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7-1

「どうにかなったか」


 深い森の中に一軒、ぽつんと小屋がある。こじんまりとしたログハウスだ。

 そこで美女が一人、つぶやく。


 アルテミナだ。


「ただいま戻りました」

 アポロが戻って来た。

 専用に誂えた止まり木に止まる。

「よくやってくれた」

 アルテミナは梟の頭をそっと撫で、

「いえ、大したことはしておりませぬ故」

 梟は謙遜するが、まんざらでもなさそうであった。

「いや、キリヤを守ってくれたことは大きい」

 アルテミナはアポロを撫でる手を止めた。

「彼は何かを持っている。大きな力ではないが、何かがある」

「アルテミナ様」

 小屋の脇から狼が出てきた。

「アイオロス」


 狼はアイオロスという。


「俺にはあの小僧に何があるのかは分かりません」

 狼はアルテミナとアポロから少し離れたところで立ち止まり、

「少なくとも、何も感じない」

 アルテミナの考えを否定する。

「・・・アポロは何も感じないか?」

「・・・自分の所感では、何かがある可能性は否定できません」

 アポロは少し間を置き、

「戦闘能力はともかく、応用が利く。その点は認めなくもありません」

「応用が利く、とは?」

 アイオロスは不機嫌そうだ。

「・・・ふむ」

 アポロも気付いているようではあるが、

「今の自分が置かれている状況を考慮し、切り抜けられる力がある」

「切り抜けられる力・・・だと?」

「ある種の判断力とも言える。それが有ると無いでは大きく違う」

 確かにな、と思う。


 アポロが言うように、キリヤにはその場の状況に合わせて素早く判断する力があるように見える。


 それは彼が言うように、一種の判断力であり、臨機応変に対応できる柔軟性があるとも言える。

 もちろん、キリヤ以上にできる人間もいるだろう。逆に彼以下の人間もいる。だが、ああいった命に関わる状況下で、かつ他人の命運も握っている状況で素早く判断できる者が一体どれほどいよう?

 それこそ、指で数えるくらいのはずだ。

 そう考えると、キリヤの応用力は大きいように思える。

「なるほど。だが、神力耐性が無い。それはどうする?」

 アイオロスも一応は理解しているようだが、それでも気に入らないらしい。

「神の力に対する耐性や潜在魔力量に関しては残念と言わざるを得ない」

「威嚇の効果が三分程度では大したものではない」


 神の力・・・我々が持つ特別な力、神力。


 地上の者たちが使うスキルとは一線を画す、強力なスキル。それを使うためには多くの魔力を必要とするが、それと同時に耐性も必要になる。

 アポロが与えたバードアイと威嚇・・・特に威嚇は相手を縛る強い力であるために、大量の魔力と同時に、耐性を必要とする。

「それにしても・・・」

 威嚇は仕方がないのだが、バードアイは特に支障なく使えているようではあった。その点が気になる。

 バードアイも魔力を必要とするスキルだ。

 威嚇と違う点は、相手に強い影響を与えるスキルではなく、自身にだけ効果が発揮するところだ。それ故に強い反動もないわけだが、それでも多少は影響が出る。

 特に肉眼で見る景色ではなく、広範囲や極小と範囲を絞ることができることは、脳に大きな負荷を与える。それなりに耐性がある者でもそれなりに影響は出るようで、頭痛や眩暈は出るはずだったが、どういうわけか彼にそういった影響は見られなかった。

 キリヤ自身に何かがあるのか・・・?

「逆に問おう。お前は少年の何が気に入らんのだ?」

 アポロも気にはしていたようで、話が一段落したところを見計らって尋ねた。

「気に入らんように見えるか?」

「我もそこまで阿呆ではない。それに、お前との付き合いも長い。それくらいはお見通しである」

 我々の付き合いは生まれて少ししてから、ずっと変わっていない。

 アイオロスの機嫌くらい、いつでも分かる。

「アポロよ。俺が気に入らんのはヤツの性根よ」

「性根だと?」

「ああ、そうだ」

 アイオロスはアポロをしっかりと捉えていて、

「あのグズグズした思考、態度。見ていて腹が立つのだ」

 どうやら、キリヤの性格の問題のようだ。

「まあ、分からなくもないよ」

 アポロも思うところがあるらしく、

「面倒事を避けたがる傾向はある。野営する手間は惜しまない割に、モンスター退治は惜しむ。今一つ、理解に苦しむ」

 その点も分からなくもない。

「この世界で成長するためには、大なり小なり生活する必要がある。普通の生活でも成長できなくもないが、手っ取り早く経験を得るならモンスター退治が最初に思い浮かぶが、それを避けるように動く・・・まるで成長を避けているかのようだ」


 ラヴィリアでの成長は大きく分けて二つ。


 一つは普段の生活。

 つまりは生まれ、食事を取り、学び、睡眠を取っていく。普通の生活をすれば得られる経験。それらで成長していく。

 もう一つはモンスターを狩ること。

 下界に多数存在するモンスターを倒すことで経験を得ていく。

 どちらでも経験は得られるが、得難い経験であるほど価値が高く、得られる経験も多い。モンスター討伐は激しい戦闘と危険を伴うため、普段の生活とは比べ物にならないくらい多く経験を得られる。

 ラヴィリアで大成する人間の一部は、モンスター討伐を行った傾向はある。王族や貴族などの高い地位にいる人間たちも、地位を得る前に狩りを行ったはずだ。

 もちろん、モンスター以外との戦闘もあるが、戦うということは、生物にとって避けられない行為である。自らが倒れる結果も避けられない。勝ち得た生に価値がある。故にラヴィリアでは多く経験を得られるようになっている。


 そういう風にこの世界は創られたのだ。


 下界の人間たちも長い営みの末、そういった構造になっていると気付いているだろう。それを利用しない人間も多いが、使わない手はない。

 冒険者のような立場の者や野心家は特に。

 キリヤも例外ではなく、モンスターを狩ることが成長に繋がるわけだが、彼は戦おうとはしない。

 例の赤ん坊や周りの助力はあるにしろ、それなりに戦う力はつけてきている。相手にもよるが、一人でモンスター討伐も十分可能だろう。

 自信を持ってもいいと思うのだが、アポロが言うように、避ける傾向にある。


 いや、正確に言うなら、人も避けている。


 彼に一体何があったのか?

 そういう思考、立ち回りをする理由があるはずだが、今は何も見えない。

「俺は奴を認めるつもりはない」

 アイオロスはゆっくりと森に向かって歩いていく。

「アルテミナ様が協力するよう命ぜられたとしても、今の奴に協力する気はありません。では」

 そういった彼は森に入っていってしまった。

「・・・すみません、アルテミナ様。後で諭しておきます故」

「いや、構わない」

 思うところがないわけではない。私もそれなりに気になる点はある。

 だが、失うには惜しい人材であることも確か。

「アポロはこのまま、キリヤの中で待機しておいてくれないか。必要であれば、助言や力を使うことも許可する」

「承知しました」

「アイオロスは私に任せてくれ。後ほど話をしにいこう」

「・・・では、私はこれで」

 アポロは羽ばき、空に向かって飛び去って行った。

「・・・さて」

 アイオロスと話をしなければいけないが、それよりも先にキリヤのことを理解する必要があるか。

 今のところ、彼に可能性があることくらいしか分かっていない。アイオロスを説得するためには、彼の根底にある思いや思考を理解しなくてはいけない。


 それに加えて、今の彼を取り巻く状況も気になる。


 町を吹き飛ばし、ガノダウラスを呼び寄せてキリヤを襲ったあの老人・・・一体何者だ?

 強力な魔法と浮遊能力を有する。それだけならば、下界の魔術師にもそこそこいるだろう。だが、問題は空間転移能力だ。

 あれは下界のスキルには無いレベルのものだ。キリヤの側にいる赤ん坊も同じことをやってのけたようだが、あれは彼女の創意工夫と技術によって成り立ち、かつ危険であるもの。一方の老人のものは、非常に安定しているように見えた。

「・・・まさかとは思うが」

 仮にそうであれば、キリヤの身が危ない。

 今のところ、散発的に仕掛けてきているようだからまだマシと言ったところだが、詰めて仕掛けられるとさばき切れない。

「その件も調べなければいけないが、急がないといけないな」


 これから先、アイオロスの力が必要になる。

 後手に回っては手遅れになる。その前に彼を説得しなくては。

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