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丸く収まったこの世界  作者: 榊屋
第六章 誘い乱れるこの世界
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10-絆の岩を、穿つ雨-


 恋愛難しい。


 っていうか、女子ってめんどい。



 俺たちはWRにいた。

 道路なんかでアクター同士が乱闘を起こせば、それこそ修羅場になってしまう。

 というのは建前で、どういう理由で虎郷が俺に戦争を申し出たのかが全くわからなかったからだ。


「よくわからんが……取り敢えずお前らが戦うんだな。この空間で」

 今日元さんは俺と虎郷に言う。

「はい。どうなるかわからないので、できれば退去していてください」

「まあそれはいいんだけど……ふむ」

 今日元さんはそう言って俺を見る。

「お願いします、今日元さん。後で理由は話しますから」

「……分かった。じゃあ、1時間後にここに来るから」

 今日元さんはそう言って、静かに目を閉じる。

 すると彼女の体はパッと消え去ってしまった。


 よくわからないが、海馬と雅と音河、それに隼人はこの空間には入ってこなかった。 

 海馬と雅と音河は原因を知っているのだろう。それを受け入れて俺と戦うことを止めようとはしなかったほどの原因――理由を。


「虎郷。どういうつもりなんだ」

「……」

「何でいきなりこんなことになった。シオさんが原因なのか」

「……」

「今日の敗北か。それとも、そんなに俺がシオさんとかかわっていることが気に入らないのか。なんにせよ、それで俺がお前と戦うっていうのは明らかにおかしいと……俺はそう思うぜ」

「……」

「何とかいえよ」

 俺がそう言っても、彼女は何も答えない。

 但し、それでも相変わらず強い殺気を放っている。

 しばらく静寂の中、虎郷が口を開くのを待っていた。

「私にもよくわからないわ」

 突然だった。

「今までの私なら、好きな人が他の女子と話しているくらいのことで頭に血が昇るようなことはなかった」

「……」

「きっとそれは……そう。貴方という人間を深くまで知っていて、尚、あなたのことが好きなのは私だけだったから」

 虎郷は自らの発言を考えながら口に出している。

「でも日下副会長は違う。貴方がアクターだっていうことも知っているみたいだし、私たちがそういうのにかかわっていることも分かっている。そして、それを踏まえた上で貴方に興味を持っている」

「いや、あれは別に恋愛感情とかじゃない――」

 のか?

 いや、恋愛感情ではないだろう。それは俺もそう思う。

 だが、100%ではない。

 適当なことを言って、虎郷をこれ以上苦しめることも俺は良しとはしていない。

「何より私より強いわ」

「……」

「私たちは私たちの目的のためにお互いを利用している。そして私の利用価値は『力』」

「おい、虎郷、それは――」

「もし日下副会長があなたたちの味方になれば、私の必要性はなくなるわ」

「それは違うだろ。お前は――」

「だから貴方の手で決めて」

 虎郷は俺の話を尚も聞こうとはしない。

「私の力が必要かどうか、同情や悲哀なんて感情は捨て去って吟味して頂戴」

 そう言って虎郷は俺をにらんだ。

 なるほど。

 そういうことか。

「行くわよ」

「来いよ、虎郷。言われたとおりに吟味してやる」

 俺は構える。

 瞬間だった。

 すでに虎郷は俺の懐まで瞬時に間合いを詰め、拳を握りしめていた。

 速い。

 誰が見てもそう思うはずだ。

「悪いな」

 だがそれも俺には通用しない。

 俺の右の手のひらは突っ込んできた虎郷に伸ばすだけだった。

 鳩尾みぞおちに俺の手のひらは吸い込まれるように入る。

「か……」

 空気を一気に抜いてしまったのだろう、そんな音がした。

「俺のムービーの力があれば、近未来予知もできる。運もいいし、分析能力も高い。俺には勝てないよ、虎郷じゃ」

 俺は厳しいことを言うように虎郷をゆっくりと地面に降ろしてから座った。

「正直なところ、ずっと前から俺は虎郷に利用価値なんか感じてはいなかったさ」

「……」

 虎郷は顔を伏せる。彼女のプライドから考えても、彼女は人に涙を見せたりはしないだろう。

「でも、俺は虎郷がいなかったらダメなんだよ」

 虎郷は特に何の反応も見せない。

「お前は居てくれるだけで、俺を作ってくれているんだ。絶対大丈夫だから」

「……日下副会長のことはどうするの」

「あの人は別に俺に興味があったわけでもないだろう。俺を名前で呼んだのは彼女の癖ってだけだと思うし」

「貴方はどうしたいの」

「虎郷と一緒に居たい。それだけ」

 本当は顔から火が出るほど恥ずかしいけれど、恥ずかしがって彼女を傷つけることに比べれば、なんともない。と、そう思えるのだった。

「……」

 彼女は何も言わなかった。

 けれど肩が震えていることからも泣いているのはわかっていたから、俺はその横に何も言わずに座っていた。

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