30-想定外-
「落ち着け。別に祭りの邪魔をしようというわけではない」
と。
一条字先輩が数人の倒れ伏した人の山の上に立って、見下ろしてその集団に向かっていった。
「そうです。諸事情でこうなったのですから」
と。
同じような格好で隼人も別の場所に立っていた。
「上手くやってくれてなかったー!!」
俺は悲痛な叫びをあげた。
「何やってこんなことになってんだ!?」
「祭りの邪魔をするな、って暴れだした生徒を抑え込もうとしたらこんなことになったのさ」
「俺の学校でルールに従わない奴は、潰す。俺の理論に口を出すなら、貴様も潰してやろうか、嘉島奏明」
と、一条字先輩は強く睨む。
それからマイクを掴んで、
『祭りの再開だ。何も言わずに、さっさと再開しやがれ!』
「おおおおおおおお!!」
と、生徒たちは叫んだ。そして体育館から出ていく。
「ご苦労だった、楊瀬。処理までやらせてしまって」
「処理は嘉島様が担当してくださいました。ご負担のほど、感謝いたします」
「そうか。よくやってくれた、嘉島奏明」
と、一条字先輩は言った。
「さてと……次に会うときは、敵同士ということになってしまうわけだな」
「ですね。まあ、禍根の残らない戦いをしましょう」
「だな。だが……海馬正」
と一条字先輩は海馬を見た。
「楊瀬は強いぞ。貴様に勝てるのか?」
「心配無用だ。俺も強い」
「強い目だ。改めて楊瀬とそっくりだな」
「……」
「……」
楊瀬さんと海馬が同時に不快そうな顔をする。
「こんなのと一緒にすんな」
「ひどい発言でございますね。心に強い傷を負ったような気分です」
と、無表情で楊瀬さんが海馬の発言に対して言った。
「まあ、そんなことはどうでもいい」
と、きっぱり一条字先輩は話を捨てた。
「4月18日。当日にルールは決められる。学園補佐会の厳選なる審査によって決められるルールだ。安心しろ」
「学園補佐会のメンバーは変更されないんですか?」
「されない。そもそも、生徒ではなく、理事長の側近二名だからな」
と一条字先輩はそう言った後、
「俺はもう寝る。生徒会室の片づけもせねばなるまい」
と身を翻した。
「じゃあ、また今度な!」
華壱は元気よく言う。
「では、失礼いたします」
楊瀬さんはそう言って深々とお辞儀してから、消えた。
籠目さんは何も言わずに去り、
「楽しみにしているぞ。生徒会選挙」
と、最後にシオさんが笑って去って行った。
「さてと、それじゃ祭りに参加するとしよう」
隼人はそう言って制服をきれいに着直した。
「眠い」
海馬はそう言いつつも、誰よりも早く体育館から出ていき、
「待ってください、一緒に行きます!」
と雅が追い駆けていった。
隼人と音河も静かに出ていき、俺と虎郷も後を追うようにして、祭りを楽しんだ。
僕らの最終戦争のための時間が動き始める。
僕らの最終決戦のための歯車が回り始める。
僕らの最終対決のための布石を置き始める。
僕らの最終演技のための世界が――作られ始めた。