敵な笑みを浮かべた。