02-魅せる風景、帰る跡-
どんな話になるのかわからない。
入学式を終えて、俺たちは教室に戻った。
そして、先ほどまでの楽な気分はなくむしろ淀んだような『圧力』のみが残っていた。
ほどなくして、島原先生がやってきてHRを終えてその日は終了となった。残りは学校見学でもなんでもすればいい、だそうだ。
昼食をとりながら、俺と海馬と隼人は話し合った。
「情報収集ってのは、最大限の力になるぜ」
海馬がそう言って俺たち6人の行動が始まった。
「いいかい?こうなってくると、僕らが仲間であることをわざわざ露見させて行動する必要はない――むしろ、僕らは特になんの関わりもない雰囲気を出しておいた方がいいね」
「となれば、チーム分けと行こうか」
という会話の末、バランスを考えてチームが決まった。
『チーム探偵』俺と隼人、『チーム警察』虎郷と雅、『チーム諜報』海馬と音河
「つまるところ、僕らは情報をまとめて考えたり、聞き込みしたりして解決する」
「『チーム警察』はとりあえず行動ってことか。まぁ美人二人だから男子への声掛けも楽にできそうだな」
「『チーム諜報』は海馬による運でいろいろ情報は集まるだろうし、音河は耳がいいから小さな話でも聞き逃さない」
「なーる。いい感じの人事だな」
という会話をしながら俺たちは誰もいない教室でのんびりしていた。
俺は海馬の席に座り、隼人は椅子の背もたれを前にして俺の方を向いている。
椅子を浮かせたり戻したりして、舟を漕ぐように揺れていた。
「ていうか」
俺はそう言って隼人の方に視線を向けて舟を漕ぐのをやめる。
「お前は何がしたいんだよ」
「聞いてなかったのかい?」
「いや、聞いてたけどさ」
俺はそう言って机の上に腕を置いて、身を乗り出す。
「あの生徒会長がこの学校を支配しているこの状況を知りたいってだけだろ?」
「ああ」
「でも知ってどうするんだよ。まさか生徒会長にでもなるつもりか?」
俺は笑っていったが、
「ああ、そうだよ」
と隼人は至極真面目な顔で答えた。
「……マジ?」
「そりゃ、僕は王城を超えることが夢だからね。去年はもう遅かったけれど、今年は生徒会長として上位に立つよ」
「第一歩ってわけか」
「ま、そういうこと」
隼人はそう言って笑う。
まあ、キングがやりたいようにやるということなら、俺は最大限利用されることにしようか。
「情報収集の結果は家に帰ってからだ。僕らはそろそろ帰ることにしよう」
「……なんで、俺たちは今まで残っていたんだ?」
「僕らが仲間であることを印象付けるためさ」
「……誰に」
「彼らに」
そう言って指をさした隼人。
窓の外、別館校舎。
屋上。
数人の男女が双眼鏡片手にこちらを見ていた。
「何なんだ、あいつら」
「推測の域だけど、生徒会役員かな?」
「なるほどな……」
「僕らが同じ家に住んでいることはばれない。王城グループの警備力と東先輩、そして今日元さんに頼んでるから、何とかなると信じてるよ」
そう言って隼人は荷物を持った。俺も荷物を持ってから教室を出る。
「ちょっとコーヒー買う」
と言って校内の自販機に隼人が向かった間、暇だった俺は体育館の裏に向かった。
学校の体育館裏は、告白の場や不良のたまり場となることが多いような気がするので、この学校では一体どんな場所になっているのかが気になったのだ。
できるだけ足音を立てずに、静かに歩く。
そして体育館裏につくと、
「……」
何もなかった。
いや、本当の意味で何もなかったのだ。
「は……?」
普通は芝や伸びた草木が固まっているものだが、それもなく、むしろ整備されたようにきれいだった。そして四角くコンクリートで固められている。
「何なんだ、ここ……」
俺はそこを静かに歩く。
「……!」
殺気!
俺は上を向いた。
体育館の上から飛び降りてきた何かが俺を襲ってきた。
「な!?」
俺は咄嗟にコンクリートに触れて日本刀くらいの棒を作り、攻撃を受け止める。
キンッ!
とぶつかり合う音がした。
得物は日本刀だったようで、相手は少し驚いたような顔をすると同時に、すぐに俺から離れた。
「な、なんだよ急に!」
俺はようやく相手の姿を見る。
「って」
女だった。
ポニーテルの髪を花の簪で留めている。制服をきっちり着こなしてはいたが、改造しているようで、みんなのものとは少し違っていた。
「……」
なんでだろうか。俺を攻撃してくる奴は基本女子なのだが……。
「アクターだと……貴様、一体何者だ」
女はそう言って、刀の切先をこちらに向けた。
「何者って――アンタこそ何なんだよ!」
「生徒会副会長、日下だ。私を知らないだと……?」
そう呟いて、女は俺をにらむ。
「しらねーよ。ていうか、いきなり襲ってくるってなんなんだよ!」
「……ああ、新入生だったのか。これは失礼した」
女はそう言って、先ほどまでとは打って変わって笑顔を見せた。
「すまなかった。てっきり、体育館裏で悪さをする連中の何かだと思っていたのだが、勇み足だったようだ」
「え……あ、ああ。いや――」
「改めて自己紹介させてもらおうと思う」
そう言って女は俺に手を伸ばした。
「生徒会副会長、日下入だ。気軽に、『シオ』と呼んでくれ」