27-道に於いては、障る音-
「正、奏明。こんなところにいたのか」
俺たちは運動場で出店を見ていたところだった。そこにシオさんがやってきた。
「何やってんだ、日下副会長」
「先輩に敬語を使わないんだな、正」
「既に恋愛中の存在には興味がないんだよ」
「なるほどな」
シオさんは笑うと、
「お前たちの仲間の誰かは、危険を察知する能力でもあるのか?」
と話を変えてきた。
「そんな能力を持っている奴は居ませんが……」
「じゃなんでだ?」
「それを教える理由は俺たちにはないな」
「……」
まあ、それもいいだろう。できるだけイーブンな条件で戦いたいのはこちらも同じだ。
とシオさんは続けた。
「申し訳ありませんね」
俺はそう言ってシオさんに軽く頭を下げる。
「いいさ。しかし、勝負は負けるつもりはないぞ」
「それはこっちも一緒だ。俺も負けるつもりはない」
俺が言う前に海馬が言った。
なんだろう、この感じは。
いくら相手がいるからと言って海馬の言い方が冷たい。それこそ日下先輩が虎郷にするのと同じ態度だ。
どういうことだ……?
「さて、どうしたものだろう」
「俺たちは取り敢えずこの辺を探索してるぜ。なんか見てないのか日下副会長」
「何も見てはいないな。まあ何か大きな事件が起きるのだとすればすぐわかるはずだろう?」
ドゴォ……。
と、何かが壊れる微かな音がした。
「どうした、嘉島」
「何かが……崩壊した音が……」
「!あれは……」
シオさんが校舎を見た。
俺たちもその方向に目を向ける。
俺たちから見える校舎側の反対側から煙が上がっているのが見えた。
「あの辺りって生徒会室じゃ……」
「行くぞ」
海馬は走り出した。ほぼ同時にシオさんも走り出す。俺は少し遅れ気味に駆け出した。
その時運動場を軽く見渡す。
ほとんどの生徒が煙の存在には気づいていないようで、気づいた生徒もどうでもよさそうに戻った。
そりゃそうだ。出店からはよく煙が出ているのだから――とは言え、運動場以外の場所には出店はなく、それに気づけば不思議に思うのだが――。
「……」
走りながら推理を開始した。
また、生徒会室は第二校舎にあるので、今日は何にも使われていない……。
恐らく人的被害はないはずだ。
まあ隼人がいるから事件はさっさと解決してくれるはずだ。
生徒会室の前には既に、隼人と一条字先輩を除く全員がいた。
「何があった!」
海馬が叫んだ。
「恐らく爆発でしょう。しかも外部からの爆発です」
楊瀬さんが冷静に答えた。
「爆発……?」
海馬がしかめ面を見せた。
「外部からの衝撃とともに、一部ガラスが融けたり燃えたりしています。が……一つおかしいんですよ」
楊瀬さんが言う。
そして、それは誰から見ても明らかな『違和感』だった。
確かに室内も室外も爆発した形跡はある。焦げたり融けたりしてることから見ても間違いなく爆発したのだろう。
が。
先ほど爆発したばかりということは、だ。
今、この部屋は『燃えていなくてはならないのだ』
「燃えない爆弾……でも作ったというのか?ともすれば相手は演者だが」
籠目さんは冷静にそれらを見る。
演者、というのはアクターのことだろう。楊瀬さんや一条字さんはこちらに合わせてアクターという言い方をしていたけれど、一条字先輩側ではそういう言い方をするようだ。
「しかし、そんな演者いるのかな。面白い力ではあるけれど」
華壱が言う。
……あ。
「嘉島。龍兵衛さんに連絡してくれ」
海馬も気づいたらしい。雅と虎郷も気づいたようだ。
「どういうこと?」
気づいていなかった音河だけが質問した。
「分かるだろ?もし、これが爆弾の仕業だとすれば……火薬抑えた爆弾とかではなく、燃えない爆弾とすれば、だ」
海馬は眉間にしわを寄せて言った。
「長柄川だ」