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丸く収まったこの世界  作者: 榊屋
第零章 紡がれゆくあの過去
208/324

45-笑う。-

「・・・・・・」

 右手の力を使えば追跡は出来る。

 1日かければ、間違いなくあの男を追いかけることも可能だろう。

 だが。

 追いかけたところで俺にはどうにも出来ない。先ほど同様、撒かれてしまうだろう。それに行き着いた先には恐らく化物が揃っているに違いない。

 今この状況で俺がやれることは、ない。

「・・・・・・帰ろう」

 俺は地面に向かって呟いて、足を進めた。




「お帰り」

 帰ると隼人がそう言って迎えてくれた。

 いや、迎えてくれたというには少し乏しい出迎えだった。

 扉を開けて、玄関に倒れていた。

「酔っ払いか」

「こう見えて――」

 と言いかけて、少し黙った後、

「見た目どおり、僕は運動はあまり得意じゃないんだよ」

 と言い直した。

「走ってたのか?今まで」

「いや。帰ってきて、10分は経ったかな」

「何で倒れっぱなしなんだよ・・・・・・」

 俺はそう言って隼人の横に座り込む。

「体力が無いもので」

「ていうか、キングダム使って何とかできないものなのか?」

「アレは異常に精神力を使う。慣れたら戦いにも利用できそうだけど・・・・・・それにそれ以前に、アレは本来の世界とは別次元にあるといっても過言ではないし、対象者がいないと使用できない」

「対象者ってのは?」

「基準が無い。どうも、そのあたりは『アイツ』が勝手に決めている」

「アイツ・・・・・・?」

 ・・・・・・。

 ああ、そうか。

「僕は会話したこと無いけれど、アクターだね」

「会話って・・・・・・」

「僕も良く分からない。それ以上聞かれても何とも答えられないよ。それより」

 手早く話を切って、追求を避け、さらに話を転換する。

 行動が早い。

「君は一体何をしていたんだ?」

「・・・・・・」

「いやいや、深い意味は無いよ。僕らが居なくなってから君が帰るのは遅かったから、聞いているだけだよ」

「・・・・・・別に何も」

「本当に?」

 隼人はそう言って尋ねる。

「・・・・・・」

「例え君が犯人を追跡する事が出来て、見事見つけることが出来たけれど、『聖域指定ゼロ・ジャミング』によって負かされて撒かれたとしても、僕は責めたりしない」

「知ってたのかよ・・・・・・」

 全く。

 お前は本当に「見透かした野郎だ」と隼人が先に言った。

 見透かされた。

「いやいや、僕は僕の予測を話しただけだよ」

「嘘つけ」

「それにしても君はテンプレのような天才的な展開だね。さすが主人公」

「俺は主人公じゃない。それより、現状の話しをしろ」

「ふむ。じゃあ能力の話から」

 そう言って隼人は体をようやく起き上がらせた。


聖域指定ゼロ・ジャミング


 聖域指定ゼロ・ジャミングとは、科学的に根拠を見出すとすれば、空間把握能力を司る器官をかき乱す事で違和感を感じさせる、ということらしい。


 どんな人間でも経験した事があると思う。

 階段を下る際にもう一段あると思って足を踏み出した瞬間や、逆にもう階段は無いと思って歩いた瞬間に、違和感を感じた事があるだろう。

 アレを瞬間的に起こすのが、聖域指定だ。

 脳や視線ではそこには壁は無いと判断しているが、実はそこには壁が(・・・・・・)あったのだ(・・・・・)。


「君が謎の男を見つけた公園を君はしっかりと見たことがあるのか?」

 隼人はそう言った。

「無い・・・・・・」

「だろうね。だったらすぐにも違和感に気付いたはずだ」

 そう言って隼人と俺はその公園に立った。

 朝だというのにも拘らず、人っ子一人見当たらない。だからこそとも言うが。

 いや――。

 それよりもブランコだ。

「あれ・・・・・・?」

 ブランコが見当たらない。

「ブランコが無いんだが・・・・・・?」

「あるよ。あそこに」

 そう言って指差したのは、壁だった。

「は?」

「あの後ろにあるんだよ。この公園はちょっと特殊なのさ」

「・・・・・・って、待てよ!それじゃ俺が立っていたはずの場所の後ろには――」

「壁があったはずだよね」

 冷静に隼人は言った。


 俺がブランコのあるところに現れた瞬間、あの男が聖域指定を発動させて、壁を感じないようにした。

 アイツの前に立つまでは壁を見ていて、立った瞬間に能力を使われ、壁を忘れたという事か。

 そして俺を攻撃しながら壁を飛び越えた。そういえば1度、異常に高く飛んだ覚えがある。

 上手い事しやがる。俺が騙されるわけだ・・・・・・。


「でも、それって幻覚ってことなのか?」

「まぁそういう類になる。警察署であったのは、他人の意識をその部屋から反らしていたから。空間に関する幻覚だと思ってくれ」

 そう言って隼人は笑った。


「でも普通の人間には避けられないね。いくらそういう類に強くても」

「・・・・・・じゃあどうすれば?」

「その場所の構造を把握して場所を記憶する。それによって、明らかにおかしいものを削除していく。これが一番確実」

「そんなことが出来る奴はお前くらいだよ」

「いやいや、僕でも初めてきた場所では分からないよ」

 そう言って隼人は笑顔を浮かべる。

「あとは、脳を単純化させて、幻覚対する態勢をつける」

「バカになれって事だな?」

「何も考えるなって事だね」

 できるかそんな事。

 少なからず何か考えるだろう。

「まぁ・・・・・・。後はもうひとつあるよ」

「あるのか?」

「さて、じゃあ行こうか」

「・・・・・・」

 そう言って隼人は歩きだす。

 俺はソレを追っていく。

「どこに行くんだ?」

「犯人達のアジト」

 隼人は笑う。

「・・・・・・さっきから何で笑ってるんだ?」

「・・・・・・笑ってる?」

「笑ってるよ」

「ああ・・・・・・。無意識だね」

 さらに笑った。

 どういうつもりなのだろう。

「・・・・・・何なんだよ」

「何って・・・・・・」

 隼人はこちらを見ずに言った。


「アクターとの決戦だぜ?」


 顔は見えなかったけど、間違いなく笑っていた。

 運動神経が悪い割りに、好戦的な男だった。



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