16-策士の水には、土残る-
題名の意味は、『策士策に溺れる』から、変形させた感じです。
まあ、溺れないってことです。
後、題名は大概、次の話の予告みたいになってます。
1年1組 王城隼人
2年3組 一条字玲王
3年3組 乾 暁
3年4組 朱里沢 美咲
以上4名を生徒会長候補とする。
「だとよ、こら」
「やめふぉ!」
家に帰ってから、俺は隼人の頭をソファーに押さえつけた。
「お前何やったかわかってんのかよ」
隼人に向かって海馬は言った。
「いやだから一条字先輩と同じことを――」
「あのタイミングであれやるってことは、お前はどちらかといえば圧力で生徒を抑えたようにしか見えないぜ?」
「私もそう思うわ」
「同意です」
「隼人……しっかりしないとだめだよ」
4人に責められる隼人。
ソファーにうずめられて表情は確認できないが『ああ、しまった』という表情に違いない。
「隼人。これからどうするか考えているんだろうな」
「……考えてるつもりだよ。取り敢えずは人望を得ることから始めたいんだけれど」
「だったら、雅を使え」
海馬は言った。
「虎郷は先日のいろいろから論外。音河は婚約者として隼人のそばにいるということが一条字と状況も似ているためむしろそれは公表した方がいい」
冷静に海馬は言う。
「どういうことだ?」
「女子はそれだけで票を獲得できる。だから、生徒会役員である雅の存在を外に出せればいいんだよ」
なるほど、つまり女子で票を稼ぐと……。
「でもそれなら虎郷も音河も大丈夫じゃないのか?見せつけるっていうなら、二人でも十分できる――」
「あほか。女子に相手がいるとわかってる時点で男子はその女子に少し期待が減るんだよ」
「ああ、そういうことか……」
つまり、虎郷は俺という相手がいて、しかも先日からの行動から他の男子に色目を使うことはできない。そして音河は先ほどの通り、隼人との関係を表に出した方がいいということか。
「でもそれは雅ちゃんがかわいそうだよ」
音河が少し暗い顔をして海馬を見た。
「だって、海馬の大切な人でしょう?」
「大切な人じゃない」
海馬は静かに言った。
「悪いけど俺は虎郷みたいに助けられたわけでも、嘉島のように存在にひかれたわけでもない。まして隼人と音河のように昔からそういう関係でできたものでもない」
久々だった。
何というのだろうか。いつも海馬は中立的立場。何かをするにも何かと戦うにも、『他人の指示を待つ』ような人間だった。だから、久々に海馬の存在を理解した気がする。
いつも客観的なのだ。
何をするにも、何を見るにも、何を言うにも、何を聞くにも、何もかもが冷静なのだ。
感じた。
海馬の冷酷さを。
でも間違いなく、海馬にはそれだけではない何かがある。
「いえ大丈夫ですよ」
雅はそう言った。
「ああ。俺もそう思う。雅は結局は俺を選んでくれる」
海馬はそう言って笑う。
客観視が冷たいとは限らない。
客観視の温かさ。それが彼にはあるのだ。
「まあ、ともかく」
隼人は言った。俺の手はいつのまにか隼人を開放してしまっていた。
「これから話すことを聞いておいてほしい」
隼人の作戦は、とても緻密だった。
オチから言ってしまうと俺たちに降りかかる災難はすべて隼人のおかげで対応できたのだった。