清州会議前日②(秀吉、秀長)
「それに、おかしいんじゃよな~、参加と場所が」
「どうしたんですか、急に」
もはやだらけを通り越して馬の上で仰向けに寝そべり空を見上げながら、秀吉は秀長に
語りかける。
危ないと言えばいいのやら、どうやったら馬上でそんな体勢でくつろげるのかと言えばいいのか、
戸惑いながら秀長は答える。
「じゃ、順番に言おうか?まず、会議が清州でやるのがよーわからん」
「それは、織田家の代々の本拠地だからでありましょう?」
織田家と言えば清州、といった印象が秀長にはある。
「そりゃ、お前が来た時は上様も清州におったがの。そもそも別に清州は代々の本拠地じゃないじゃろ」
「そうなのですか?」
「わしが仕えた時の上様の御城は那古野じゃったし、その後も小牧、岐阜、安土……
結構本拠地変えっとたんじゃよ」
尾張の信長の城と言えば清州城、といった印象が強いが、その城も言ってしまえば攻め落とした城で、
元々信長が生まれ育った城でもなかれば織田家の代々の城でもない(本家の城ではあるが)
「そう言われれば、まあ」
「今の織田家の本拠地は安土じゃし、そうでなくても岐阜じゃろ。なんで、
わざわざ清州まで行かにゃならんのよ。全員の本拠からも遠いぞ、尾張」
「柴田様は越前、丹羽様は若狭、池田様は摂津……確かにとおございますな」
全員が集まるのなら、確かに近江か、岐阜が集まりやすいだろう。
誰の本拠地、拠点から見ても清州は確かに遠かった。
「それになんで中将様がおらんのも解せんのよ。目を覚ましたのが数日前らしいからの、あれだけ長い間昏睡されてたんじゃ、当面会議やらなんやらできんのは致し方ない」
「兄者も面会を断られましたものな」
行きの途中に拝謁をしようと思ったが、まだ面会できるまでは回復していないとの事で、
帰りに長浜の途中で信忠に会う事にはなっていた。
「だったら代理でもええじゃろ、岐阜に斎藤殿もおるんじゃし、能力的にも家格的にも、当面の代理じゃったら文句言うやつおらんよ」
斉藤利治。
斉藤道三の息子である彼は信長の義弟で、信長の生前は信忠の家老であり、
同時に立場は末席とは言え織田の一門衆に数えられていた。
言われてみれば確かに、信忠の代わりに皆を纏める事は流石に無理にしても、
信忠の代理として会議に参加できる立場ではありそうである。
「まあ、中将様の本復を待てないほど緊迫しているなら話は変わりますが、
そうすると会議の場所が解せませんな」
「そじゃろ?中将様の本復までまてんゆーとるのに、なんでこんな遠くにわざわざ本拠地空けて
ちんたら時間かけて尾張に集まるんじゃ」
急ぎであるなら場所がそぐわず、急ぎでないなら信忠の復帰を待たない事がおかしい。
「北の上杉は柴田の親父殿が対応しとるじゃろ。西の毛利は儂ら羽柴でなんとかなっとるし、
四国の長曽我部は当面四国統一以外に手は回らん。甲斐、信濃が荒れてはいるが三河守(徳川)殿が
なんとかすると言っておるし、別に急いでなにかを決めんでもいいわけよ」
「……確かに、少し妙ですな」
「じゃろ?」
「なーんかきな臭いんじゃよな……これ、なんかきいとらんなにかあるぞ」
秀吉は、面倒そうな顔をする。
余計な面倒ごとに巻き込まれそうな、嫌な予感を感じていた。
「兄者は、今後どうされたいので?」
この兄は今後、どうしたいのだろう。
思えば、本能寺の変以降、目の前の事に精一杯で今後の兄の方針を聞いていなかったなと、
秀長は兄の考えを聞く。
「どうなんじゃろうな……正直、わしにもよーわからん」
秀吉は空を見上げながら、ぽつり、ぽつりと言葉を話す。
「……わしはの、ずーっと、草履取りの頃から、信長さまを追いかけとった。信長様の追い求める世界に。ついていこうと必死じゃった」
上様から信長さまに言葉を変えて、秀吉は話し出す。
「信長さまには、はっきりと見えておったんじゃろうな……あるべき国の形、世の形が。
じゃから、それとは違う、それを邪魔するものが許せんかった。最初はわっけわからんかったけどよ、
なんとなーく、わしにも段々とわかるようにはなってきてたんじゃ」
秀吉の瞳が涙に濡れているように、秀長には見えた。
「ほんに、もうちょっとじゃったのにな……信長さま」
「兄者……」
「……今は、信長さまの御意志を継ぐ事しか考えれん……それだけは、どこの誰にも邪魔させん」
最後の言葉は、とても強い意志を感じた。
少なくとも秀長には、そう感じた。
「……ま、とりあえずはお手並み拝見といこうかの、柴田の親父殿」




