15-同等にして、往々に-
約一週間後。
4月15日月曜日。
生徒会選挙が始まった。代表として、生徒会長の職に就く予定の者が挨拶することになっている。
その日の午後の最後の授業は、代表としての演説を行うことになっていた。
「まさかと思うが緊張してないだろうな?」
俺はステージ袖で隼人に確認してみる。
「君はわかってないね。僕は王城だ。スピーチなんて数えられないくらいにやらされている」
「あっそ。じゃあ取り敢えず応援だけはしとくぜ」
「任せた」
隼人の発言を聞いてから俺はステージ袖から去って、列に並ぶ。
横一列に出席番号順に並ぶため、隣は自然海馬ということになる。
「どうだった?」
「アイツが緊張なんてするわけないだろ」
「やっぱそうだよな」
海馬は苦笑すると、前を見た。
既に代表者はステージ上に並んでいた。
隼人と先輩であろう男子生徒と女子生徒が一人ずつ、そして現生徒会長の一条字先輩。
『まずは生徒会長、一条字玲王から任期を終え、辞任することを表明していただく』
先生によるアナウンスで一条字先輩はゆっくり前に出て、マイクのついた台の前に立った。
『……まあ』
そう言って始まった。全然しっかりとするつもりはなさそうだ。
『去年1年だったこの俺が、生徒会長などというものをできたこと自体、今ここにいる生徒たちのおかげといえるだろう』
って、一条字先輩って今、2年!?
てっきり3年生だと……。
『任期満了ということでこれで辞任することになるが、今年度の生徒会長にも立候補した。長々と話すつもりはない。これで、俺の辞任表明と演説まとめて終わりにしよう』
そう言って礼をすることもなく元の場所に戻る。
その空間に包まれていた信頼。
それを俺は肌で感じた。
今の2年と3年は彼の生徒会長っぷりを見てきて、それにより彼は高い信頼を勝ち得ている。
あの圧力のようなものは、彼が王座に立っているということの証明……のようなものだったのだろう。
『順番に宣誓してもらう。1年1組王城隼人』
アナウンスに従うように、隼人は前に出て演説台に立った。
『……まあ』
と。
隼人はいきなりそう言った。
それこそ一条字元生徒会長の真似をするように。
『1年生風情が生徒会長を目指すことに言いたいこともあるでしょうが、それでも一条字先輩も同様の状況から今のような人望を手にしていることを聞いて、安心しました。なぜなら、彼にできたということは僕にもできるかもしれないということです』
んなわけあるか。
そういう声が聞こえた。
俺は少し苛立ちを覚えたが、隼人の宣誓中に問題を起こすわけにはいかないので踏みとどまった。
『手始めに、という言い方をすれば正しいのかもしれませんが、まああなた方に証明してみせます』
一条字先輩にできることは僕にもできるということを。
そう続けて、隼人はマイクから離れる。
そして
「ぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアア!!」
叫んだ。
入学式の時と同じだった。
鼓膜が揺れる。
悲鳴が聞こえる。
先生、先輩、生徒……全員が崩れ落ちて、跪いていく。
残ったのはほとんどいなかった。
俺たちの周りにはほとんど人はいなかったし、立っていたのは元生徒会役員と見える人たちと、壇上に残っている、選挙候補者だけだった。
『ほら、ね』
隼人は演説終了と言わんばかりの顔で、下がっていった。