20-恋心、あずかり知らぬ、夢もあり-
俳句っぽく。
カコン、と古い庭園にあったししおどしがなる。
そして水の流れる音がまた聞こえ始めた。
その日の夜、俺たちは日下副会長の家に招かれた。
話してもそう長くはならないが、いつも通りに時間軸を戻してほしい。
「王城隼人」
そう言って隼人を呼び止めた男がいた。
「……一条字先輩」
隼人がそう言って立ち止まる。それから、
「……先に帰っておいてくれ」
と言って俺たちに背を向ける。
俺たちは何も言わずに足をもう一度動かし始める。
「いや、待て。嘉島奏明、海馬正、音河響花、虎郷火水、常盤雅」
と、一条字先輩はそんな俺たちを止めた。フルネームで全員を呼んだ。
「貴様らにも用があるそうだ。少し待っておけ。日下が呼んでいる」
「日下先輩が?」
虎郷がそう聞き返して少し不快そうな顔をする。彼女にとってはもしかしたら不安要素――トラウマなのかもしれなかった。
「何の用かはよくわからないが、虎郷火水、貴様もしっかり呼ばれている。貴様がいくら不快に思おうが――そして入本人が貴様に好印象を持っていなくても、体裁というものもあろうからな」
そう言って一条字先輩は隼人の前に立つ。近づくと隼人の身長の小ささが――一条字先輩の身長の大きさが際立つというものであった。別に隼人は小さいわけではないのだろうということにしたい。
「よくやった、王城隼人。学院の平和を見事守って見せた、ということだな」
「そんな大それたことをしたつもりはないですよ。僕は僕の感情の赴くままに行動してみただけです。僕のやりたいようにやった結果と言っても過言ではないんですよ」
「自分のやりたいようにやってこの結果とは、根っからの人助け向きの体質と見えるな」
「助けているつもりはありません。僕らみたいなのは、人助けはできませんよ」
「……ふむ。貴様はやはり変わった奴だ」
そう言って一条字先輩は荷物を持って階段を降り始めた。
俺たちは何も言わずにその後ろを追って階段を降り始める。
昇降口にはほとんど人はいなかったので少しさみしさを感じたが、お構い無しに皆は靴箱へ行く。
そして靴を履いてから、門のところまで歩くと
「玲王。思ったより遅かったわね」
と、頭上から声がした。
見るとシオさんが街灯の上にバランスよく立っている。
「日下か。いつもどこにいるのか分からん女だ」
一条字先輩はそちらの方を見ずに歩き始めた。
シオさんは飛び降りてきて、
「やあ。みんな。久しぶり、なのだろうか?」
「そうですね。で、何の用ですか?」
俺はシオさんに尋ねた。
「いやいや、特に用があったわけではないが……。まあ、貴様らが学園平和のために頑張ったと聞いたので、小さくながらも宴でもしないか?」
シオさんはそう言って俺たちを見た。
「……日下。まさか、そんな用だったのか。そしてそれには俺も参加させる予定なのではあるまいな」
「そのとおりよ。よくわかってるじゃない、玲王」
「……まあいいだろう。たまには挨拶もしておかなければな」
そう言って一条字先輩も立ち止まる。
シオさんはもう一度こちらを見て
「では、行こうか」
「行くってどこに?」
「私の家だよ」
回想終了。