05-会えば絡みし、赤の糸-
昨日、俺とシオさんが出会った体育館裏。
そこに、今は俺を含めた4人の人間がいた。
ていうか。
「あの、やめにしませんか2人とも」
と俺は怯えつつも、虎郷とシオさんに提案する。
「……」
「……」
ゴゴゴゴゴ……
と、漫画ならば地響きが聞こえてくるような面持ちで2人は俺の提案を黙殺する。
虎郷はともかく、シオさんまでここまで怖いとは思っていなかった。
「ていうかよ」
と、俺の横でもう1人の人物が口を開いた。
「大体、お前の所為でこうなったんだろうが、嘉島」
「海馬……こんなことになるとは俺も思ってなかった――ていうか俺の所為じゃない……」
「おいおい責任逃れかよ」
海馬はそう言って俺を少しだけ蔑むような目で見る。
「責任逃れって――」
「誤解を解かなかったのはお前だろ?それで十分な責任だぜ」
「それは――」
「女には責任を負わせちゃいけないのさ。時には、男が丸ごと背負うべきなんだぜ」
海馬はそう言って正面の2人を見た。
俺は少し俯きつつも、その2人の方に視線を向けた。
どうしてこうなってしまったのか。できればタイムマシンでも使いたいくらいだが――そして俺に『余計なことだけは言うな』と伝えたいくらいだが――そんなことはできないので、時間を遡るにとどめることにしよう。
昨日とは違い、今日は全員バラバラに学校へ登校した。チーム分けした以上、俺たちが関わっていることはばれたくないわけだし、起きる時間が本来みんな違うからだ。
隼人は基本はマイペースなので、人を呼ぶときなどのみ早起きだが、それ以外は遅起きなのだ。
で、俺は皆より早めに起きて――それでも虎郷は誰よりも早く起き、みんなの朝食を作ってから出てったようだが――学校へ向かった。
そしてクラスに入ると、教室には既に数人の生徒がいた。虎郷は俺の顔を一度軽く見たが、すぐに視線を落として、教科書を読み始めた。
俺は自分の荷物を置いて、これからどうしようかと悩んでいると
「ん?」
廊下がざわざわしているのが聞こえる。生徒もそんなに多くはないのにここまでのざわめきとは、怪獣でも現れたか――。
「君」
と、俺の近くで声がした。
「あ……」
目の前にいたのはシオさんだった。
「思い出したよ。玲王の演説を聞いて立っていた少年の一人だな、嘉島奏明」
「あ、はい……」
そう言えば名乗ってないのだった。
「興味深いと思ったのだ。君たちに対する監視をつけていたんだけれど、監視は外しておいたぞ」
「あ、ありがとうございます」
「お礼代わりと言ってはなんだが、ちょっと付き合ってくれないか?」
「え?」
俺は少し固まってしまったが、
「まぁ、来てくれよ」
そう言ってシオさんは俺の手を引っ張る。
「待ちなさい!」
叫び声が上がった。
虎郷だ。
「……ああ。君も玲王の演説を訊いて立っていた子だな」
シオさんは、口調は変えていない。しかし、言葉に冷たさを感じる。
「同じ理由なら私も行くわ」
「いや、君には興味はない。私が用があるのは奏明だけだ」
「……!!」
あ、虎郷がキレている。
「行こう、奏明」
「あ――」
「待って」
虎郷はそう言ってシオさんの腕をつかんだ。
「監視していたということは私たちが敵対していることも知っているのでしょう?それについていくと思うのかしら」
なるほど確かに虎郷らしい。しかし、いつもの虎郷ならここでこんなことは言わない。なぜなら、敵対していることを知らない可能性もあるから――。
恋は盲目。
客観的に見れなくなっている。
「……まったく、貴様は面倒な女だ」
そう言って、シオさんはため息をつく。
「ついてこい。格の違いを教えてやる」
シオさんはそう言って歩き出した。虎郷はそれについてくる。
教室を出ると、
「……で、これはどうすれば勝ちのゲームなんだ?」
と、登校してきたばかりの海馬が笑って出迎えてくれた。