39-俺の名前は-
「ここだ」
龍兵衛さんは、その扉の横にもたれかかった。
「俺はここで待っている。好きに話せ」
「ありがとうございます」
隼人はお礼を言って、部屋に入る。俺も頭を下げてから部屋に入った。
「・・・・・・こんにちわ」
「・・・・・・」
隼人の挨拶にどうでもよさそうな顔をして、こちらを見る。
「貴方が容疑者さんですね?」
「・・・・・・」
「貴方が殺人を犯していないことは分かっています」
「・・・・・・」
「ですが、警察は貴方を拘留した状態から話すことはしないでしょう」
「・・・・・・」
その容疑者さんは、俯いたまま返事をせず沈黙を守り続けている。
顔が見えない。
「・・・・・・あの、返事してもらえます?」
「・・・・・・」
「僕ら、人に頼まれてきたんです」
「!」
ようやく、容疑者の人が静かに顔を上げた。ロングヘアーで顔が隠れて表情が見えない。
「・・・・・・」
「東諒という人です」
「・・・・・・へぇ。東に頼まれてきたんだ。ってことはお前ら相当優しい奴なんだな」
先ほどまでの沈黙とは裏腹に、とても気さくに話し始めた。
「ああ、最近あんまり口開かなかったから、だるくてしょうがないや。まぁ、それもある意味楽しみではあるか。それにしてもこんな事件に首を突っ込んでくるなんて珍しいね」
「・・・・・・」
唖然としてしまった。
先ほどまでの沈黙が嘘のような饒舌だ。
「ああ、失敬。申し遅れたね」
そう言って、その人は長い髪を後ろに回す。
「え・・・・・・」
その顔は、綺麗に整っていて、格好いいという印象だった。
しかし、どうみても・・・・・・。
「女・・・・・・!?」
「ん?東から何も聞いていないのか?まぁいいや。アッハッハッハッハ」
女性は、そう言って快活に笑ってから言った。
「俺の名前は今日元 終。君の言ったとおり、冤罪を掛けられているかわいそうな女性だよ」
『女性』のところで俺を見て、にやりと笑った。
「では、今日元さん」
隼人は特に気にした様子もなくそう言って話を始めた。
「いくつか質問しても?」
「いいぜ。好きにしな。答えられる事には答えてやる」
今日元さんはそう言って笑う。
そして、笑ったのも久しぶりだな、と言った。
その発言も気にせずに隼人は、
「では遠慮なく」
とだけ言って、話を始めた。
「じゃあ取り敢えず、自己紹介がてらに僕らのことを紹介しつつ、貴方のことも聞いて行きたいと思います」
「そう。好きにどうぞ」
「僕は王城隼人」
「王城って言うと、あの王城の関係者か?」
「その王城の御曹司です」
「ああ、そう。あ、ゴメン、続けてくれ」
「そして彼が――」
「嘉島奏明です」
俺は隼人が紹介する前に自らの紹介を始めた。
「そして、俺は残留思念です」
「僕は超脳力です」
「へぇ・・・・・・依存者か」
今日元さんはそう言って笑った。
依存者・・・・・・?
「アクターの別名の事だよ」
隼人が言うと、
「ああ、お前らはそっちで呼ぶのか」
と今日元さんは、意味深に言って笑った。
「やっぱりご存知なんですね?」
「ああ。俺は中でも、よく知っている方だ」
「貴方の力は・・・・・・?」
「『トランスミッション』。お前らで言う別名なら『電波変換』だ」
「・・・・・・隼人」
俺は隼人に語りかけた。
「何か?」
「俺が知っているゲームに同じような言い回しのを聴いた事がある。気のせいだろうか」
「それは木の精」
「森の精」
駄洒落であわせて、俺達はコレに関しては話を避ける事にした。
「じゃあ、質問を続けますね。どうして貴方は今捕まってるんでしょうか?」
「それだよ。聴いてくれよ、おい」
「聞いてますよ」
「俺、超絶方向音痴なんだよ」
・・・・・・。
・・・・・・ん?
・・・・・・。
「えっと・・・・・・?」
隼人も同じ疑問だったようだ。
つまり言いたいのは、『だから?』だ。
「俺が家に帰ろうかなって思ってた瞬間に、自分の居る場所が分からなくなっちゃって、そんでうろちょろしてたら、路地裏に居た。そしたら急に気絶しちゃって」
アッハッハッハッハッハ。
と快活に笑った。
「・・・・・・あの、どうしてアクターの能力を使わなかったんですか?」
「知らん。よく分からんが瞬間的に気絶させられたから。そしたら警察が来てそれで、怪しい奴だっていわれて捕まっちゃったんだよなー。それはもう流れ作業のように」
この人はどこまで本気で言っているんだろう。
「あ、でも、俺のことは放っておいてくれていいぜ。俺もそこまで追及したいわけじゃないし。それに俺の能力を使えば、警察署に居ても飽きないからな」
今日元さんはそう言った。
「だから、怪我はすんなよ」
「・・・・・・しかし――――」
隼人が口を開いた時、同時に扉が開いた。
「面会終了だ。残念だがな」
そう言って龍兵衛さんが現れた。
「ったく・・・・・・警察官ってのも楽じゃないぜ。上に振り回されまくりだからな。何かあったらすぐ連絡しろよ」
龍兵衛さんは少しやつれた様子でそう言って、俺達を送り出してくれた。
「帰るか・・・・・・」
「ゴメン。僕は少し、町のほうで用事がある」
「そうか。じゃ、また後で」
俺は先に帰る事にして、鍵を預かった。
夜ともなるとネオン街は若干、騒ぎ方が荒くなる。
が、俺達の家の住宅街はどちらかというと田舎なので、そんなに気にする事も無い。
そして田舎道を歩き、住宅街に着いた。ここから、数メートルで俺達の家だ。
「なぁ」
突然、隣の路地から声を掛けられる。
「お前、何者だ」
ソイツはそう言って俺を見た。
「・・・・・・アンタ!!」
この間屋上に現れた男だった。
「アンタ・・・・・・殺人鬼だろ?」
俺は冷静さを取り戻しつつ尋ねた。
「そうだ。お前は何だ?よく分からないが、強い気配がする」
「・・・・・・」
「殺しはしないけど・・・・・・、反抗勢力だよな?」
そう言ったときには俺の体にナイフを突きつけようとしていた。
「うぉわ!!」
な、何してくれてんだコイツ!
「お前・・・・・・!?」
「避けれたか・・・・・・。益々面白い、僕にとっては」
「何なんだよ、お前!」
「僕は如月。犯罪者抹殺計画を実行している殺人鬼だよ」
少年はそういう。
「勝手にやってるからばれるとアイツに怒られるんだけど、まぁ気にしない方針で行く」
さぁ、自己紹介はこのくらいでいいか?
如月はそう言った。