06-宝探し-
「……マジかよ」
「言っておきますが、この状態でも私の能力は使えます」
「嘘だ」
「嘘ではありませんよ。リアルです」
と、前置きした。
「しかし恐らく私は消えることは無理でしょう。貴方から見れば私は『狼』ですから」
「ただの狼というわけか」
「そうです。それより大丈夫ですか?早く保持しておかないと、一分経ってしまいますよ」
と楊瀬さんが持っていた水晶玉を見せびらかす。
「チッ……」
海馬は走り出した。
そのまま真っ直ぐ楊瀬の体をつかみかかる。
「狼ですよ、私は」
と楊瀬さんは消えた。
「消えねーって言ったじゃねーか!」
「物理的な高速移動ですよ。消えたかどうかを判断したのは貴方ですから」
「でも、俺の勝ちだぜ」
と。
楊瀬さんの目の前には石ころが数個あった。
海馬が投げた物だ。
「いえいえ。その石ころはここで砕けます」
と。
言った瞬間には言った通りに石ころが粉砕した。
「……く」
「貴方が嘘だと言う前に事象が発生しさえすれば何ら問題ないのです」
「が、それでも俺の勝ちだ」
海馬は勝ち誇った顔をした。
「何を――」
と、楊瀬さんの体が崩れ落ちる。
「!?」
「この屋上の床は毎日俺が金槌で叩いてたからな。俺より体重が重いやつが乗れば壊れるさ」
何のためでもなく、念のために。運の良さにすべてを任せるように。
彼はそうしていたのだ。何かに利用できるかもしれないと思って、毎日金槌で屋上を叩いていたのだ。
そう。楊瀬さんの体は崩れたコンクリートの床に足を取られて、沈んだのだ。
「石ころの出所を推測しておくべきだったな」
海馬は言う。
つまり、壊れやすくした床の一部を無理やりはぎ取って石を作ったということ――。
と、楊瀬さんは思考に意識を奪われていた。
そしてその瞬間を海馬は見逃さなかった。
水晶玉を屋上の外部に向かってはじき出す。
「しまった――」
「俺が獲る!」
と海馬は手を伸ばして、水晶玉をつかんだ。
が。
「……予想外だ」
水晶玉は屋上の外に出て、空中を舞う。それを海馬は飛び込むようにつかんだ。
すなわち、海馬は屋上の外にいるのだ。
落下。
予想外。
運は効かない――。
「しまった!」
海馬の体は落下し始める。
「やばい!!」
「予想外って言ってたぞ!?」
「これじゃ彼の運は作用しない!」
「どうするんだよ!」
と俺と隼人が焦るのを見て
「心配すんなって!」
と、華壱が笑った。
「この学校で人が死ぬなんて、そんなことさせやしない」
と、一条字先輩が続けた。
「アイツがいる限り」
楊瀬さんは崩れた足場から体を無理やりねじって、屋上の外に出る。
それから屋上の壁を四足歩行で駆け降りる。
落下速度を上回る、謎の速さ。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
柄にもなく、叫びだす楊瀬さん。
眼の色も完全に変わり、その風貌は狼そのもの。
「貴方の命は救う!」
能力ではなく――それが嘘を吐くことで叶えるのではなく、自らの意思で助ける。
楊瀬さんの表情からそれが見て取れた。
海馬の体をつかみそのままの勢いで体育館の丸みを帯びた天井の上に立った。
「……ふう」
と楊瀬さんは落ち着いた様子で言った。
「助かった。ありがとう」
「いえ。私はこの学校で人を死なせることが嫌なだけですので」
と、言って。
楊瀬さんは人の姿に戻った。
「では。これにて」
と。
消え去った。
そしてほぼ同時に自分の手の中に何も残っていないことに気付いた。
「しまった!」
海馬の手の中にはすでに緑色の水晶玉はなく、丸い天井という、動きにくい場所に海馬一人が取り残されていた。