09-明日の空、昨日の雲と今日の月-
話の腰を折っておこう。
でなければ俺は考える能力を失ってしまいそうだ。
理解できるできない云々は置いておくとして、だ。
俺の父親は、目の前にいる日下 入さんと知り合いだった。そして、彼女の話ならば生徒会長である『一条字 玲王』も知っているようだ。そして父からアクターに関する情報と知識、そして使用方法等を聞いたらしい。
そして全面的に親父を信頼しているらしいシオさんが預かった言伝によれば、俺たちは生徒会選挙に立候補して、生徒会選挙の期間を延ばさなければならないそうだ。話はシオさんだけしか聞いていない上に、そうしなければならないということしか聞いておらず、理由も分からないそうだ。
ルールに則るならば。
立候補して、俺たちは生徒会選挙を長くする必要がある。そのためには『生徒会実力選挙』まで持ち込むしかない。
つまり俺たちの条件は、『最多得票数を得た立候補者と他の立候補者の得票数を1.2倍以上の差を残さない』ことだ。
「難しいことに首を突っ込んでしまったような気がする」
隼人はそう言って帰り道を踏みしめながら空を見上げた。
「どうせ生徒会には立候補するつもりだったんだから、まぁいずれ知ることだったろうけれど……」
「……」
「……ソウメイ君?」
「え」
声は耳に入っていたが、何を言っているのかまではしっかり理解していなかった。
「聞いてなかったのかい?」
「ああ、悪いな」
「……まぁ今まで失踪していた父親の情報を聞いてしまったんだ。そうなってしまうのも無理はない」
「……」
確かにそこに驚いている、というのもある。
だが俺が何よりも疑問なのはその上だ。
どうして父親がアクターを知っているのか、だ。
父親の力は簡単に言うならば、相手の記憶を消し去る力。世間に残った嘉島家の存在を抹消し、自らの消息までも完全に隠してしまうようなことができる能力。
だが父親はこれを『よくわからない力』としか表現しなかった。
失踪してから知ったのか、それともわざわざ隠していたのか……。
……わからない。考えたところで結果が出そうなものでもない。
「まぁ今は親父の言ったことを遂行するしかないのかもな」
「だね。取りあえず1回家に帰ってから作戦会議ということになる。けれど……」
そう言って俺の方を静かに見た。
「君は家族の元に帰りなよ」
「え……?」
「父親のことで少しでも情報がわかったんだ。伝えるべきじゃないのかい?」
「……それはダメだ」
俺はそう言って足を止める。隼人もそれを見てから止まった。
「その話を聞いたら、母と兄は止まらなくなる。俺の血縁だからな」
「……」
「何より、親父には自分の口から説明してもらわない限り俺自身納得できない。今でさえ、その情報が嘘ではないのかと考え続けている」
俺がそう言ったのを見て隼人は少し考えるようなそぶりを見せてから、
「……そうかい」
と言って歩き始めた。
俺はその背中を静かに追いかけた。
「ソウメイ君」
「何だよ」
「僕が思うに――つまるところ直感だけれど」
「?」
「君の父親はすぐに僕らの前に現れると思うよ」
「……どういうことだ?」
「だから直感だって。根拠はない」
そう言って隼人は歩き出す。
見透かしたような言動。根拠のない行動。
隼人はそれで生きてきた。
もしかしたら…………。
「あれ?」
隼人は言った。
気づくと家の前にいた。
「どうした?」
俺が尋ねると隼人が指をさす。
指した先には――
「……?」
居たのは、虎郷と海馬と音河と雅――つまるところ全員。
皆が手持無沙汰のように門にもたれかかっていた。
「何をしているんだい?こんなところで」
隼人が尋ねる。
「……嘉島君」
隼人を無視して虎郷が俺に言う。
「何だ?」
虎郷は少しためらうように唇を震わせていたが、一度唇をかみしめてから言った。
「私と勝負しましょう」
「……は?」
「真剣勝負よ」
虎郷の眼は今までに見たことのある――それは戦うときにいつも見せていた、闘志に燃えた目だった。