42-後は探偵に任せるぜ-
「いいだろう。お前らの事情は把握できたからな」
龍兵衛さんはそう言って快く俺達全員を入れてくれた。
それから奥の部屋へと招き、部屋の鍵を閉めた。それから俺達を座らせて
「現状を確認するぞ」
と言った。
「あの女は濡れ衣を着せられている。そして、その犯人はこの街から逃げ出した・・・・・・。そうなれば俺達の管轄ではないが、その犯人達の模倣犯が存在し、未だにこの街に存在しているということだな」
「そういうことになります」
隼人はそう言って、外を見る。
「ここももしかしたら、大変な事になってしまうかもしれないんですが・・・・・・」
「心配いらない。今回の事件に当って、警察のお偉いさんたちが来ている。恐らく模倣犯はお前らみたいなやつらなんだろう?」
露骨な言い方を避けて龍兵衛さんは自分の推理を繰り広げた。
つまり、警察のお偉いさんたちはアクターについて情報を知っている、ということだろう。だが、龍兵衛さんも立場上、露骨な言い回しは出来ないわけだ。どこで聞き耳を立てているか分からないから。
「ああ、そういえば」
突然そう言って龍兵衛さんは東先輩を見た。
「東諒だったか?」
「そうだ」
「あの女と面談しなくていいのか?アイツを助けようとしたのはお前なんだろ?」
「今日元を俺と関わらせるわけには行かないんでな」
東先輩はそれだけ言うと、それ以上話をさせないかのように腕を組んで俯く。
「・・・・・・よく分からんな」
「あの、代わりに面談に行ってきていいでしょうか?」
俺はそう言って挙手をする。
「?いいけど・・・・・・」
龍兵衛さんがそう言って不思議そうな顔をした。
場所を思い浮かべながら歩く。
やはり夜遅くなると一般人の姿は見られなかった。しかし、警察の人々は忙しなく動いているようだ。お疲れさまです。頑張ってください。
「確か・・・・・・あった」
部屋に到着して、ノックもせずに俺は入り込む。
「嘉島か」
今日元さんがそこに居た。
「ということは、東は面談を拒否したってことか」
「・・・・・・あの」
俺は自らの疑問をぶつける。
「東先輩とはどういうご関係でしょうか?」
「・・・・・・うん。やっぱりその話題だよな」
今日元さんはそう言って、天井を見る。
「東も俺も、隼人みたいな立場でね」
そう言って俺を見た。
隼人みたいな立場・・・・・・。
「御曹司・・・・・・と、お嬢様ですか」
「そういうこと。んで、俺はそのお嬢様なんていう言われ方が気に入らなかったから、自らを『俺』って呼ぶことに決めた」
「・・・・・・」
「それでも、向こうは俺をお嬢様だと呼ぶ。そして、その身分に縛られる」
「・・・・・・」
「で、挙句の果て逃げ出しちゃったのさ」
そう言って今日元さんは笑う。
「・・・・・・それで・・・・・・」
「東が義賊として行動している原因は俺にある。アイツの義賊としての行動の1番最初が俺だったから」
今日元さんは昔話を始めた。
「俺が家を飛び出してから、ものの数ヶ月だ」
今日元さんはそう言って続けた。
その時は中学3年生で、丁度卒業式を終えて、中学生でも高校生でもない時期を見計らって家を飛び出した。出来るだけ計画してから行動していたつもりだ。生活用品を準備して、バイト先も見つけてから家をでていたからな。
バイト先でとにかく自らの生活費だけ稼いで、路上で生活していた。家に関しては考えていなかったわけではないけど、足がつくようなことはしたくなかったから。
しばらくして、俺は迷子になった。
昔から方向音痴で、迷子になる事が多くてね。だが、俺は既に自らの才能を持っていたから、まぁ大体何とかなっていた。
しかし、予想外な事が起きた。
そこがチンピラの溜まり場だったことを俺は知らず、そのままそこをうろついていた。
後はご想像通り、俺は奴らに捕まった。
で乱暴されかけた。
まぁ犯されかけた、ということだな。
そこに現れたのが、東だった。
第一声は、大きな声で
「死ね、お前ら」
だったよ。
別に俺を助けに来たわけではなくて、他の女にも色々と手を出していた連中が、俺を連れて行っているのを見て、我慢できなかったらしい。
東はその時点では、俺みたいな力は持っていなかった。
けど、そのチンピラたちは東の相手にならなかったよ。
「お前も俺と同じなのか」
東はそう言った。
「俺もつい最近出てきたばかりだ。今から俺は暴走族を作る」
「犯罪か・・・・・・」
「いや、俺は族は族でも義賊になる!」
堂々と彼は言ったね。
『ぞく』の字が違う事を知らなかったらしい。
どうも義賊になるための第一歩だったらしいよ。つまり俺は踏み台に過ぎなかった、と・・・・・・。
言いすぎ?
ああ、そうだな。それは東に悪い。少なくとも俺は助けられたのだから。
それをキッカケに俺は東に協力し始めた。同様に東もそれをキッカケとして、力を持ち始めた。
それだけだった。
それだけで私は十分だったのさ。
なのに・・・・・・。
「ああ、そうだ」
そう言って今日元さんは話を打ち切った。
「俺が今回、路地に居たのは、呼び出されたんだ」
「呼び出された・・・・・・!?」
つまり。
つまりソイツが犯人の関係者だという事では・・・・・・!?
「呼び出したのは、俺の父だ」
「え・・・・・・!?」
「いくら反抗して出て行って気に入らなかったからといって、俺を犯罪者にしようとするか、普通?」
分かっていたのか・・・・・・。
「俺の話を聴いてくれたお礼だ。本当は黙っていようと思ってたんだがな」
「・・・・・・どうしてですか・・・・・・?」
「こんなこと言ったら、お前らは犯人だけを倒しに行くだろうけど、東はそうは行かない。俺の家族も潰しにいく。まぁ別に俺の家族はどうなろうと関係ないんだけど、そんなことになれば、東は犯罪者だ」
そう言って今日元さんは、天井を見た。
「これ以上東を関わらせる訳には行かない」
東が俺に迷惑を掛けないように関わらないのと同じだ。
と続けた。
東先輩は恐らく気付いていないだろうが、今日元さんは知っていた。
東先輩が今日元さんに迷惑を――心配をかけないように努力している事を。
「さて。後は探偵に任せるぜ」
今日元さんはそう言って、手錠をパキッと破壊してから
「頑張れ~」
と気の抜けた応援をして去って行った。
どうでもいいけど、東先輩の心配はするけど、俺達の心配はしてくれないんだな。
まぁいいや。
俺もその後部屋を出て、廊下を歩く。
特に異変も無い。
安心安心。
そして元の部屋に戻ると。
その部屋だけが綺麗に爆発していた。